2025/06/21
ARピストル & スタビライジングブレイス
Gun Professionals 2015年6月号に掲載
ARピストルとスタビライジング・ブレイス
近年、“スタビライジングブレイス(SB)”と呼ばれるパーツを装着したSBR(ショートバレルドライフル)モドキが大量に市場に登場している。それらは“ピストル”扱いで市販されたものだ。SBRの購入は非常に手間が掛かる。もし、SB付きのピストルが高い機能を持っているなら、面倒なSBR取得は意味がないことになる。そこでSB付きピストルの機能を確かめるべく、SIGのSB15とアダムスアームズのタクティカルエリートアッパーを入手し、手持ちのARロアレシーバーに組み込んでみた。
2025年6月 GP Web Editor補足:スタビライジングブレイスの14年
スタビライジングブレイスについては紆余曲折の歴史があります。
2012年5月、障害を持つ人のために片腕だけでAR系の銃を射撃できるアタッチメントとして、スタビライニングブレイスが発売になりました。これを装着すると、ストックを装着するとショートバレルドライフル(SBR)登録せずに、16インチ以下のAR系(あるいはそれ以外の)ピストルの外観を、SBR風にすることができたのです。
そのため、これを購入する人の多くは、片手で銃を構えて安定した射撃ができるように使ったのではなく、スタビライジングブレイスを肩に当ててストックのようにして使用したと思われます。
これを装着し、本来の用途とは異なるストックに準じた使い方をしても本当に良いのか、不安に思ったユーザーがATFに問い合わせたところ、2014年3月15日付で“SB15を肩付け射撃しても問題ない”という回答が公式にATFから発表されました。
しかし、2015年1月16日、ATFは“スタビライジングブレイスを本来の目的とは異なる肩付けで使用することは、この製品を勝手にredesign(再設計)してSBRに改造したことになり、違法”という、従来の判断を覆す見解を発表したのです。
この記事は、その時期に書かれたものです。
しかし、このATFの判断に対する訴訟が起こり、その結果、2017年にATFは“スタビライジングブレイス付きの銃をSBRに改造したと判断するには、物理的なreconfigure(再構成)をおこなうことが必要で、単に肩付け射撃をしても違法とは判断しない”という見解を発表するに至りました。わかりやすく言えば、“スタビライジングブレイス付きの銃を、単に肩付け射撃してもそれだけでは違法とはしない”ということです。
スタビライニングブレイスを片付け射撃しても、一応、違法にはならないというグレーな状態になり、その結果、スタビライジングブレイスは大流行していきました。
しかし、その約5年後の2023年1月13日、ATFはスタビライジングブレイスの判断基準を新たに打ち出します。その銃が“肩付け射撃ができる銃”であると判断されれば、所有者はそれをショートバレルドライフルとして登録するか、装着されているブレイス自体を廃棄することを求めたのです。そして1月31日、ATFはこれを正式に要請、同年6月1日以降、これが装着されたモデルをSBRと定め、NFAの規制対象にするとしました。議会の承認なくATFが法律を制定する権限はないにも関わらず、法制化しようとしたのです。
これによって、スタビライジングブレイスは店頭からほとんどが消え、銃器メーカーのカタログからもスタビライジングブレイス付きの銃は外されました。
その一方で、予想された通り、これに対する訴訟が起こり、翌2024年8月24日、テキサス州地方裁判所は、銃に装着したアームブレイスをストックと見なし、これが装着された単銃身の銃をショートバレルドライフル(SBR)として規制の対象としたATFの判断は、行政手続法(Administrative Procedure Act)の規定を無視したものであると判断、ATFの決定を無効とする判決を言い渡しました。これにより、2023年5月よりSBRと見なされたスタビライジングブレイス付きラージフォーマットピストル(市場には約700万挺あるといわれています)は、それ以前と同じに“あくまでもピストル”として合法的所持が可能となりました。これを受けて、スタビライジングブレイスを装着した銃が市場に戻ってきました。
2025年6月現在、このような状況にあります。
コレってアリなの?
