2025年8月号

2025/07/01

【NEW】無可動実銃に見る19世紀の小火器 198 ウィンチェスターモデル1873

 

 ライフルは本来、高い威力を持ち、長いバレルとストック等の形状から、遠距離の標的を正確に撃つ、あるいは遠距離の敵や獲物を倒すことができるものだ。しかし、西部開拓時代の.44-40弾は、その弾頭重量と初速から、銃口エナジーは689ft.lbsと算出することができる(.44 Henryは568ft.lbs)。一方、現代のライフル弾である.308Winは168grで2,619ft.lbsとなっている。黒色火薬と無煙火薬との違いも大きく影響しているが、実に3.8倍ものパワーなのだ。また弾頭形状の違いから、.308Winの弾道は圧倒的にフラットだ。
 大物猟をやらない人には理解しづらいことだが、大型の野生動物はライフルで撃ったところで簡単に倒れてくれるわけではない。.308Winでエゾ鹿を撃った場合、頭、首、心臓、肺といったバイタルゾーンを撃てばその場で倒れるが、それ以外の部位を撃った場合、走って逃げられることが多い。逃げたところで最終的には倒れ、死に至ることは多いだろうが、林などに逃げ込まれたら、追跡、発見が難しくなる。
 ヒグマなどと対峙する際、.308Winレベルの弾薬ではかなりリスクがある。よりパワフルな3,000ft.lbs以上のマズルエナジーを持つ7mm PRCとか、4,000ft.lbs超えの.300Win Magの出番なのだ。
 したがって.44-40弾を使用するウィンチェスター モデル1873による大型野生動物のハンティングは、極めて不利であり、グリズリーベアやブラックベアなど危険な動物を対象としたハンティングにこれを用いるのは、自殺行為に等しい。
 西部の開拓者達は食料を調達するため、狩猟する機会は多かっただろう。彼らがウィンチェスター モデル1873で撃って効果があった野生動物はコヨーテやボブキャット等の小型動物だったはずだ。
 もちろんディア(鹿)ハンティングでも使われただろう。しかし、バイタルゾーンへの正確な一撃を加えない限り、無駄に獲物を苦しませただけだったと思われる。そのため、開拓者達は、連射性能の高いレバーアクションライフルとは別に、より強力なライフルを用いて食料調達をおこなった。
 ウィンチェスターのレバーアクションライフルがよりパワフルな弾薬に対応できるようになったのは、モデル1876以降だ。単純にモデル1873を大型化し、より大きな威力のライフル弾に対応している。しかし、ロッキングメカニズムはヘンリーライフルの時代から変わっていないトグルリンクロック方式であり、これは撃発時にボルトが開かないよう後方から押さえているに過ぎない。

 

▲トグルロックシステムがレシーバーに内蔵されている。これはヘンリーライフル、ウインチェスターモデル1866とほぼ同じで、トグルシステムがボルトを後方から押さえつけているものだ。レバーを操作することでそのトグルロックを解除し、ボルトが前後動する。これによって排莢とチューブマガジンから弾薬を引き出し、チェンバーへの装填をおこなう。

 

 この構造を改め、確実なロッキングメカニズムをウィンチェスターレバーアクションライフルに組み込んだのが、John Moses Browning(ジョン・M・ブラウニング)だ。ブラウニングが設計したモデル1886は、当時もっともパワフルだった.45-70 Government弾にも対応できるものだった。これにより初めて、ウィンチェスターレバーアクションライフルは、大物猟にも使える銃となった。
 したがって開拓者達がウィンチェスターモデル1873を用いたのは、主に対人用だ。未開の地で自ら、そして家族の身を守るために用いたに過ぎない。それも主に近距離戦闘用だ。ピストルキャリバーである.44-40弾の有効射程はせいぜい100m程度であっただろう。
 そのためアメリカ軍はもっと遠距離射撃が可能なライフルが必要だと考え、レバーアクションライフルを公式には採用していない。当時のアメリカ軍は単発のブリーチローディングライフルを1867年以降使用し、1873年にスプリングフィールド モデル1873トラップドアを全面採用した。実際には連射性能に勝るレバーアクションライフルも使用したが、それは限定的だ。よって先住民族との戦闘である“American Indian Wars”でウィンチェスターレバーアクションが多用されることはなかった。
 そうであるならば、“The Gun that Won the West”というフレーズは、ウィンチェスターモデル1873には当てはまらないように思える。

 

▲ライフルとカービンとではバットプレートの形状が異なる。写真はライフルで、これはcrescent-shaped buttplate(三日月型形状バットプレート)と呼ばれるものだ。肩付けした時、よりしっかりと腕の付け根に収まるようこの形状となっている。カービンはカーブがやや緩やかなショットガンスタイルのバットプレートで、素早く肩付けができるデザインだ。

 

モデル1873は、“The Gun that Won the West”なのか

 当時の西部を舞台にし、“開拓者魂を持つ白人を主人公とし、無法者や先住民と対決する”というプロットに基づいたいわゆるウエスタン小説は、それがリアルタイムで進行していた時代から、すでに始まっていた。
 文明と未開の地の境界線であるフロンティアは1890年に消滅したといわれている。すなわち“西部は開拓された”わけだ。それ以降もウエスタン小説はDime Novel(大衆小説)やPulp Magazine(大衆向け雑誌)において高い人気を持ち続けた。新たな娯楽として映画が誕生すると、それら小説を映像化したウエスタンムービー(西部劇)が盛んに作られるようになった。ウィンチェスターリピーティングアームズが、“The Gun that Won the West”をキャッチコピーとして、広告に用いたのは、そんな1919年のことだ。
 西部開拓時代を舞台に、フロンティアスピリッツを持つ白人をヒーローとした映画や小説人気を、自社製品と結び付け、売り上げを伸ばそうとしたのだろう。事実としてモデル1873はフロンティアが存在した時代の大人気モデルであり、開拓者達はこれを広く活用した。しかし、この銃で西部を開拓したというのは、少し違うように思える。
 それでも、この“The Gun that Won the West”というフレーズは広まり、100年以上経過した今でも使われている。

 

▲レシーバータングエリアにはシンプルに“Model 1873”とだけ刻印されている。


 1919年に製造を終了したモデル73だが、FNハースタルグループ(現FN Browning Group)傘下のウィンチェスターリピーティングアームズによって、2013年に104年ぶりに復活した。口径は.357マグナム、.44-40、.45 Coltで、20インチバレルと24インチバレルがあり、20インチはラウンド形状だが、24インチはオクタゴンバレルとハーフオクタゴンバレルから選べる。この新生モデル73を製造するのは日本の株式会社ミロクだ。

▲ウィンチェスターモデル1873
全長:1,100m
銃身長:24インチ
重量:3,657g(無可動実銃化加工前)
使用弾:.38WCF(.38-40)
装弾数:13発+1
作動方式:トグルロックレバーアクション
無可動実銃
価格:\660,000(税込)
(無可動実銃は撃発機構等が溶接されていますのでボルト操作や装填、排莢はできません)

 

ウィンチェスターモデル1873

全長:1,100m
銃身長:24インチ
重量:3,657g(無可動実銃化加工前)
使用弾:.38WCF(.38-40)
装弾数:13発+1
作動方式:トグルロックレバーアクション
無可動実銃
価格:\660,000(税込)
(無可動実銃は撃発機構等が溶接されていますのでボルト操作や装填、排莢はできません)

 

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Text by Satoshi Matsuo

 

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