2019/11/24
実銃レポート「WOLF TACTICALのAR15 .300BLKモデル」【前編】
ベルギーの名チューナー、パトリック・ヴィッツの技
ベルギー警察では、主に特殊部隊で用いるアサルトライフルの使用弾薬に.300 BLK(.300 AACBLACKOUT)を選定した。そこでベルギー最大の銃砲店「コルネ(Cornet & Co)」のガンスミスにして名チューナーであるパトリック・ヴィッツ氏を訪ね、その実情を探るとともに氏の手掛けるWOLFTACTICAL(ウルフタクティカル)のAR15 .300BLKモデルを中心に撃ってみた。
「WOLF TACTICALのAR15 .300BLKモデル」【後編】はコチラ
“パット”ことパトリック・ヴィッツは陸軍や警察で経験を積み、退職後にコルネのガンスミスとなり、WOLFTACTICALのブランド名で各種パーツの開発も行なっている。彼は“カスタム”ではなく“チューン”という。チューニングを施し本来の性能、あるいはそれ以上の秘めたる性能を引き出してやる…そんな信念があるのだろう。
現在パットはベルギー警察からの要請で.300 BLKのアサルトライフルに対応したアクセサリー類の開発に取りかかっている。特にサイレンサーは特殊部隊向けの重要品目で、当初コルネが代理店となっているB&Tの製品を警察側に提案したものの、コストパフォーマンスの面で渋られてしまった。そこでパットは、今まで温めてきたアイデアを盛り込んで開発したウルフタクティカルのサイレンサーを提案したのだ。これはB&Tの同等製品に比べ約30dbほど発射音を抑え、さらに本体にアルミ合金を採用して軽量化にも成功。3,000発以上射撃してもノートラブルだ。
WOLF TACTICALのマズルデバイス各種。上からサイレンサー2種、各種フラッシュハイダー/マズルブレーキ、そしてB-Shield。サイレンサーはカバーを外した方で、スチール製のアタッチメントとアルミ合金製本体の構成がわかる。銃本体側のアタッチメントになるフラッシュハイダーやマズルブレーキは用途別に選択可能。バレルに直接ねじ込むタイプの一般シューター向けマズルブレーキも用意されている。
銃側の結合部となるフラッシュハイダーは、一般的なサイレンサーでは従来型フラッシュハイダーから分散されたガスが減音効果を損なう場合がある。これに対しパットのサイレンサーを結合するフラッシュハイダーは、均等に最初の部屋にガスを行き渡らせることで減音効果を高めている。.300 BLKのサブソニック(亜音速)弾を射撃すると、機械的な作動音以外は聞こえないほど静かなのである。
サイレンサーは三叉ハイダーを付けたままでも装着可能だが、外して装着した方が消音効果は高い。消音効果を高めるにはサイレンサーに入ってきた噴射ガスの一番最初の部分が肝心とのことで、ハイダーが付いたままだとその分が塞がれてしまい、発射ガスが内部に拡散しにくくなるためだ。
ベルギー警察で採用候補となる.300 BLKのアサルトライフルはFNのマルチキャリバーアサルトライフル、SCAR S-Cが有力のようだ。その一方で、特殊部隊員をはじめとした警官が制式銃と同口径の銃を自前で購入し、任務に使用することもある(筆者が住むフランスでもそれは同じだ)。とりわけ警察関係者の間で定評のあるパットがチューニングを手がけたAR15は人気だ。
パットがベルギー警察向けに組むAR15はDANIEL DEFENSEやHERA ARMSのレシーバーを使うことが多く、彼が厳選したパーツを経験に裏打ちされたテクニックで正確に組み込んでいく。
AR15はリコイルスプリングが後方に突き出したバッファーチューブに内蔵される都合上、ストックのサイドフォールディング化(折畳時に全長をより短くできる)はできなかった。LAW TACTICALのフォールディングストックアダプターはその常識を破り、リコイルスプリングを分離することでそれを実現した。
パットの探究心には際限がない。新たな銃を試したり湧き出るアイデアを具現化したりと忙しいが、時間は限られている。今はこの警察向けアサルトライフル用サイレンサーを完成させなければならない。なお、ハンドガン用も開発中なのだとか…。写真はサイレンサーの最終調整に余念がないパットの一コマ。
【アームズマガジンウェブ編集部レビュー】
FN社の本拠地でもあるベルギーで、AR系ライフルが特殊部隊に人気があるという事実に驚いた方も多いだろう。しかも、口径は.300BLKである。これは、サイレンサーとの親和性も考慮したチョイスなのだろう。実際にそのサイレンサーの効果はいかほどのものであろうか?
Photo&Text:櫻井朋成(Tomonari SAKURAI)
編集部レビュー:アームズマガジンウェブ編集部
この記事は月刊アームズマガジン2019年12月号 P.122-129より抜粋・再編集したものです。