2023/12/24
【陸上自衛隊の戦闘車輌】“戦車を動かすお仕事” 整備員へのインタビュー
戦車や装甲車輌を“整備している”のはどんな人たちなのか?
戦車を中心とする機甲部隊は戦場を迅速に機動し、高い突破力を備えることで地上戦闘の切り札となりうる存在だ。陸上自衛隊においても機甲部隊に配備される戦車など各種装甲車輌は花形装備ではあるが、高価で複雑なため運用にはハイレベルな技術力を必要とする。それゆえ戦車の乗員や整備員など、こうした車輌を“動かしている”隊員とはどのような人たちなのか、ミリタリーファンでなくとも興味が湧くところなのではないだろうか?
2023年3月に発売されたホビージャパンMOOK「陸上自衛隊の戦闘車輌」では、取材時に隊員の方々にインタビューする機会を設けていただくことができた。今回は陸上自衛隊の中核となる職種の人材育成を行なっている富士学校にて、車輌の整備を手掛けている富士教育直接支援大隊車両整備隊の整備員の方にお話をうかがっているので、ご紹介していこう。
※インタビューさせていただいた隊員の方の所属・階級は2022年取材当時のものです。
富士教育直接支援大隊車両整備隊
装輪車整備小隊 装輪車整備陸曹
中村拓実 3等陸曹
――ご自身の役割について教えてください。
中村:被支援部隊である富士教導団が装備する、装輪車全般の整備を行なっております。具体的には各種トラックや装甲車、トレーラー、オートバイなどの整備で、範囲はエンジンや脚回り含め全般にわたります。
――この職種を選ばれた理由は。
中村:入隊以前は一般企業で工具を販売する営業マンでしたが、少し自衛隊に興味があり、やがて「自衛隊はいいな」と感じるようになって入隊しました。その過程で整備などを手掛ける「武器科」という職種のことを初めて知り、工具を売る側だったのが今度は工具を使う側として仕事をしたい、と考え武器科を志望しました。
――この仕事の難しさについて。
中村:扱うものが基本的に重量物になってくるので、1つのミスで人命にかかわってくる、ということが多くあります。そのため、普段から安全管理には特に気を使って整備を行なうようにしています。
――演習が終わった後などの整備は徹夜作業になったりするのでしょうか。
中村:場合によってはありますね。整備台数が多い期間、いわゆる繁忙期にあたるようなときは集中的に整備を行なう、ということはあります。
――装甲車輌の整備となると、重い部品を扱うイメージがありますが、力仕事もあるのでしょうか。
中村:装甲車輌の場合、一般的な民間車輌に比べてトルク(ボルト締め付け時の力など)も非常に重くなってきますので、そのあたりはどうしても力仕事になってきますね。
――整備する車輌に愛着がわくことはありますか。
中村:そうですね。整備で大変な作業などがあったりすると結構印象に残りますから、そうして整備した車がちゃんと動いているのを見ると、愛着がわいてきます。
――特にお気に入りの車輌は。
中村:16MCV(16式機動戦闘車)でしょうか。最近触れる機会も多いのですが、とにかく優秀な車だと感じています。設計段階で整備する側のこともよく考えられていて、非常に整備しやすい車です。昔の設計の車だと整備性の面で結構不自由なことがあったりするのですが、16MCVはそういうことが大変少ないですね。故障も少ないし、何よりたたずまいやシルエットなどが格好いいと思います。
――整備のお仕事のやりがいとは。
中村:このような装甲車輌を扱えるのは、自衛隊ならではということがあります。そして、乗っている人たちの命を預かって整備しているわけですので、自分が整備した車が訓練などで実際に道路や演習場を走行し、ちゃんと動いているのを確認できた時などは働いている実感がありますし、やりがいを感じますね。
富士教育直接支援大隊車両整備隊
装軌車整備小隊 装軌車整備陸曹
秋山 智 1等陸曹
――ご自身の役割、この職種を選ばれた理由について。
