実銃

2019/07/21

無可動実銃「AMD65」の魅力

鋼鉄とグリスの匂いが漂う至高の浪漫

この国では、軍用銃を撃つことはおろか触れることすら難しい。故に軍用銃に対する評価は誰かの言葉の受け売りに偏ってしまう。だがその銃の真の価値を知っているのは、その銃で戦った戦士だけではなかろうか。銃の傷ひとつひとつが戦士の記憶だからこそ、無可動実銃に触れることは、戦士の記憶と自分を重ねられる崇高な儀式ともいえるのだ。

 

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失地回復に明け暮れた歴史

 

 ヨーロッパ列強であったオーストリア=ハンガリー二重帝国が第一次世界大戦敗戦によって崩壊し、ハンガリーは領土の2/3を喪失。失地回復のために、同じ目標を持ったドイツに急接近し、第二次世界大戦では枢軸国側として参加。ソ連に首都ブタペストを占領されてもドイツ軍と共闘し、終戦まで戦い続けている。

 

無可動実銃「AMD65」の魅力

 

 戦後はソ連によって共産主義政権が樹立され、ハンガリーは共産圏陣営として、兵器もソ連の兵器体系に合わせて整備がすすめられた。冷戦期のワルシャワ軍強化のため、ソ連は敗戦国である東ドイツやルーマニアと同様に、ハンガリーに対してもAKの製造ライセンスを与え国産化させた。社会主義下の計画経済によって重工業化が進められ、兵器および機械工場株式会社であるFEGによって製造。機種を絞ることで順調な生産が行なわれ、外貨獲得のために積極的に輸出もされた。

 

 

無可動実銃「AMD65」の魅力

ハンガリー AMD65自動小銃 木製グリップ(複数在庫品 #EI3748)

  • 全長:845mm(598mm)
  • 口径:7,62mm×39
  • 装弾数:30発
  • 価格:¥90,000

 

 

先進的なAKカービンの登場

 

 AK47のライセンス品であるAK-55から改良型のAKMをAKM-63としてライセンス生産する際、ハンガリーは独自の改良を加えた。特にフルオート射撃に対応するために、ガスシリンダーを覆うハンドガードの上部は廃止し、下部をプレス加工鋼板で制作して放熱効果を最大限に上げた。また、フォアグリップも付けられコントロール性を向上させた個性的な外観を持つ。

 このAKM-63をショート化したものがAMD-65だ。1965年にハンガリー軍に制式採用され、短縮した銃身と折り畳みストックを持つ空挺部隊・特殊部隊向けのモデルである。7.62mm×39弾仕様としては最小クラスの銃で、強い反動を軽減するために銃口に大型のマズルコンペンセイターを装備。こららの改良はソ連より先に実用化されたものであり、戦前のドイツ系の思考が反映された当時のハンガリーがいかに先進的であったかを物語っている。

 

 

無可動実銃「AMD65」の魅力

オリジナルのAKシリーズから大きく変更されたサイドスイングストックは、畳まれた状態でも操作レバー類とは一切干渉しない。これは現在でも通用する画期的なストックであり、いくつかのライセンスAKに影響を与えた

 

無可動実銃「AMD65」の魅力

ハンガリー製AKの最大の特徴であるスチールハンドガードは、放熱効果を最大限に発揮させる。下部の独立したフォアグリップはAMD-63と同型の木製だ

 

無可動実銃「AMD65」の魅力

短縮化の際、リコイルを抑制するためにサイドポートが開けられた大型マズルコンペンセイターが採用された

 

 

 コンパクトで取り回しの良さから士官や車輌・ヘリ搭乗員、特殊部隊などに配備されていたが、フォアグリップは破損やマガジンチェンジの際に邪魔になるなどの苦情が相次いだ。特にフォアグリップが破損するとハンドガードが握れなくなってしまうことから、これ以降のモデルでは廃止され、AKM-63では普通のAKスタイルに退化してしまっている。AMD-65に限ってはそのまま生産が続けられたが、ライフルグレネード発射能力が付随されたAMP-69に更新されると、AMD-65はハンガリー軍では退役し払い下げられた。

 

 

無可動実銃「AMD65」の魅力

AKM以降のモデルにはグリップとレシーバーの間に入るアングルスペーサーは廃止される傾向にあったが、ハンガリー製AKは最終型まで同一のグリップデザインを貫いた

 

無可動実銃「AMD65」の魅力

シンプルなT字ストックは見た目以上に丈夫な作りになっている。衝撃を吸収するラバーバットプレートを採用しているのもAKシリーズとしては珍しい

 

 

 これらの一部がカルザイ政権下で新たに編成がすすめられたアフガニスタン国家警察(ANP)に採用されている。またフォアグリップや折りたたみストックなどの現在でも通用するアクセサリーが気に入られ、PMCオペレーターにも人気が高い。

 

 

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この記事は月刊アームズマガジン2019年8月号 P.100~101より抜粋・再編集したものです。

 

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