アウトドア

2023/12/28

ヒグマとの出会い ~北海道で猟をする~【Guns&Shooting】

 

~ 道猟 ~

ヒグマを獲りたい

 

 

 関東で狩猟を始め、その後、期待を胸に北海道に移住して、3シーズン目の終わりを迎えようとしている。自分なりにこの3シーズンの猟を振り返りながら、今年自分が目指したことについて書いてみたいと思う。

 

前のレポートはこちら

 

 

3年目 ヒグマ猟への挑戦


 こういう経緯で迎えた3年目である今期。気持ちはヒグマに向かっていた。昨年、姿さえ見ることができなかったヒグマだ。せめてその姿を見たいと意気込んで、猟期が解禁するなり山に通い詰めた。去年は闇雲に山を歩き回った結果、足跡を眺めるくらいのことしかできなかったので、今年は方針を変えることにした。


“足跡よりもエサを探そう”

 

コクワ(サルナシ)の実。ヒグマの好物であり、人間が食べてもうまい

 

堅果類を食べたヒグマの糞


 冬ごもり前の時期の定番の食料としてヤマブドウ・コクワ・オニグルミなどが挙げられることが多いので、とにかくそういった植物を探し回ってみようと考えた。お世辞にも草木の生態について詳しいわけでもなかったので、結局は闇雲に探すことになったのだが、それでもたわわに実るヤマブドウやコクワをいくつも見つけた。たっぷりコクワを食べたであろう糞もずいぶん見つけた。オニグルミを食べた糞も多かった。

 

新しいヒグマの糞を見つけると、時間を空けて何度も確認しにいき、徐々に朽ちていく様子を観察するようにしている。これはもうずいぶん流されている


 とにかく糞を見つける度にほじくり、食べたものを観察し、その食べ物が実る場所を探す。さらに糞を見つけ、食べたものを同定し、餌を探す……その繰り返しだった。


 あるとき、ヤマブドウの蔦が絡みついた木を見つけた。見上げてみたがほとんど実がない。まだ実がなっていないのか? 鳥が食べてしまったのか? ヒグマが食ったのか? 「う~ん」と判断がつかないまま項垂れるように足下を見て驚いた。

 

連なる足跡を見ると、ヒグマが歩いた姿が目に浮かぶようで興奮する

 

ヒグマは視界が開けた場所ばかりを歩くわけではない。この日も足跡はこの藪へと向かっていた


 そこに割と新しいヒグマの足跡があり、笹が申し訳程度に食われていた。自分に都合のいい想像だが、ヒグマも自分と同じことを考えたのかもしれないと思った。ヤマブドウの蔦を見上げ、実がないことに舌打ちでもして、せめてもの気慰みに足下の笹を食いちぎった。そんな姿が浮かび上がった。初めてヒグマとシンクロしたような気がした。

 

四つん這いになってヒグマの足跡が続く藪を覗くと、笹が作るトンネルのようになっていた。この先まで這いつくばって追った


 別の日、この同じエリアで、生まれて初めてヒグマと出会った。

 ヒグマは針葉樹林帯と笹藪の間を歩いていた。私がその姿に気付くと同時に飛ばれて、姿を消し、深い笹藪に飛び込み、姿を消した。笹藪をかき分け移動する音は、まるで巨大な恐竜のようだった。


 鉄砲を構える暇もなかったが、正直に言えばその姿に見とれてしまって、たとえあと数秒の時間があったとしても構えられたかどうか……。あんなデカい動物が山を歩いているのか、と感動してしまっていた。こんなすばらしいことがあるだろうか?


 去年は足跡しかみられなかった。今年は姿を見ることができた。大満足の出来事ではあったが、ハンターとしては、それでは満たされなかった。

 

カラスが長いことシカの上に乗っていた。毛の中にいる虫をついばんでいたのかもしれない

 

ヒグマの圧力

 

 1度姿を見たのだから、2度目だってあるはず。そう考えてとにかく山を歩いた。
 ある日、足跡を見つけた。藪と藪の間にある、草のない空白地帯を延々と歩いていた。どうやらわりと新しいようで、期待を込めて追うことにした。

 

尾根を越え、藪を越えて足跡を追っても追いつけないことの方が多い

 

ヒグマの足跡を見つけると、幅を測り「前に見た個体と同じかもしれないな」と妄想するのも楽しみにしている

 

 足跡はのんびりとした足取りで、藪に沿って淡々と進む。立ち止まることも、寄り道することもなく、どこかを目指している。藪が大きく曲がり込み、それに沿うように足跡も曲がる。それに沿って自分も回り込むと、藪の向こう側を覗くとヒグマがこちらを向いて待っていた。20mほどの距離だった。


 まさに“待っていた”という状態だった。こちらを向いて四つん這いで、慌てるでもなく、ただじっとこちらを見ていた。足跡を追いかけていたので、あわよくばヒグマの尻に追いつくことは想定していたが、完全にこちらを向いて立っている姿は想像できていなかった。つまるところ、ヒグマは私の気配を察して、振り返り待っていたわけだ。

 

爪の跡まで見えるヒグマの足跡

 

雪が積もると足跡が残りやすくなるが、同時に、冬ごもりに向けてのカウントダウンでもあり、気持ちが焦るようになる


 正直、この状況にたじろいだ。本当に恥ずかしい話ではあるが、石を投げれば当たるような距離で、間に障害物の1つもなく、鉄砲に弾も入っていない状態で、ヒグマと近距離で向き合い、私は顔を引っ込めて藪に身体を隠した。

 急いで弾を装填したものの、改めて顔を出すことを躊躇した。距離が近いこともあり、撃って即倒せず、万が一にこちらに向かってくることになったらひとたまりもない。

 

 何秒経ったか、今となっては記憶が曖昧なのだが、たぶん数秒の躊躇の後で意を決して藪の向こうを覗いたとき、すでにヒグマの姿はなかった。そしてそのことにホッとした。

 悔しくなったのは何分か過ぎて、気持ちが落ち着いてからで、あの瞬間、ヒグマがいないことに安堵した自分に驚いた。それほどヒグマの圧力がすごかった。

 

雪が積もりはじめたことをきっかけにこれまで行動していた山域から、大きく移動を始めたように見えた

 

藪の中も迷うことなく一直線に進み、隣の山へと進んでいった。途中で深い藪に入られて、追い切れなくなったが、その後、この辺りでヒグマの痕跡を見ることはなかった。冬ごもりしたか、あるいは居場所を大きく変えたか?

 

TEXT&PHOTO:武重 謙

 


 

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この記事は2022年3月発売「Guns&Shooting Vol.21」に掲載されたものです。

 

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