秋山:私は装軌車整備陸曹で、「装軌車」とは脚周りに履帯(キャタピラ、トラックなどとも呼ばれる)を備える車輌全般を指します。以前は機甲科で、戦車教導隊では90式戦車、本管(本部管理中隊)では74式戦車と61式戦車も扱っていました。部隊のほうでも整備を行なっていましたが平成14(2002)年の部隊改編の際、機甲科から武器科に職種転換することになりました。装軌車整備は整備工場での整備だけではなく、例えば演習中に履帯が切れた車輌を回収に行ったり、現地で修理したりすることもあります。ちなみに、この装軌車整備小隊では90TKR(90式戦車回収車)や78SR(78式戦車回収車)なども配備されており、戦車の回収任務ではこれらの車輌に乗車していきます。
――装軌車を扱うことの難しさとは。
秋山:装軌車はやはり大物である点と、故障の兆候を見極めるのがとても難しい点でしょうか。兆候は音やニオイ、排気煙の変化など、そういったほんの些細なことから察知するのですが、察知できるかどうかは経験則に頼る部分が大きいため、ノウハウを先輩から学んでいく必要があります。昔は厳しい先輩方が多かったのですが、厳しさの中にも愛情がありました。「先輩に分かって俺には分からないのか」と悔しさを感じることもありましたが、色々と教わる中で先輩への尊敬の念も生まれました。とにかく装軌車の整備は、五感をフルに使う仕事なのです。
――一人前の装軌車整備員になるためには、どれくらいかかるのでしょうか
秋山:私は平成5(1993)年に自衛隊に入隊し、部隊配属されてから約30年ずっと整備員をしてきました。そして、装軌車整備陸曹(機甲整備陸曹含む)になってからも約30年目ですが、それでも学ぶべきことは常にあり、一人前になる途上だと思っています。
――特にお気に入りの車輌は。
秋山:私の場合は、先にお話した90TKRや78SRといった回収車で、「この車輌に乗りたい」と思って装軌車整備陸曹を目指したほどです。今は回収車に乗車しても車長を務めることが多く、操縦できないのがちょっと悔しいですね。戦車では、90式が好きです。入隊当時は最新鋭の戦車でしたし、やはり重量感があって一番印象に残っています。前から迫ってくるとほかの車とは比較にならないほどの迫力があって、分厚い装甲に守られているという“安心感”もあります。より新しい10式戦車については、教育などで扱うことはあり、速さも含め性能の良さは実感できます。ただ、10式戦車はどうしても線(配線)などが細い傾向があり、軽量化には一役買っているのでしょうが、ベテランにとっては配線の判読がしにくかったりする場合もあります。それに重量感が物足りないというか、どうしても90式戦車のほうに目が行ってしまいますね(笑)。これは愛着なのでしょうが、元々戦教(戦車教導隊)で、90式戦車の中隊にいたから、ということもあるかもしれません。
――装軌車整備のやりがいとは。
秋山:普段、工場の中で整備しているときは、故障の兆候を見つけたときに「おお、見つけられた!」と嬉しさを感じることもありますが、やはり一番やりがいを感じられるのは、乗員の笑顔が見られたときですね。演習場などで回収に向かったり現地整備を行なったりした際、乗員たちが「いやあ直った、このまま使える!」と喜んでくれたりすると、こちらもすごく嬉しくなります。私が機甲科にいたときもそうですが、乗員には「俺が乗っている車」という、苦楽を共にする自車に対しての愛着は必ずあると思います。総火演(富士総合火力演習)のような大きな演習で故障した車輌に対処していると、やはり「どうしてもこの車で訓練に臨みたい」という乗員たちの想いが感じられ、こちらも何とかして動かさなきゃ、という気持ちになるのです。
ホビージャパンMOOK
「陸上自衛隊の戦闘車輌」好評発売中
「月刊アームズマガジン」の自衛隊レポートでもおなじみのフォトジャーナリスト・笹川英夫の取材による、陸上自衛隊の現役国産戦闘車輌5種(10式戦車、90式戦車、74式戦車、16式機動戦闘車、89式装甲戦闘車)の写真集がホビージャパンより発売中。陸上自衛隊の全面協力により実現した、新規撮影による各車輌の全体から各部ディテールに至る多数のカットに加え、笹川氏がこれまで訓練取材などで撮影してきた走行中や主砲射撃などの迫力あるシーンも収録。元戦車乗員のライター、平藤清刀による各車解説は自身の体験に基づくエピソードも盛り込まれ、興味深く楽しめる内容となっている。
TEXT:アームズマガジン編集部
PHOTO:笹川英夫
協力:陸上自衛隊富士駐屯地広報班
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