2025/06/19
Smith & Wesson Model 19 その過去と現在
Text by Terry Yano
Photos by Toshi
Gun Professionals 2014年9月号に掲載
リボルバーが公的機関のオフィサーが装備するサイドアームの主流であった頃、スミスアンドウェッソンが携行性を重視して開発したモデルが“.357 Combat Magnum”(コンバットマグナム)だ。この銃は後にモデル19と呼ばれるようになり、多くのオフィサーに愛用された。
時は流れ、現在のアメリカではリボルバーをメインに使用する公的機関のオフィサーはごくわずかになり、時代は完全にセミオートマチックに移り変わった。デューティリボルバーは、その使命をほぼ終えている。

.357マグナム
スミスアンドウェッソン(以後はS&Wと略す)はコルトと共に米国を代表するリボルバーのメーカーで、同社が1899年に発表した“.38 Military & Police ”(ミリタリーアンドポリス)は近代ダブルアクション(以後はDAと略す)リボルバーの基礎となり、その名のとおり軍や警察機関で用いられた。
LEオフィサーにもいろいろあるが、一定地区のパトロールを担当し、事件発生時に現場へ向かう警察官のことを「パトロールオフィサー」(くだけた表現では「ストリートカップ」)という。その昔、アメリカのパトロールオフィサーが携行していたのは、.38口径のリボルバーであった(日本では今でもそうだが)。
しかし、1920年代に組織犯罪者たちの武装が強力になってくると、.38スペシャルの威力不足が問題となる。ガンライターやハンドローダーたちのデータを活用し、.38スペシャルの強装弾とそれらの使用に耐えうるリボルバーが開発されたが、S&Wのダグラス・ウェッソン氏(Douglas B. Wesson)はさらなるパワーを求めていた。大型獣を1発で倒すことが可能な狩猟用ハンドガンを誕生させるというビジョンを抱いていた彼の具体的な目標は、6-1/2インチ銃身から158グレインの弾頭を1,400fps以上で撃ち出す(ME=初活力は688ft.lbs以上)という当時の基準では非現実的とも思える数値だ。
数々のテストを経て、ウィンチェスターによって製品化された新型カートリッジは、1934年12月28日に“.357 Magnum”(.357マグナム)と命名された。従来の.38口径リボルバーで発射すると、銃が破損して射手や周囲に危険が及ぶため、それらに装填できないようマグナムカートリッジの全長は.38スペシャルよりも0.135インチ(3.4mm)延長されている。
新型カートリッジと共にS&Wが発表したのは、マグナム対応の大型(Nフレーム)リボルバー“The .357 Magnum”だ。銃身長やサイトのスタイルなどの指定が可能な受注生産品で、現在はコレクターたちに「プリウォー・マグナム」と呼ばれている。開発コンセプトが狩猟用ハンドガンであったことから、当初は6-1/2~8-3/4インチという銃身長が多かったが、LE用としての可能性が見出された後は携行性を考慮した3-1/2~5-1/2インチ銃身の人気が高まり、FBIなどいくつかのLE機関で採用された。
S&Wリボルバーの最高峰である元祖.357マグナムリボルバーの製造は第二次大戦によって中断されたが、戦後しばらくして復活し、近代化改修を経て1957年にはモデル27となる。チェッカリングが施こされたトップストラップなど、元祖.357マグナムリボルバー譲りの豪華な仕様は継承されていたが、1954年にはその廉価版である“Highway Patrolman”(ハイウェイパトロールマン、後のモデル28)が登場し、こちらがLE機関に広く普及した。
Nフレームの.357マグナムリボルバーは、フルパワーのマグナムロードを長期使用に耐えうる頑丈さを備えていたが、その巨体と重量のために携行性はいまひとつだ。
コンバットマグナム
サイドアームの携行性向上を求める声を重視したS&Wは、米海兵隊上がりでUSボーダーパトロールマン/曲撃ち射手であったビル・ジョーダン氏(Bill Jordan)の意見を取り入れ、ヨーク部を若干大型化させた強化型Kフレームに.357マグナムと組み合わせたデューティリボルバーを完成させた。これが、1955年11月に発表された“Combat Magnum”(コンバットマグナム、後のモデル19)だ。サイドアームを一日中携行するLEオフィサーたちにとって、装備の軽量/コンパクト化は負担軽減を意味する。スリムでコンパクトながら強力な.357マグナムを使用できるコンバットマグナムは、全米のLE界で大歓迎された。
今でもトップクラスのマンストッパーとして評価される.357マグナムは、Kフレームから発射すればリコイルが手強いが、初心者の射撃訓練時などではスタンダードの.38スペシャルを使用すればよい。汎用性の高いミディアムフレームの.357マグナムリボルバーは民間市場でも成功し、ステンレス版のモデル66をはじめフィクストサイト付きのモデル13(カーボンスティール版)やモデル65(ステンレス版)などというバリエーションに発展してゆく。
コンバットマグナムが開発された1950年代中頃、LEオフィサーの射撃訓練では.38スペシャルのターゲットロードが使用されており、勤務中に装填して携行するフルパワーの.357マグナムを実際に射撃する機会は少なかった。しかし、後には射撃訓練でも.357マグナムが用いられるようになり、Kフレームの強度不足が露呈する。もともと.38スペシャル用として開発されたKフレームの設計には余裕がなく、シリンダー前部のガスリングとの干渉を避けるためにフォーシングコーン下部が削り取られていた。強化型Kフレームでも同部位の強度不足は改善されておらず、プレッシャーの高い.357マグナムを数多く撃つと亀裂が入る恐れがある。
Lフレームの登場
.357マグナムの長期使用に対応するLE用リボルバーとして、S&Wが開発したのがLフレームだ。ボアラインとシリンダー軸の距離がKフレームより若干増加し、フレームやバレルも大型化されたが、グリップフレーム部はKフレームのサイズが維持されており、グリップは互換性がある。アジャスタブルサイトを備えたモデル586 / 686と、フィクストサイトのモデル581 / 681が1981年に発表され、これらには.357マグナム発射時の反動軽減を考慮したフルラグ仕様のバレルが備わっていた。当時は一目でKフレームと見分けることができたが、後にはJ・K・Nフレームでもフルラグ付き銃身を備えたモデルが作られている。
Lフレームの代表ともいえるモデル586 / 686には“The .357 Distinguished Combat Magnum”(.357ディスティングイッシュト・コンバットマグナム)という呼称が与えられ、多くのエンジニアリングチェンジ(設計変更)を経つつ、様々なバリエーションが生まれた。1996年には7連発となった“Model 686 Plus”(~プラス)が追加され、シリンダー径などサイズの変更なしに装弾数が1発増加したということで一部のユーザーには歓迎されたが、7連発に対応したスピードローダーが少ないというデメリットがあり、従来の6連発仕様に取って代わるほどの人気はない。Lフレームには.357マグナムのほか、38スーパーや.40 S&W(6連発)、.44スペシャル(5連発)でも製造され、2014年度の新製品として.44マグナム5連発のモデル69も登場した。