ミリタリー

2022/05/25

【陸上自衛隊】陸自新拳銃の実射訓練に密着取材!!【中央即応連隊】

 

中央即応連隊による実弾射撃訓練

 

 令和元(2019)年12月、9mm拳銃(SIG SAUER P220)の後継として採用された陸上自衛隊の新拳銃、ヘッケラー&コックSFP9の配備が始まり、陸上総隊隷下の中央即応連隊による実弾射撃訓練の取材が許可された。市街地戦闘/CQBを得意分野とする同連隊においても、とりわけ戦技研究のプロフェッショナル集団として知られる戦技訓練班の、SFP9練成射撃訓練に密着取材した。

 

 

中央即応連隊とは


 平成19(2007)年に創設された中央即応集団(CRF)は、陸上自衛隊の各方面隊の上位に置かれた防衛大臣直轄の機動運用部隊であり、目まぐるしく変化する国際安全保障環境への対応策でもあった。

 司令部は米陸軍も同居する神奈川県の座間駐屯地に置かれ、その隷下部隊には第1空挺団や第1ヘリコプター団、新編されたばかりの特殊作戦群や中央特殊武器防護隊、国際活動教育隊等がまとめられた。そして平成20(2008)年、中央即応集団の新たな実働部隊として中央即応連隊(略称:中即連/ CRR)が栃木県の宇都宮駐屯地で新編された。
 その任務・役割は、国内では有事の際に方面隊の増援部隊として各方面隊の行動を支援し、大規模災害における災害派遣にも従事。また、国際平和協力活動等においては、派遣部隊の先遣隊となって主力部隊到着までの活動基盤準備などを行なうというものだ。
 なお、平成30(2018)年には中央即応集団廃止にともない、新設の陸上総隊の隷下に移行している。

 中即連は連隊本部をはじめ本部管理中隊、3個普通科中隊、施設中隊、そして爆発装置処理隊で編成され、多様化する任務への対応能力を高めている。同連隊では駐屯地営門の警衛任務に就く時、防弾チョッキには必ずアーマープレートを入れた状態にし、マガジンポーチにも予備弾倉を入れておくのが流儀だ。日々の警衛任務も実戦であるとの意識を持ち、そのままの装備で緊急出動できるコンディションを維持しているという。部隊名に「即応」が付く限り、名実共に戦える部隊であることが重視されているのである。 
 現在に至るまで中即連は国際平和協力活動における東アフリカ・ジブチへの派遣や国内で度重なる災害派遣などで活躍しており、最近では在外邦人等の保護措置および輸送対応でも注目されている。

 

戦技訓練班

 

 陸上自衛隊がイラク復興支援の派遣任務に取り組もうとしていた頃、習志野駐屯地の第1空挺団において戦技訓練班の原型は産声を上げたと言われている。まだ冷戦時代の野戦を主体とした軍事ドクトリンが陸自を占める中、小規模なグループで主に米軍に模範を求めつつ、市街地戦でのタクティカルメソッドや装備品の研究を行なっていたようだ。その後、新編された中央即応連隊に戦技訓練班(略称:戦訓班)として移設され、陸上自衛隊の中にあっても卓越したCQB対処能力の開発と獲得に成功した。特にCQCと言われる近接戦闘分野においては、革新的な格闘メソッドの開発を行ない、拳銃や小銃等の射撃訓練においては他の部隊よりも格段に多い弾数を撃つ部隊として知られている。全国の普通科部隊にとって、CQBといえば中即連であり、CQCといえば戦訓班と言われるほどに高い能力が認められている。

 

三つ巴の中即連のシンボルマークの外枠に「COMBAT SKILLS TRANING UNIT」「INSTRUCTOR」と示される戦技訓練班のパッチ

 

戦技訓練班 練成射撃訓練

 

 今回取材させていただいた中央即応連隊は、新拳銃SFP9をいち早く受領した部隊である。陸自普通科部隊の中ではもっとも射撃訓練の機会が多いと言われている同隊において、SFP9がどのように運用されているのかを見ていこう。
 戦技訓練班による練成射撃訓練は、宇都宮駐屯地の敷地内にある屋内射撃場で実施された。小銃射撃訓練にも対応する長大な射撃場内部は薄暗く不気味ですらあるが、排煙設備のおかげで射撃中も息苦しさはなく、射撃訓練に集中しやすい環境であった。同射撃場は高い練度の維持が求められる中即連にとって欠かせない施設なのだ。

 

立ち撃ちの姿勢でSFP9を射撃する隊員。写真では大きなマズルフラッシュが捉えられているが、実際に一瞬のことで目が眩むほどではない

 

SFP9はナイトサイトを標準装備しており、暗所での視認性も確保されている

 

弾倉にはダミーカートリッジが含まれており、不発の際には直ちにスライドを引き(ラック)、射撃を継続する

 

射撃を終えてSFP9をホルスターに戻す前に、周囲の確認は必須事項だ。この際もただ振り返るのでなく、後方に異常がないかを確認するまで徹底している

 

中即連ならではの実戦主義

 

 今回の実射訓練を見た限り、一般部隊よりも桁違いな弾数を与えられているようで(具体的な弾数や距離などは非公開)、射撃前後の安全管理は充分に行なわれつつ、射手も部隊全体の雰囲気としても、納得いく射撃練習になるようにバンバン撃つのが当たり前というムードだ。

 各射手はホルスタードロウから照準し、距離を変えながら射撃訓練は進行していくが、射撃指揮官に指示された射撃弾数をこなして「撃ち方止め」の号令が掛かると、射手と助教や安全係は床に落ちた空薬莢を素早く回収してカウントし報告する。このパターンを重ねながら、射撃訓練は続けられていった。
 自衛隊の射撃訓練といえば、用意周到な弾薬管理と空薬莢の回収を思い浮かべる読者は多いだろう。それは中即連とて例外ではない。射撃中は射手の隣に立つ隊員が、飛び出す空薬莢をセミ取りと呼ばれる柄の長い網で捕獲するのだが、射手は薬莢の飛び出す方向などには目もくれず、ひたすら前方にある紙標的へと射撃を繰り返していた。
 また、不発への対処を採り入れていた点も印象的だった。訓練で使われる弾倉には、射手に分からないように複数の擬製弾(ダミーカートリッジ)が装填されている。横一列に並んだ射手が射撃を始めると、初弾から不発となる者もいる。その際には銃を引き寄せスライドを引いて不発弾排除、次弾装填を行ない射撃を再開するが、また不発が出て…。こうしたストレス環境を再現し、冷静な対処能力を養いつつ射撃精度も向上させる、という実戦的な意図が見られた。

 詳しい射撃訓練の様子は「月刊アームズマガジン2022年5月号」に掲載されているので、そちらを併せてご確認いただければ幸いだ。次回は取材時に撮影した陸自新拳銃、SFP9の細部をご覧いただこう。

 

陸自新拳銃、SFP9の細部レポートはこちら

 

企画・写真 : 笹川英夫
TEXT:神崎 大/アームズマガジン編集部
協力:陸上自衛隊 中央即応連隊、陸上総隊

 

この記事は月刊アームズマガジン2022年5月号 P.186~189をもとに再編集したものです。

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