2024/02/04
北海道のヒグマ狩り。頼れる仲間たちとクマを追い込め ~勝負の2日目~【後編】【Guns&Shooting】
別海町でヒグマを追う
エゾジカ猟をしていて偶然ヒグマに出くわして撃ったという場合、それを“ヒグマ猟”とはいわない。ヒグマに狙いを定めて追跡し、それを撃ち獲ろうとするのが本当の“ヒグマ猟”なのだ。そんなヒグマ猟の現場に、ついに立ち会うことができた。
※この記事には実際の狩猟の写真が含まれます。流血などが苦手な方はご注意ください
勝負の2日目
19日朝、日の出とともに足跡を探しに向かう。昨日の足跡のほかに新しい足跡も併せて探す。普段からヒグマの渡るポイントを心得ているのでポイント以外では通常走行だが、足跡を探す際は徐行して慎重に進む。万が一足跡を見逃せば一巻の終わりだからである。
そして走り始めて間もなく時野氏がブレーキを踏んだ。昨日はわずかに雪が降った影響で足跡がわかりにくいが、これは昨日のヒグマの足跡だそうだ。
そして次に道路を渡るであろう場所先回りしたところ、ここにも足跡があった。大きさ的には150kg程度とのことで、昨日の夜に渡ったのではないかとの推測だ。
ここから先は先回りすることが困難なので、ほかのヒグマの足跡を追うことにした。
陽もじゅうぶんに上り、次なるポイントへ向かう。ヒグマがいるであろう場所はおおよそ把握している。だから闇雲に探し回るのではない。積雪が始まる頃にヒグマは冬眠の巣穴に向かいはじめる。林道や道のない山のふもとまで向かってしまった場合は先回りすることが困難になるので、その前に足跡を探したいところだ。
目的地の近辺を捜索するとあっという間に足跡を発見する。時野氏はサラピン(あまり時間のたっていない足跡のこと)の足跡にのっかったという。写真ではわかりにくいが、昨日の僅かな積雪にもかかわらずこの足跡には雪が全くのっていなく、肉球や爪の形まで確認ができる。私が見てもまだ数時間前に付けられた“通ったばかりの足跡”だとわかる。
ここからは時間との勝負となる。時間が経つにつれてどんどん山の方へ移動してしまうからだ。そして先回りのできないところに入ってしまった場合は捕獲が難しくなる。そこで次に渡るであろうポイントまで車を走らせる。
そのポイントでもすでに足跡があった。足跡はさっきよりもより新しいことがわかる。さらに先回りをし、追跡をする。これを繰り返した。
着いた先は過去に捕獲経験もある場所だった。だからヒグマの通るルートが手に取るようにわかるそうだ。そこで我々は先回りをし、4、5名が配置につく、本来ここからが取材で一番重要なところであるが、もはや今すぐにもヒグマがこちらに向かってくるかわからない緊迫した状況だ。だから自分の銃にも実包を装填した。
エゾジカ猟とは違う。装填した銃とカメラの両方を持つことはできない。カメラマンが同行していれば写真が撮れただろうが、今回も専任のカメラマンがはいない。それに現実問題、カメラマンだってヒグマの怖さを知っていれば自分自身を守るために、カメラではなく銃を持っていたいはずだ。
読者の皆さんには申し訳ないが、現場はそれほど緊迫した状況であった。今まで様々な猟をしてきたが、この緊張感はヒグマ猟でないと味わえない。まさに興奮の連続だ。
ヒグマが勢子に追われこちらに逃げてくる様子がリアルタイムで伝わってくる。想像してみてほしい、自分達の待つタツマの300mくらい先からヒグマがこちらに向かってきているのだ。来るかもしれないではなく、確実に向かってきているのだ。時速60kmも出るだろうと言われる速度で向かってくる。こんな緊張感はエゾジカ猟にはない。これこそが“ヒグマ猟の醍醐味”なのだということ実感した。
そしてその緊張の中、数分後、100mもない場所で太い銃声が2発連続で響いた。ヒグマ猟ではボルトアクションライフルを使用しているが、まるで自動銃のような連続音だった。音のする方へ向かってみると時野氏と小野田氏がいた。
今回、時野氏が使用した銃はウインチェスター モデル70.375 H&Hだ。使用しているスコープはZEISS V8 1.8-14×50である。1.8-14倍という事で近射から遠射まで対応できる優れものだ。何よりもレンズのコントラストの良さに驚かせられる。このV8シリーズのチューブ径は36mmと極太サイズだ。
このほかにV8 4.8-35×60 やシュミット&ベンダー PMⅡ ハイパワー5-45×56も使用している。用途に合わせてスコープは使い分けていることで最適な状況を作っているのだ。
時野氏が私に言っていたことで印象深い言葉がある。
「ヒグマ猟はひとりじゃできないんです。みんながいるからできるんです。だから楽しいんです」
単独猟には独特な醍醐味がある事は私もじゅうぶんに判っている。しかし、メンバーみんなが一つとなって行動するグループ猟には別の楽しさがある。同じ地域に住み、同じ考えを持つ仲間に巡り合え、そんな狩猟を楽しんでおられる時野氏を羨ましく思った。
そして、そんなヒグマ猟は私がとても真似できるものではないということも実感した。なぜならば彼らはヒグマのことを知り尽くし、理解し、地形を熟知している。また、膨大な経験値に基づいてヒグマの行動を予測できる。さらに勢子の小野田氏や時野氏のような強靭な足腰の持ち主がいて、何よりも一心同体に行動できる掛け替えのない仲間がいなければ、このヒグマ猟は成り立たないのだ。
私はこのような一朝一夕で習得することのできないヒグマ猟を、一緒に体験させていただいたことを光栄に思った。そしてそのことを心から感謝し、彼らを尊敬をしながら帰路についた。
大切なことが一つある。
“ヒグマのことを知り尽くした彼らだからこそ、ヒグマを追い込むことができるのだ”
このことは決して忘れないでいただきたい。同じような事を安易な気持ちで真似すれば、大きな事故にもつながりかねない。たとえ冬眠する巣穴があろうとも安直に近づかないでほしい。
自然の中では人間は実に無力なのだ。
銃を使うことによりヒグマに勝るパワーを持つこともできるが、やるかやられるかという極限の精神状況のなかで、冷静かつ的確な判断を瞬時にすることは非常に難しいことを忘れないでほしい。
そして、はっきり言えることがひとつある。「一番スリリングな狩猟は何でしょうか?」と問われれば、迷わず「ヒグマ猟です」と自分は答えるということだ。
TEXT&PHOTO:高橋 誠
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この記事は2022年3月発売「Guns&Shooting Vol.21」に掲載されたものです。
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