2021/04/07
軍事行動の基礎「ドクトリン」を知っていますか? コミックで解説!【後編】
軍事行動の基礎「ドクトリン」とは?
コミックで解説!【後編】
軍事を語るとき、「ドクトリン」という言葉を聞いたことがある人もいるはず。「原理」や「原則」をあらわす言葉だが、いったい軍事とどういう関係があるのだろう? 軍事における「ドクトリン」の意味・役割をコミックとイラストで解説する!
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ドクトリン文書とは何か?
第2回で紹介した「エアランド・バトル」や「マニューバー・ウォーフェア」のようなドクトリンをまとめた文書をドクトリン文書と呼ぶ。
たとえばアメリカ陸軍で「エアランド・バトル」を初めて導入したドクトリン文書は、1982年版のFM100-5『オペレーションズ』(Operations。「作戦」の意)と呼ばれる公式文書である。文書名の頭に付いている「FM」とは「フィールド・マニュアル」(Field Manual)の略で「野外教範」と訳される。
また、アメリカ海兵隊で「マニューバー・ウォーフェア」の概念を初めて導入したドクトリン文書は、1989年に発布されたFMFM1『ウォーファイティング』(Warfighting。「兵戦」などと訳される)だ。こちらの文書名の頭の「FMFM」は「フリート・マリーン・フォース・マニュアル」(Fleet Marine Force Manual)の略で「艦隊海兵隊教範」と訳されることが多い。
その後、アメリカ海兵隊は、1997年に、このFMFM1『ウォーファイティング』の改訂版であるMCDP1『ウォーファイティング』を発布した。「MCDP」とは「海兵隊ドクトリン出版物」(Marine Corps Doctrinal Publication)を意味している。ただし、改訂版といっても、ドクトリンの根本部分である「マニューバー・ウォーフェア」の概念に大きな変化はなく、前述のように現在もアメリカ海兵隊の基本ドクトリンとなっている。
ちなみに、これらのドクトリン文書は一般に公開されており、インターネット上でも容易に読むことができる。
教範とは何か?
我が国の自衛隊で「教範」と呼ばれている文書も、ドクトリン文書の一種だ。
自衛隊における「教範」の公式の定義は、防衛庁(当時)から発せられた訓令第34号第2条によって定められたもので、現在もこれに改正が加えられつつ、いまだに有効となっている。
その訓令第34号第2条の条文は以下のようなものだ。
『教範は、自衛隊の行動及び教育訓練を適切、かつ、有効に実施するために、部隊の指揮運用、隊員の動作等に関する教育訓練の準拠を示したものとする』
このように教範とは、自衛隊の各部隊や学校などで、部隊の指揮官の指揮のやり方や隊員の動作のやり方などを教育し訓練する際に準拠する文書のことで、わかりやすくいうと教科書のようなものなのだ。
ドクトリン文書と軍隊の戦い方
これらのドクトリン文書は、それぞれの軍隊のドクトリン、すなわち(繰り返しになるが)「ある軍隊の装備や編制、教育や訓練、指揮官の思考や意思決定の枠組み、指揮のあり方などの土台となる、軍中央で認可されて軍内で広く共有化された軍事行動の指針となる根本的な原則」に沿って書かれている。
そして、現代のまともな国の軍隊の将兵は、このようなドクトリン文書(教範等)に準拠して教育され、訓練され、行動する。したがって、そうした将兵で構成されている軍隊は、基本的にはドクトリン文書に掲載されている自軍のドクトリンに沿って戦うことになる。逆にいうと、現代のまともな国の軍隊がドクトリン文書に述べられていない戦い方をするのは、例外的なことなのだ。
かつてのドクトリン文書は、たとえば18世紀のプロイセン国王であるフリードリヒ2世(1712~1786年。いわゆるフリードリヒ大王)がまとめた『戦争の一般原則』のように、みずから軍隊を率いて戦った将軍などが個人的な経験や研究にもとづいて執筆するものだった。
その後、19世紀の末頃までに、主要国の多くの軍隊では、戦争や軍隊の規模の拡大と戦争や技術の複雑化などにともなって、幕僚たちの集団作業によって執筆されるようになっていく(ただし、プロイセン陸軍のモルトケ参謀総長がまとめた『高級指揮官に与える教令』のような例外もある)。
とはいえ、第一次世界大戦の頃までは、主要国の軍隊でも、各軍(その国の軍隊全体ではなく、数個軍団を基幹とする部隊の単位)が教令を作成して独自の戦い方をすることも少なくなかった。ドクトリンが「軍中央で認可されて軍内で広く共有化」されるようになったのは、用兵思想の歴史全体から見ると、ごく最近のことなのだ。
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