ミリタリー

2022/04/26

ドイツ兵が経験した射撃訓練前の基礎知識講座【兵士の入門書】

 

ドイツ兵が経験した座学


 今回から数回にわたり、ドイツ陸軍で教範の副読本として使われていたライベート(REIBERT)の射撃教練(Schießausbildung)の部分を紹介する。この項目は小銃と機関銃の共通項目で、射撃に必要な理論から、実際の射撃を行なう上で重要な知識が詳細に解説されている。これは射撃がさまざまな諸元に左右されるものであるため、基礎知識がしっかり習得できていないと、都度必要となる応用ができないからである。

 

前回の兵士の入門書はこちら

 



 射撃教練は、弾が発射される過程の解説および弾道の基礎知識に始まり、照準の基礎知識、弾着の散布までが座学であり、その後に実習のための照準と修正、小銃と機関銃の射撃姿勢の種類と特徴などの基礎知識へと続いている。これを見ても、射撃教練がいきなり実包を撃つものではなく、実弾射撃はそれまでの座学の結果確認と、習熟であったことが理解できる。今回は弾が発射される過程から弾道の基礎知識、照準の基礎知識の部分の要点をかいつまんで紹介することとする。

 

実弾発射の過程と弾道(Schußvorgang in der Waffe und Flugbahn)

 

 

 射撃教練の項の最初は「小銃と機関銃の射撃理論(Schießlehre für Gewehr und M. G.)」と題されており、実弾発射の過程と弾道で始まる。その内容は「1.実包の装薬は、雷管を撃針で打撃することにより点火され、装薬の燃焼により発生したガスは、弾頭の速度を上げながら銃口より射出する。2.銃口を出た弾丸が飛翔する経路は弾道と呼ばれる。弾頭の初速、重力、弾頭の発射角、空気抵抗、弾頭の回転は弾道に影響を与える。3.初速は弾頭が銃口から射出された時の速度のことで、1秒間に何メートル飛翔するかを測定したもので、単位はメートル/秒(m/sek)で表す」と始まり、「4.弾頭に初速以外の影響がなければ、弾頭は減速することなく図1(Bild 1)のM-Aの直線で飛翔し続ける。弾道に重力の影響だけを加えると弾道は曲線になり、その最高点は中央にあり、その形状は両側で同じになる(真空中の弾道、放物線M-B、図1)。5.実際には空気抵抗が弾頭の飛翔を継続的に遅らせる。その結果、弾道は真空の場合よりも大きく湾曲する。射距離は短くなり、最終速度は初速よりも遅くなることで、落下角度が射出角度よりも大きくなる(空気中の弾道、M-C、図1)」と続く。この後、ライフリングにより弾頭を回転させることで飛翔中の弾頭の横転や転倒を防ぎ弾道が安定すること、この回転により弾道は回転方向に偏向することなどが記され、さらに銃口と弾頭の発する音に関する知識、弾道に関わる重要な要素について記されている。

 

照準(Das Zielen. )

 

 

 左ページの上半分は前頁の用語と図版の解説が記されており、弾道が丁寧に解説されている。照準の理論は弾道を理解した上の説明なので、以下のように比較的簡潔に記されている。「弾頭は銃口を離れた直後から重力の作用により落下し始めるので、銃口は目標よりも上に向ける必要がある(図5の目標Aに対して水平に銃口を向ければ着弾点はZとなるので、図6のように目標Aまでに落下する分だけ銃口を上に向ける)。照準を行なう際には照準点が目標内か近くにある必要があるため、武器には照準器(リアサイトとフロントサイト)が装備されている」。
 この後照準に使用する用語解説として、「照準点(Haltepunkt):視線を向けるポイント。狙点(Abkommen):射撃時の視線が実際に向けられるポイント。着弾点(Treffpunkt):弾頭が当たるポイント」があり、距離が離れれば銃口をその分上げる必要があることを説明した図7の解説が記されている。照準の次には天候の影響(Witterungseinflüsse)として、「弾道には空気の重量と風が気象条件として影響する。空気の重量は、気圧、温度、湿度によって異なり、海抜高度が高いほど、また気温が高いほど空気の重量は軽くなる。空気の重量が軽いと弾頭の飛距離は伸び、重いと短くなる。一般的は暖かい気候では飛距離は伸び、寒いと短くなる」。ほかには風が弾頭に与える影響、明るさと目の錯覚についても解説している。

 

リアサイト(Visier)

 

 

 

 上2つの写真はマウザーKar98k(Mauser Kar98k)のリアサイトのクローズアップ写真である。このリアサイトは目標までの距離100mから2,000mに対応したタンジェントサイトで、基部は弾道に対応した曲線に加工されている。サイト本体にはサイトを上下に調節するためのエレベーション装置が付けられ、これを前後に移動することでサイトが上下する。サイトの上下両面には距離を表す目盛と数字が打刻されており、上からだけではなく、伏撃ちの際に必要以上に頭を上げなくてもサイトを引き起こせば、下面の目盛と数字でサイトの距離合わせができる。写真上は距離100m(0~100m)に合わせた状態で、下は距離1,000mに合わせている(実際の射撃戦はおおむね400m以下で行なわれたと言われているが、写真では違いがわかりやすいように1,000mにした)。この距離目盛は基部が弾道に対応した曲線に加工されているので等間隔に刻まれており、上から見て右側が偶数、左側が奇数となっている。距離を表す数字は100mを1、2,000mは20としている。こうして現物と教範を並べて見ると、座学の内容もよりわかりやすいだろう。

 

TEXT&PHOTO:STEINER

 

この記事は月刊アームズマガジン2021年11月号 P.218~219より加筆・再編集したものです。

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