ミリタリー

2022/05/10

旧ドイツ軍新兵が学んだ照準方法の基礎【兵士の入門書】

 

弾道、照準、跳弾――ドイツ兵が学んだ銃の基礎

 

 今回も前回に引き続き、ドイツ陸軍で教範の副読本として使われていたライベート(REIBERT)の射撃教練(Schießausbildung)の部分を紹介する。用語に関して独特の表現があるが、これらは意味の分かりやすさを重視した上で記したつもりである。具体的な内容もさることながら、全体を通して当時の新兵が受けた教育の雰囲気が伝われば幸いである。

 

前回の兵士の入門書はこちら

 


 

 射撃教練と言っても、いきなり実包を使用した射撃訓練を行なう訳ではないことは前回解説したが、実習前に実施された座学としては前回紹介した弾が発射される過程から弾道の基礎知識の他に、射撃戦における死角、跳弾について、そしてKar98kに使用されていた通常弾と徹甲弾の性能、照準に関する座学と実習の進め方について、射撃時の小銃の構え、射撃訓練用の的(まと)へと続く。これら座学の内容は残念ながらボリュームの都合上全文を掲載することはできないが、その雰囲気を損なわない程度にかいつまんでその要点を紹介する。


弾道等(Flugbahn usw.)

 

 まず、弾道と地形の関係、射撃戦における死角、跳弾、そしてKar98kに使用されていた通常弾と徹甲弾の性能について記されている。具体的には、「弾頭は放物線を描いて飛翔するので、起伏のある地形では攻撃側から見て小丘などの直ぐ後ろは死角となり弾着も無い」。また、跳弾については、「着弾後跳ね返って飛ぶ弾頭を跳弾と言う。目標の手前に着弾した弾頭が跳弾となった場合には、目標に影響を与える可能性がある。跳弾は固い地面や石の多い地面に着弾した場合、硬い芝が生い茂った地面や水面に浅い角度で着弾した場合に発生する。したがって、入射角が大きいと発生しにくく、草や下草に擦れても弾道が逸れることがある」と記されている。

 

照準(Das Zielen.)

 

 

 上の画像は照準におけるフロントサイトとリアサイトの関係(間違った照準方法)を示したもの。
 上段「最も一般的な照準ミスは次の通りである。図2(Bild.2)のaがフロントサイトとリアサイトの正しい関係であるが、bはフロントサイトが大き過ぎ、cは小さ過ぎる。このような場合には着弾点は遠すぎるか短過ぎてしまう」。
 つづいて下段、「小銃の傾斜も照準ミスを引き起こす。図3(Bild.3)のように小銃が右に傾いていると(右下がり)弾着は右に逸れ、左に傾いていると(左下がり)弾着は左に逸れる。図4(Bild.4)はフロントサイトの偏りを示したもので、フロントサイトが右に偏っていると着弾は右に逸れ、左に偏っていると着弾も左に逸れる」。

 

 

 図5、「光による錯視:フロントサイトの上から強い光が当たると、フロントサイトは大きく見え、横から当たっても光源のほうに膨張して見える」。

 

 

 

 図7のターゲットスプーンを使った三角照準の教練で「三角照準は照準試験及び習熟のために実施される(図9)。これは3種すべての照準点で行なう」。
 手順は「教官は土嚢の上に置かれた小銃を、的の任意の位置に向ける。この点をコントロールポイントと設定し、的に印す。その後、射手は小銃には触れずに狙いを定め、図7のターゲットスプーンを持った者に声と手振りで合図を送り、ターゲットスプーン中央の小穴が照準と合うように指示する。ターゲットスプーンを持っている者は、射手が指示した位置で的に鉛筆を用いて印をつける。これを3回行なった結果が図8で、丸印がコントロールポイント、1~3が射手の指示した位置の印である。この三角形はコントロールポイントに近くて小さいほど良い」。

 

土嚢を使った照準訓練(Zielen auf dem Sandsack.)

 

 

 これも実弾を使用した射撃訓練の前に行なわれた照準訓練法の1つで、キャプションには「照準訓練の開始時に、小銃は土嚢の上に置かれる。 最初に教官がターゲットに狙いを定め、新兵に正しい照準を教え、次に新兵自身が小銃の照準をターゲットに合わせる」とある。まずは教官が手本を見せ、それを会得させるやり方であった訳である。写真は新兵自身が行なった小銃の照準を、教官がチェックしているシーンをあらわしたもので、チェックを受けている新兵は直立不動の姿勢である。また奥の方には照準を行なっている新兵の姿も写っており、どのような姿勢で小銃の照準を行なったかもこの1枚で知ることができる。銃の固定には三叉(さんまた)という3本の棒を組んだ機材が使用されている。三叉は簡単な構造ではあるが、足の開き具合で高さと水平を調整できる点が優れていた。

 

フロントサイト(Korn)

 

 

 上はマウザーKar98kのフロントサイトを含む銃身前部のクローズアップ写真である。初期のKar98kではフロントサイトカバーが無く、フロントサイトが剥き出しだったため、銃口カバーにフロントサイトガードが付けられていた(「ドイツ陸軍の銃器クリーニンググッズとは?」を参照)。しかし、初期に生産されたKar98kについても写真のようなフロントサイトカバーが後に付けられるように加工された。このフロントサイトカバーはあくまでフロントサイトの保護が目的で、前述のフロントサイトに強い光が当たった際の錯視を防ぐためのものではなかった。フロントサイトに強い光が当たった際の錯視に関しては、各国の軍隊でも問題視されており、ロウソクやライターなどでフロントサイトを炙って煤を付けて、光が当たった側が膨張して見えることを軽減する措置を取るなどの工夫がなされていた。

 

TEXT&PHOTO:STEINER

 

この記事は月刊アームズマガジン2021年12月号 P.222~223より抜粋・再編集したものです。

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