実銃

2019/09/21

無可動実銃「MPi-AKS-74N」

鋼鉄とグリスの匂いが漂う至高の浪漫

この国では、軍用銃を撃つことはおろか触れることすら難しい。故に軍用銃に対する評価は誰かの言葉の受け売りに偏ってしまう。だがその銃の真の価値を知っているのは、その銃で戦った戦士だけではなかろうか。銃の傷ひとつひとつが戦士の記憶だからこそ、無可動実銃に触れることは、戦士の記憶と自分を重ねられる崇高な儀式ともいえるのだ。

 

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冷戦を象徴する国家のライフル

 

無可動実銃「MPi-AKS-74N」

 

 東ドイツは1949年から1990年までの41年間だけ存在した分裂国家だ。敗戦国の常として軍隊は解体され、治安維持のための人民警察だけが作られた。しかし冷戦の激化によりワルシャワ条約機構軍の一翼を担うため人民警察は国家人民軍に改組される。この再軍備にあたり、国家人民軍はソビエト連邦製のAK-47突撃銃を制式小銃として採用し、この2年後にはライセンス生産を開始した。

 

 

無可動実銃「MPi-AKS-74N」

 

MPi-AKS-74N自動小銃(複数在庫品 #89333495)

  • 全長:939mm(736mm)
  • 口径:5.45mmx39
  • 装弾数:30発
  • 価格:¥162,000

 

 

 東欧諸国のなかで比較的早くにAKの生産が認められた背景には冷戦の象徴とされる東西両陣営が駐留するドイツならではの事情があったからだろう。また生産には戦時中に大量の兵器を生産していた工業地帯ズールの工業施設および人員が取り込まれた。これらの中にはザウエル&ゾーン、カール・ワルサー、アンシュッツなどの銃火器の製造に長けたメーカーも含まれており生産能力は高く、1970年代までには全世界に流通するカラシニコフ銃の生産の3分の1近くをドイツ製が占めるほどになっていた。

 

 

ドイツ魂を受け継いだAK

 

 ドイツ製のAKにはソビエトオリジナルより先進的なものが採用されていた。1つはソ連のAKMに先駆けて銃床などの木製パーツを、焦げ茶色のプラスチック樹脂製部品に変更してコストダウンと生産性を向上。もう1つは下方折り畳み式ストックを側面折り畳み式ストックに改良し、セレクターの操作を容易にしている。

 

 

無可動実銃「MPi-AKS-74N」

ライセンス生産でありながら非常に高品質な出来栄えとオリジナルの樹脂パーツが採用され個性的な外観になっている。特に畳まれた状態であっても操作レバーに一切干渉せず使用可能なストックはAKでありながらもドイツらしい特徴を残している

 

無可動実銃「MPi-AKS-74N」

本家ソビエトに先立って採用された樹脂製ハンドガード。上下で微妙に色が違っているのは材質の違いで、上部がポリアミド、下部は耐久性の高いグラスファイバーが使われている

 

無可動実銃「MPi-AKS-74N」

イースト・ジャーマン・パターンと呼ばれるストックは、周辺国のルーマニアやポーランドでも高い評価を得て同種のストックが採用された

 

 

 このMP40で開発された折り畳み方式を独自に進化させた設計のストックはアサルトライフルの先駆者らしく、ソ連製でも後継機種のAK74シリーズの中期型まで採用されなかったものが、東ドイツではAK-74タイプの前のAKMタイプから装備された。下方折り畳み式銃床を「ロシアン・パターン」、東ドイツ製の側面折り畳み式銃床を「イースト・ジャーマン・パターン」と呼び、他国でライセンス生産されるAKにも影響を及ぼしている。

 

 

無可動実銃「MPi-AKS-74N」

ハイダーは一般的なAK-74と同様の大型のマズルブレーキ付きが採用されている

 

無可動実銃「MPi-AKS-74N」

グリップに刻まれた滑り止めチェッカーは、オリジナルの側面チェッカーに対し東ドイツではコーナーに設けられた。同様の効果を持ちながら視覚的な特徴にもなっている

 

 

 MPiシリーズは、外貨獲得手段の1つとして輸出が盛んに行なわれたが、過剰に供給されたAKの価格低下を招いており、AK-74のライセンス生産に関する交渉においては輸出を禁ずる条項が加えられている。しかし、この約束は東西ドイツの統合により東ドイツが西ドイツに吸収されたことで効力を失い、ドイツ政府によって接収されたMPiシリーズは少数が研究や演習などに用いられ、大多数は統一ドイツ政府によって第三国へと売却された後、紛争地域などへ流出してしまっている。これは統合ドイツがEUに参加した際に弾薬がNATO弾に統一されたため、ソビエト規格の5.45mm弾が廃止されるなどワルシャワ軍の装備も順次更新されていったからであった。
 そのためMPiシリーズの進化は74タイプの夜間戦闘に対応するため暗視装置を装着するためのマウントプレートがレシーバ左側面に付属するなどの近代化程度で終了している。他国の銃をベースに伝統的なドイツらしい改良を行なったMPiシリーズは、西側とは違う、どことなくナチス時代が漂う1挺であった。

 

 

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TEXT:IRON SIGHT
撮影協力:東京サバゲパーク

 

 


この記事は月刊アームズマガジン2019年10月号 P.120~121より抜粋・再編集したものです。

 

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