2012年以降、銃砲店の棚やインターネットの銃器売買サイトなどで、超コンパクトなAR系銃器を見かけるようになった。それらは一般的に“ARピストル”と呼ばれるモデルで、基本的に銃身長7~10インチといったショートバレルアッパーを搭載し、なかには小さなショルダーストックのようなパーツが付いた機種もある。この“スタビライジングブレイス”と呼ばれる一見ショルダーストックに似たパーツは、“ARピストル”のバッファーチューブに取り付けることで、銃全体があたかもSBR(Short Barreled Rifle:短銃身ライフル)と見間違えるような外観に早替わりする。短銃身系銃器に強い興味を持つ筆者としては、どうしても気になるモデルだ。
SBRはマシンガンや消音器などと同様、NFA(National Firearm Act:国家銃器法)ウェポンに分類され、その取得には煩雑な手続きと厳格な審査が伴うことで知られている。地元警察やFBIによる犯罪歴審査にはじまり、全てのNFAウェポンの記録を管理するBATFE(The Bureau of Alcohol, Tobacco, Firearms and Explosives:アルコール、タバコ、火器、爆発物局。以下通称のATFと記す)との申請書類のやりとりなど、その入手手続きは、数ヵ月から時には一年以上といった長大な時間に及ぶことがある。
ところがこれら一見してSBRに見える“ARピストル”は、登録上はその名のとおり「拳銃」であり、購入時やその後の法的な取扱いは通常のハンドガンと何ら変わることがない。銃器購入資格に問題が無ければ、銃砲店で“ARピストル”を購入し、SBRのように何ヵ月も待たされることなく、その場でお持ち帰りが出来る。
チョット待てよ?!もしも銃砲店のカウンター越にSBRと酷似した銃器を簡単に入手できるのであれば、苦労してSBRを手に入れる意味があるのだろうか?
更に“ARピストル”とSBRの機能を比較した場合、もしも両者に大した差が無ければ、入手と管理が面倒なSBR自体に存在価値が見出せるのか…?
これまでSBR申請手続きで苦労した経験を持つ筆者としては、どうしても納得がいかず、いくつかの疑問が湧き上がってくる。今回はそのような疑問も含め、“ARピストル”のあらましと、“スタビライジングブレイス”についての検証をお伝えしよう。




左からアイバー・ジョンソン製“エンフォーサー”ピストル(銃身長10.5インチ 口径.30カービン)。元々拳銃として登録されているモデルだが、セレクター・レバーの存在からも分かるとおり、内部にM2カービン用レジスタード オートレバーが組み込まれた状態にあることから、現在の銃器カテゴリーはマシンガンに分類される。
写真中央はレミントン870 AOW(銃身長10インチ 12番ゲージ)。法執行の現場などで、突入時のドアノブ破壊に使用されることがある。マシンガンや消音器といったNFAウェポンには取得時に200ドルの税金が掛かるのに対し、同じNFAウェポンでありながら、AOWの課税は5ドルで済む。申請手続きの煩雑さに変わりは無いが…。
Rossi製M92“ランチ・ハンド”ピストル(銃身長12インチ 口径.45LC)。一見ショルダー・ストックに見えるグリップは、肩付けしようにも短すぎて肩に届かない。長物と混同しそうな紛らわしい外見から、わざわざ「拳銃として取り扱うこと」という銃砲店への注意書きが添付されている。

連邦法による銃器カテゴリーの分類
ここで銃器登録に関する連邦法を振り返ってみよう。現在アメリカにおける全ての市販銃器は、拳銃、ライフル、散弾銃など銃種を問わずカテゴリー別に分類され、例外なくATFに登録されている。これらの銃器は一定の規則によって管理されていて、その規則に違反した場合は、重罪として厳しく罰せられることになる。以下に連邦法により定められた外寸やストック装着に関するカテゴリー別の制限を記すが、州によっては更なる制限が加えられる場合がある。
拳銃(ピストル):アメリカ国内製造品であれば、寸法的な制限はないが、第二次大戦以前に製造されたモデル(*1)を除き、ショルダーストックを取り付けることは出来ない。拳銃にショルダーストックを合法的に取り付けるには、ATFへのSBR申請が必要となる。尚フロントグリップについては、取り付け角度が45°以下であれば問題ないが、45~90°のバーチカルグリップは取り付けることが出来ない。拳銃にフロントバーチカルグリップを合法的に取り付けるには、ATFへのAOW(Any Other Weapon)申請が必要となる。
*1 マウザーミリタリー、ブラウニングハイパワー戦前モデル、南部式甲/小型などが該当する。 て特殊な状況にあるといえる。
ライフル:銃器の全長が26インチ(660mm)以上、銃身長が16インチ(406mm)以上であること。この数値を満たせば、フロントバーチカルグリップ、ピストルグリップ及びショルダーストックの有無に制約はない。
SBR(Short Barreled Rifle):連邦法により禁じられている銃身長16インチ未満の短銃身ライフルはNFAウェポンに分類されるため、合法的に所持するには、ATFによる特別な許可が必要になる。SBRには、フロントバーチカルグリップ、ピストルグリップ及びショルダーストックの有無に関する制約はない。
散弾銃: 銃器の全長が26インチ(660mm)以上、銃身長が18インチ(457mm)以上であること。この数値を満たせば、フロント・バーチカルグリップ、ピストルグリップ及びショルダーストックの有無に制約はない。
SBS(Short Barreled Shotgun):
連邦法により禁じられている銃身長18インチ未満の短銃身散弾銃はNFAウェポンに分類されるため、合法的に所持するには、ATFによる特別な許可が必要になる。SBSには、フロント・バーチカルグリップ、ピストルグリップ及びショルダーストックの有無に関する制約はない。