ミリタリー

2022/05/25

兵士達の日常、戦時下のクリスマスはどのように過ごしていたのか【兵士の入門書】

 

兵士たちに訪れる束の間の平穏──戦時下のクリスマス


 今回と次回は「兵士と武器 Mauser Kar98k」をいったんお休みして、「兵士達の日常 戦時下のクリスマス」を書かせてもらう。

 

前回の兵士の入門書はこちら

 



 クリスマスはキリストの降誕を祝う祭りで、キリストのミサが語源である。ドイツではこの最も重要な歳時であるクリスマスを聖夜(Weihnachten)、12月25日までの4週間をアドヴェント(Advent)と言う。このアドヴェントを含む4週間は1年で1番大切な、喜びに溢れる期間である。そして、一般的には12月24日のイヴには家族で晩餐、25日は家族で静かに過ごす風習がある。また、戦時下のクリスマスを表す「Kriegsweihnachten」という単語があり、軍隊においては、部隊が1つの大家族のようにクリスマスを祝った。クリスマスの特別配給や慰問品が用意され、クリスマスプレゼントをもらった兵士達は歌い、そして特別料理を楽しんだ。厳しい教練や前線勤務に明け暮れる軍隊生活にも、クリスマスのような行事は緩急をつけるために重要視されており、こうした行事を通して兵隊間の連帯感や、部隊に対する帰属意識が醸成されていったのである。


アドヴェントクランツ(Advents Kranz.)

 

 

 アドヴェントクランツ(アドヴェントリース)は、キリストの降誕を待ち望む、待降節(降臨節や待誕節とも言う)に飾るもので、クリスマスツリー同様ドイツ発祥の習慣と言われている。11月30日の「聖アンデレの日」に最も近い日曜日からクリスマスイヴまでの約4週間、最も早い年では11月27日、遅い年でも12月3日の日曜日から飾り始める。ちなみに2021年の今年は11月28日の日曜日からである。アドヴェントには、ロウソクを4本用意し、クリスマス前の日曜日(主日)の午前中に灯される。第1主日(Erster Adventssonntag)に1本目のロウソクに火を灯し、その後、第2(Zweiter Adventssonntag)、第3(DritterAdventssonntag)、第4(Vierter Adventssonntag)と週を追うごとに火を灯すロウソクの数を増やしていく。クランツのモミの枝は降誕日を、4本のロウソクは降誕節の4回の主日を意味している。写真は天井からアドヴェントクランツを吊るし、待降節の準備をしている兵士である。

 

ビール新聞(Bierzeitung)

 

 

 これはビール新聞(Bierzeitung)と言うタイトルの部隊発行新聞の表紙である。タイトルの下には「戦時下のクリスマス1940(Kriegs-Weihnachten 1940)」とあり、クリスマス飾りが施されたビア樽からジョッキにビールを注いでいる兵士と、クリスマスツリーのイラストが描かれている。このビール新聞はA4判全18ページの小冊子で、部隊の連絡事項の他に部隊内の出来事などがイラスト入りで面白おかしく描かれていて、兵士達が楽しんで読める物として作られている。この新聞を発行した部隊は、1939年12月1日、第7波の動員部隊として、第XII軍管区のヴァルテボーゲン(現ポーランド)で編制された第197歩兵師団で、1940年の西方戦役に従軍、オランダ進駐軍として1941年2月までいたが、その後第XII軍管区へ移動、1941年6月のバルバロッサ作戦から中央軍集団所属部隊として、1944年3月まで東部戦線で戦闘に従事し、壊滅的な損害を被った。1944年7月には、第95および第256歩兵師団の残余の部隊と共に、Korps-Abteilung Hとして再編成されている。

 

クリスマスツリー(Weihnachtsbaum)

 

 

 クリスマスツリーは、北ヨーロッパのゲルマン民族が冬至の祭り「ユール」で祭祀として用いていた「樫の木」が起源と言われている。厳しい冬でも緑の葉を付けている樫の木を、生命の象徴として崇める樹木信仰であったが、キリスト教の布教段階で、横から見ると三角形をしている「モミの木」が、神を頂点に両端に神の子イエスと精霊が繋がった「三位一体」の教えを表している木であるとして取り入れられ、徐々にドイツ全土に広がった。アドヴェントクランツと同じく12月25日の4週前の日曜日に飾り付け、新年の1月6日の公現祭(十二夜)まで飾られる。国内外の兵営でも室内及び入り口に飾られていた他、戦地の宿営地などでも飾られていた。

 

兵士達の良き戦友(Des Soldaten guter Kamerad)

 

 

 写真上の2つのハーモニカは、ハーモニカやアコーディオンのメーカーとして有名なホーナー社(HOHNER)製の物で、戦時中の1941年と1942年に、クリスマスの慰問品用として国防軍に納入された品である。兵隊と歌は切っても切れない関係で、小型で携行するのに便利なハーモニカは正に「兵士達の良き戦友」と言えるだろう(実際、箱の裏面には「兵士達の良き戦友(DesSoldaten guter Kamerad)」と「戦時下のクリスマス(Kriegsweihnachten)」の文字が印字されている)。

 

TEXT&PHOTO:STEINER

 

この記事は月刊アームズマガジン2022年1月号 P.222~223より抜粋・再編集したものです。

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