アウトドア

2023/12/30

広大な北海道で猟をして思うこと【Guns&Shooting】

 

~ 道猟 ~

ヒグマを獲りたい

 

 

 関東で狩猟を始め、その後、期待を胸に北海道に移住して、3シーズン目の終わりを迎えようとしている。自分なりにこの3シーズンの猟を振り返りながら、今年自分が目指したことについて書いてみたいと思う。

 

前のレポートはこちら

 

※この記事には実際の狩猟の写真が含まれます。流血などが苦手な方はご注意ください

 

 

4度目の遭遇

 

 その後、さらに2度ヒグマを目撃した。この猟期で通算4度の遭遇をしたことになる。4度目は思い返しても、あの対応で良かったのかわからずにいる。

 

雪が積もり川が凍結し始めると、まだ凍結していない川の周囲にシカが集まる印象がある

 

 ヒグマの痕跡が多い一帯を歩いていた。トラッキングできるような新しい足跡は見つからず、昼も過ぎ、やや諦めムードになっていた。谷間を歩いていて、物音がして尾根を見上げたところ、ヒグマがいたのだ。

 直線距離で30mそこら。かなり傾斜のキツい斜面の上にいる。位置関係を分かりやすく言えば、“あのクマが足を滑らせて落ちてきたら、ちょうど自分に当たる”という状況である。

 

こちらに気が付いていない獲物を見つけること。それこそ忍び猟の醍醐味だろう


 ヒグマから逃げ隠れてしまったあのとき、ある人に「まだクマを獲る準備ができてなかったんだよ」と言われた。クマを獲ろう獲ろうと動いてはいても、心の底はまだ準備ができてなかった。まさにその通りだった。それからは「ヒグマを獲るぞ」と、獲る場面を頭に思い描き、脳内シミュレーションも何度もやり、獲るための心の準備はしてきたつもりだった。


 鉄砲に弾を込め、銃を構え、スコープ越しにヒグマを見た。スコープの中でヒグマがこちらを見ていた。まだ逃げていない。お互いに動きを止めてにらみ合っていた。しかし撃てずにいた。

 

雪が深くなるにつれ、逃げるシカが立ち止まる確率が上がるように思う。焦らず、立ち止まるのを待った方が獲れることも少なくない


 ヒグマを撃つときの定石というか、先輩方の教えとして「基本的に上にいる熊は撃つな」と言われている。撃って、転がり落ちてくれば自分に当たるような位置関係である。起き上がり反撃されれば終わりだ。あるいは、この状況で迷わず撃つ人もいるのかもしれない。迷うこと10秒そこらでヒグマは首を振り、斜面を登り藪に潜った。


 私はその場にへたり込んだ。座って、いま起きたことを何度も何度も振り返った。こんなチャンスはない。心の持ちようとしても、「撃ってもいい」という気持ちはあった。撃つ準備もできていた。

 

 ヒグマと自分の距離は引き金1つ分だった。
 撃たなかったことが正解だったのか、撃つべきだったのか、いまだに分からずにいる。その後も山に通ったが、やがて強い寒気が入り、雪が積もった。ヒグマは穴に入ったのか、痕跡はもう見つからなくなった。

 

趣味のひとつが、山の中で印象的な木を見つけること。勝手に名前をつけて、地形図に印をつけていたりする。ちなみにこれは「オズのカカシ」。なんとなくオズの魔法使いのカカシのように見えたから

 

気が抜ける

 

 狩猟というものが大好きで大好きで、暇さえあれば鉄砲を担いで山に行きたいタイプではあるのだが、このヒグマが穴に入っただろうと確信したとき、やりきった達成感と、それでも獲れなかった不甲斐なさと、でも4度も目撃できたというちょっとした満足感で、燃え尽きた。

 


 年末年始の時期で家族と過ごす時間を増やしたから、というのもあるが10日ほど山に行かなかった。珍しいことだった。
 しかし冷凍庫のシカ肉の在庫が減ってきて、妻に「シカ肉なくなっちゃうよ」と言われて、「ああそうだった」と目が醒めた。そして家族のために肉を獲るという初心を思いだした。冬の間に1年分のシカ肉在庫を作ることを目標にしているので、それをサボるわけにもいかない、と。


 ちょうど雪が積もったところで、スキーと鉄砲を抱えてシカ撃ちに通うようになった。シカを獲り、それをソリで引きずりながら「来年こそはヒグマを……」と考えずにはいられなかった。

 

北海道は広い

 

 これから関東などから北海道へ移住したいと思う人がいたら、強調しておきたいことの1つが“北海道は広い”ということだ。

 

猟期後半になると冷凍庫が埋まり、撃つより撮ることの方が増えてくる。それでも欠かさず山に通うように心掛けている


 たとえば私のいる道北エリアで「氷点下10℃で寒いな」と思っているちょうどそのとき、内陸部では氷点下25℃を下回っていたりする。雪が積もってスキーやスノーシューがないと山に入れないな、と思っているとき、南側の沿岸部ではまだ雪が降ってもいないなんてこともある。


 今年、じつは道内で遠征狩猟をする機会もあったが、気候の違い、植生の違い、山の形の違いで本当におもしろかった。まだ北海道での狩猟は3年目とはいえ、自分の住む地域のやり方があたりまえでないことを実感した。

 


 もしも「こういう狩猟がしたい」「こういう生活がしたい」という強い気持ちがあるなら、ぜひその地域に実際に行って、その地に住む人にやりたいことを率直に尋ねてみると良いと思う。同じ北海道でもいろんな特徴があるものだ。

 

 なにはなくとも、北海道の狩猟は本当におもしろい。それだけは間違いない。
 来期はまたヒグマ探しから始まる。また“悔しい”と書かずに済めばいいのだが……

 

獲物が獲れるとホッとすると同時に、単独猟だと喜びを分かち合う仲間がいないということを実感するのは私だけだろうか?

 

TEXT&PHOTO:武重 謙

 


 

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この記事は2022年3月発売「Guns&Shooting Vol.21」に掲載されたものです。

 

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