2021/10/04
陸上自衛隊を構成する16の「職種」とは?
陸上自衛隊を構成する16の「職種」とは?
能力の幅だけ「職種」がある! 「職種」とはなにか? そして「職種」はどのように決定され、その後のキャリアが形成されていくのか? 今回は陸上自衛隊の「職種」について解説しよう。
多様な任務を遂行するための“役割分担”
約14万人の隊員を擁する陸上自衛隊。皆さんは陸上自衛隊と聞いて、どんな姿を連想するだろう? 銃を持って戦う隊員、大地を駆ける戦車、低空を這うように進む攻撃ヘリだろうか。災害救援で活躍する隊員は報道で見る機会も多く、最近で言えば新型コロナ感染症対策にもたびたび陸上自衛隊員が派遣されている。
こうした活動の幅広さは、そのまま陸上自衛隊の能力の幅広さをあらわしていると言えるが、“すべての隊員が、すべての任務に対応できる”わけではない。陸上自衛隊では、隊員を役割分担することで組織として多種多様な任務に対応できるようにしている。その役割区分が「職種」である。
専門分野のエキスパートとして育成
2021年現在、陸上自衛隊が定めている「職種」は16種類である。それが――普通科、機甲科、特科(野戦特科/高射特科)、情報科、航空科、施設科、通信科、武器科、需品科、輸送科、化学科、警務科、会計科、衛生科、音楽科――である。戦闘の最前線に立つ戦闘職種から、兵站などライフラインを維持する後方職種まで、実にさまざまな職種が存在している。部隊編成も、おおむね職種ごとに分けられていると考えていいだろう。
陸上自衛隊の職種は、一般企業の部門・部署と比較して考えるとわかりやすい。たとえば営業職に配属された人間は、営業に関するノウハウや知識を学び、一人前の営業マンとしてキャリアを重ねていくだろうが、彼が研究・開発職に異動させられることは考えにくいだろう。まったく畑違いの部署に配属させられてしまったら、これまで学んできた能力を活かすことは難しいからだ。
これは陸上自衛隊も同じで、16個に分けられた職種は、それぞれが専門分野であり、その分野のエキスパートとして人材が育成されるわけだ。そのため、職種指定された隊員は基本的に退職するまで同一職種の部隊で勤務することになる。“普通科”中隊や“普通科”連隊、“戦車(機甲科)”連隊、“特科”大隊のように部隊名に職種が冠されているのでわかりやすいだろう。
キャリア形成の例――陸士~陸曹
ここで陸士として自衛隊に入隊した隊員をモデルに、キャリア形成のルートをたどってみようと思う。
18歳で自衛官候補生として陸上自衛隊に入隊した場合、まず陸上自衛官としての基礎を学ぶ約3ヵ月の自衛官候補生課程(前期教育)を受ける。前期教育期間中はまだ職種が決定されておらず、すべての隊員が同じ教育を受ける。では、どのタイミングで職種が決定されるのかと言えば、前期教育終盤だ。
陸上自衛隊における職種は、本人の職種希望や勤務地希望などを考慮し、また本人の適格性なども踏まえて総合的に判断して指定される。そのため、本人の希望通りの職種と勤務地になる場合もあれば、異なる場合もある。また、職種によっては“募集枠”が少なく、枠から漏れてしまう場合もある。そもそも募集枠がゼロということもある。新隊員特技課程(後期教育)からは職種ごとの教育となり、それぞれ異なるキャリアがスタートしていく。
この段階で指定された職種は、基本的に退職するまで維持されるが、職種を変えることもできる。その1つのタイミングが陸曹への昇任だ。たとえば、陸曹以上の隊員のみで部隊が構成される警務科(※一部例外もあり)は、このタイミングで初めて選ぶことができるルートだ。そのほかの職種でも職種変換は可能である。ベストなタイミングは、陸曹候補生(陸曹に昇任するための教育に入る人員)に指定された段階で、現在の所属部隊に職種変換の意向を伝え、初級陸曹特技課程(陸曹候補生後期課程)で次なる職種の教育を受けるパターンだろう。なお、陸曹昇任前の陸士であっても職種変換は可能だが、事例としては決して多くない。
このように職種は何度かの変更のタイミングはあるものの、基本的に一度決定したならば退官まで変わらず、その職種部隊のなかでキャリア形成が行われるのだ。
解説&写真:武若雅哉
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解説と写真:武若雅哉/笹川英夫/菊池雅之