2019/05/21
無可動実銃「モシンナガン M1890/30」の魅力
鋼鉄とグリスの匂いが漂う至高の浪漫
この国では、軍用銃を撃つことはおろか触れることすら難しい。故に軍用銃に対する評価は誰かの言葉の受け売りに偏ってしまう。だがその銃の真の価値を知っているのは、その銃で戦った戦士だけではなかろうか。銃の傷ひとつひとつが戦士の記憶だからこそ、無可動実銃に触れることは、戦士の記憶と自分を重ねられる崇高な儀式ともいえるのだ。
帝政ロシアから冷戦時代まで活躍した歩兵銃
モシンナガンは1891年にロシア帝国陸軍のモシン大佐と、ベルギーの銃器設計者ナガン兄弟の手により開発された。ロシア帝国からソビエト連邦の時代に至るまで、ロシア軍を支え続けたボルトアクションライフルである。1892年よりトゥーラ造兵廠やイジェフスク造兵廠などの兵器工場で生産が開始されたが、50万挺の依頼に自国での生産が追いつかず、ロシア国内の生産体制が整えられるまで、フランス造兵廠、SIG、ステアーなどに生産の委託がなされた。第一次世界大戦時にはアメリカ合衆国のレミントンやウェスティングハウスにまで製造を発注し、戦時中に380万挺が納入されている。
1930年には照準器の数値をメートル法に直すなどの改良を行なったモシンナガンの決定版であるM1891/30モデルが登場し、第二次世界大戦時の主力として活躍。1940年代後半にセミオートライフルのSKSやAK-47に制式小銃の座を譲るが、狙撃銃として1960年代まで使用が続けられるほど精度が高かった。
セミンシステムの折りたたみスパイクはその後のSKSカービンにも継承された。側面へ折り畳んで収納できるためサイトの再調整が不要で、交戦時に白兵戦への切り替えが容易となり、狭い戦場でも取り回しが便利になった
長いハンドガードに沿った形でくぼみに収納されたスパイクタイプの銃剣。この銃剣のおかげでフロントヘビーだった重心が改善された
ストックのニスも剥がれておらず、刻印も読み取れる状態だ。ストック中央には革製のスリングループを通すためにスリットが開けられている
ロシア製ボルトアクションの代名詞
モシンナガンは初めから銃剣を装着した状態で射撃することを想定したライフルだ。第二次世界大戦時には平原での大規模戦闘だけでなく、森林や塹壕、市街地などでも戦闘が行なわれた。着剣状態では166cmもあるM1891/30では不便なのは充分に認識されていた。この仕様は射撃後に一斉突撃をする前世代の戦法にあわせたものだったが、大戦中は強制的に徴兵された兵士が多く、充分な教育も行なわれず、士気も低かったため命懸けの突撃を強要する白兵戦重視主義が取られた。
そのため射撃は銃剣を付けた状態で行なう。照準も銃剣を付けた状態での調整がされており、もしも銃剣を外して射撃するには改めて照準の調整が必要となっている。最後の改修は、1944年1月に折り畳み式の銃剣を備え付けることが検討され、1943年5月に8種類がテストされ、そこでセミンのシステムが採用された。この際通常のM1891/30と騎兵タイプのM1938が試作されたが、300~400mでの命中精度が変わらなかったのと、銃身の短縮化を図っていた軍部の方針により最終的に全長の短いM1938に折り畳み銃剣を備えた改良型のM1944が、歩兵・騎兵・補給部隊用として支給され、これをもって生産を終了した。
1943年の刻印が入ったレシーバーは後期型の特徴である円筒形のもの。製造時のガンブルーが美しく光っている
フィンランド人スナイパー“シモ・ヘイヘ”も狙撃の際に使用した帝政ロシア独自の単位であるアルシンからメートル法に変更されたタンジェントサイト
M1891の後継小銃としてようやく登場したのがM1891/30であり、ソ連赤軍にとって代表的な小銃となった。1892年から1944年までの50年にも渡り製造され、時代にあわせて多くの改良が施されてきたが、後継のAK-47が成功し、世界的にアサルトライフルが一般化したことで、ボルトアクションの小銃は軍用としては著しく旧式となり価値を失ってしまった。しかし、丈夫でボルトアクションならではの命中精度があり、しかも価格も安いために現在でも狩猟用スポーツライフルとして人気が高い。またロシアの外貨獲得手段として西側へ流出されるなど、最後まで祖国のために活躍してきた不朽のライフルでもあった。
DATA
モシンナガンM1890/30 歩兵銃
(複数在庫品 #8808)
- 全長:1,232mm
- 口径:7.62mm×54R
- 装弾数:5発
- 価格:¥129,600
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TEXT:IRON SIGHT
撮影協力:F2プラント
この記事は月刊アームズマガジン2019年6月号 P.92~93より抜粋・再編集したものです。