2019/02/23
無可動実銃 US M1 カービンの魅力
鋼鉄とグリスの匂いが漂う至高の浪漫
この国では、軍用銃を撃つことはおろか触れることすら難しい。故に軍用銃に対する評価は誰かの言葉の受け売りに偏ってしまう。だがその銃の真の価値を知っているのは、その銃で戦った戦士だけではなかろうか。銃の傷ひとつひとつが戦士の記憶だからこそ、無可動実銃に触れることは、戦士の記憶と自分を重ねられる崇高な儀式ともいえるのだ。
アメリカ軍で最初のカービン誕生
1930年代、アメリカ軍は急速に発達した機械化部隊による戦闘の高速化によって歩兵・砲兵・戦車・補給の支援兵が直接戦闘にさらされるリスクが増加した一方、下士官や後方部隊の装備する小火器をどうするかが問題となった。制式小銃や短機関銃では持て余し、拳銃では火力に劣るため、小銃と短機関銃の中間に位置する銃が求められたのだ。
第二次世界大戦の足音が聞こえ始めた1939年、遂にその中間を埋める支援兵科向けの軽小銃開発が承認された。第1回審査に提出された設計案はいずれも芳しくなく不採用となっている。これに危機感を感じた陸軍武器科は.30-06弾を用いる新型歩兵銃の設計に専念するため軽小銃計画への参加を見送っていたウィンチェスター社と接触し、新型歩兵銃を軽小銃計画の要件に沿って再設計するように要請した。こうして新型歩兵銃をベースとしたM1カービンは誕生したのだ。
M1ガーランドと同様の、ロータリーボルトの縮小版ともいえる機関部。ガーランドの後継装備となるべく設計され、AKシリーズも参考にして開発されたM1カービンの機構は完成度が高い
ストックは前方に向けてわずかにふくらんでいる。これはフルオート射撃対策のM2カービン用ストックで、戦後改修型に多くみられる特徴だ
カービン銃という新たなジャンルを開拓
ボルトの閉鎖機構にM1ガーランドと同様の回転ボルト閉鎖を採用していたが、.30カービン弾の腔圧ではロングストローク式の採用が難しいためショートストロークピストン式を採用。高温高圧の発射ガスが持つ腐食性によって各部が侵食されてしまい寿命が短くなる問題点もあったが、軍用銃としては世界で初めて低腐食性のプライマーを採用し、各部の腐食を減らし、耐用年数を大幅に増やす事に成功したことで、M1カービンは真珠湾攻撃のわずか2カ月前、1941年9月末にアメリカ軍に制式採用されている。
戦争が始まると、大量生産に対応するためウィンチェスター社はロイヤリティフリーと位置づけた上で、他メーカーによる製造を認めた。国内の主要な10企業によって1942年6月から1945年8月までの期間に各モデルあわせて600万挺以上が生産されることになる。
トリガーフィンガーで操作可能なセーフティやボタンで脱着可能なマガジンキャッチなど、後のカービンに与えた影響は大きい
第二次大戦中に製造されたM1にはバヨネットラグ付バレルバンドは付けられていなかった。しかし大戦末期には、現場からの要望でバヨネットラグ付きバレルバンドが取り付けられた
トンプソンなどは戦時下においてサイトが簡略化されたのに対し、命中精度の高いM1カービンは調節可能なサイトに交換されている
当初は後方要員向けの装備とされていたが、支給されると瞬く間にM1ガーランドと同様の運用が行なわれるようになった。小型軽量で、小銃弾というよりも拳銃弾に近い.30カービン弾はM1ガーランドに比べて特殊用途に優れており、多くのバリエーションも生み出している。終戦後、多くのM1カービンが再整備の後に同盟国へ大量に譲渡され、M1ガーランドよりも広範に使用された。大きさが手頃で威力もそこそこなM1カービンは、欧米人に体格で劣るアジア人にも向いていたようだ。日本でも警察予備隊が創設された際には、米国からM1カービンが貸与され制式小銃となっている。これらは、64式小銃が採用された後も自衛隊で使用され続け、89式小銃が採用されるまで訓練用として用いられるなど、日本人にとっても馴染み深い。朝鮮戦争以降、M1カービンは威力不足が原因で一線を退くことになるが、同様のショートストロークピストン式は2000年代以降に開発された多くのアサルトライフルにも採用されており、現在のアサルトライフルの礎を築いたといえるだろう。
DATA
US M1 カービン
- 全長:905mm
- 口径:.30in
- 装弾数:15/30発
- 価格:¥81,000
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TEXT:IRON SIGHT
この記事は2019年3月号 P.210~211より抜粋・再編集したものです。