2022/03/26
ドイツ陸軍の銃器クリーニンググッズとは?【兵士の入門書】
兵士が使ったクリーニングキット
前回まで3回にわたり、ドイツ陸軍で教範の副読本として使われていたライベート(REIBERT)から、小銃の取り扱いに関する項目の要点を紹介してきたが、小銃の取り扱い解説を終了するにあたり、今回は手元に小銃や小銃用クリーニングキットなどのアクセサリー類がないとわかりにくい部分を補足しておくことにする。
今回のみでも楽しめるように簡単な解説は再掲するが、前回までの3回を見直していただけるとよりわかりやすいので、第1回から読み返すことをお薦めする。また、Kar98kの無可動実銃やモデルガン、エアガン、34年型小銃用クリーニングキットなどがお手元にある場合は、それらを見ながら読み進めてみるのも一興かと思う。
銃口カバーとクリーニングロッド(Mündungsschoner u. Stock)
小銃の取り扱いについて、「兵士は絶対に必要な場合以外小銃を分解してはならない」、「分解または取り外しが許されているのはボルト、弾倉、クリーニングロッド、銃口カバー、ライフルスリングのみで、取り外した部品は布の上に置くこととされ、これ以上の分解は武器係の範疇とされていた」と記したが、ここでは銃口カバーとクリーニングロッドを紹介する。上の写真はフロントサイトガードの無い初期生産のKar98kと銃口カバー。下はフロントサイトガードが付いた中期生産型のKar98kで、着剣装置の下に装着されているクリーニングロッドを外した状態を示している。
クリーニングロッドとクリーニングチェーン(Stock u. Reinigungskette)
クリーニングロッドもクリーニングチェーンも銃身内を清掃する際に、ブラシ類やクリーニングモップを装着して使用する用具である。写真のクリーニングロッドは後期型(前期型の方が若干長い)で、全長316mm。一方クリーニングチェーンは1本で長さは1,050mmとなっている。Kar98kの場合は銃身長600mmなので、クリーニングロッドでは3本つないで(クリーニングロッドの両端はネジになっていてつなぐことができる)使用することとなるが、クリーニングチェーンなら1本で銃身清掃作業ができる。クリーニングチェーンが導入されるまでは3人1組で交代に行なっていた銃身清掃が、各自が同時に銃身清掃作業を行なえるようになった訳である。しかし、クリーニングロッドは焼き付きを起こした薬莢を抜く際や、銃口及び機関部を汚さないように小銃を組み合わせて置く「叉銃」に不可欠な部品であったため、クリーニングチェーン導入後も廃止はされなかった。
銃口カバー(Mündungsschoner)
上写真の左はフロントサイトガードを兼ねた初期型銃口カバーで、その右隣の円形の物体は、小銃にフロントサイトガードが付いたのちの後期型銃口カバーである。こちらは合成ゴム製で簡単に脱着することができた。初期型銃口カバーは装着したまま銃身清掃作業が行なえるように、前蓋が開くようになっていた(下写真)。
写真は1940年の西方戦役前の訓練時に撮影された、SSドイチュラント連隊の兵士である。この写真には小銃に装着された銃口カバーがはっきり写っている。
クリーニングブラシとオイラーブラシ(Reiningungsbürste u. Ölbürste)
34年型小銃用クリーニングキットにはクリーニングブラシとオイラーブラシがセットされていた。下の写真、クリーニングチェーンに装着されているのがクリーニングブラシで、ブラシの中央部分の括れた部分は真鍮ブラシになっている。両サイドのブラシはクリーニングオイルを含ませるための柔らかい毛で、汚れは真鍮ブラシでこそぎ取る。上の写真が銃身内にオイルを塗るためのオイラーブラシである。
栓抜き工具、クリーニングモップとオイラー(Hülsenkopfwischer, Reinigungsdochte u. Öltropfer)
写真は栓抜き工具に装着したクリーニングモップに、オイラーでクリーニングオイルを差している状態を示している。日本ではその外観から栓抜き工具と呼ばれているこの工具、ドイツ語ではHülsenkopfwischerという名称で、直訳すると薬室口清掃具である。その名の通り、ブラシでは拭ききれない薬室口部や、固定式弾倉内などの清掃に使用される。また、写真にはクリーニングチェーンに装着されたクリーニングモップも写っているが、銃身内の清掃、注油後にこれで銃身内の余分なオイルを拭きとる。クリーニングモップは、清掃以外にオイルを引く、余分なオイルを拭き取る際にも使用され、クリーニングキットには3セット入れられていた。
栓抜き工具のもう一つの用途として、固定式弾倉を分解する際の工具としての使用がある。固定式弾倉を分解するには、写真のように固定式弾倉の底板に開けられた穴に、栓抜き工具の柄に付けられているピンを差し込み、ストッパーを解除した状態で底板をトリガー側に若干ずらすと底板が外れる仕組みになっている。弾倉内清掃後は、底板に付けられたスプリング及び装弾板を弾倉内に押し入れ、底板を銃口側に若干ずらすとストッパーが掛かる構造になっている。
TEXT&PHOTO:STEINER
この記事は月刊アームズマガジン2021年9月号 P.156~157より抜粋・再編集したものです。