ミリタリー

2026/11/06

技術・筋力・団結で湖上を進む!渡河ボートを使った訓練に密着取材【前編】

 

技術・筋力・団結で湖上を進む!

渡河ボートを使った訓練に密着取材【前編】

 

 雨が降りしきる本栖湖。湖畔に渡河ボートを運び込み、組み立て、湖上へ漕ぎ出す! 貴重な渡河訓練で、数日間にわたって徹底的に隊員たちの練度を高める。個人の技術と筋力はもとより、仲間との団結があってこそ、ボートは力強く進むのだ。

 

手前は、水面に刺すように力強く「かい」を振り下ろして水を漕ぐ隊員。かいの持ち方や操り方は想像よりもダイナミック。全員が息を合わせて、この激しい動きを繰り返す

 

舟尾に固定された器具に嵌めた「ろ」を操る隊員。足を開いて立ち、前後に大きく押し引きしてろをくねらせ、舟を進め、舵を取る。うまく扱えなければ、ろが外れてしまう

 


 

 取材当日の早朝、土砂降りの雨のなか編集部を出発した。当然、自衛隊の訓練がよっぽどの悪天候でもない限り中止になることはないだろうという心づもりでいた。とはいえ、道中の事故や時間の遅れは心配で、無事に目的地の本栖湖に到着することを祈りながら車に揺られていた。その後、現地に到着。本栖湖を見渡すと、雨が降るなか深い霧が立ち込めて山肌と水平線を隠し、灰色の空と湖面が静かに広がっていた。まるでこれから訓練する場所を霧が包み込んでいるようだった。

 

これから渡河ボートに乗る隊員たちは、水上作業のためブーツではなくて地下足袋を履いている。ズボンの裾は、水が入っても抜けるように留めずに解放させて捲っている

 

かいを漕いだあとは倒れ込むように座る隊員も見られた。座っているときと漕いでいるときの切り替えが素晴らしい。後編では新隊員との表情の違いが明らかになる


 今回取材したのは、滝ヶ原駐屯地の教育支援施設隊による施設技術集合訓練「渡河訓練」。教育支援施設隊は施設科部隊で、道路や橋などの建設や障害物の処理、渡河などの作業を担っている。今回の渡河訓練では、災害対処を想定し、渡河ボートを使いこなせるようになることを目的として、安全教育やボートの漕舟などの訓練が行われた。
 実際に渡河ボートを使った訓練を行える機会は貴重だ。今回も、本栖湖観光協会や富士河口湖町長、近隣住民の方々の理解と協力を得て、本栖湖での訓練が実現した。訓練期間は6日間で、そのうち4日間が本栖湖での漕舟訓練となる。取材日は漕舟訓練の2日目。2日後には「部隊対抗漕舟競技会」が行われ、隊員たちは競技会での勝利を目指し、練成の真っ只中にあった。


 まずは東側訓練場へ案内された。ここでは、普通科教導連隊・機甲教導連隊・特科教導隊の3部隊の隊員たちが集まっていた。ボートを湖畔の適切なポイントに運び、組み立てる。そして、舟尾で推進力を生み出し、舵を取る「ろ」、ボートの左右で水を漕ぐ「かい」、水底を突いて舟体を前方へ押し出す「さお」、それぞれの器材の基本的な操作を確認する。準備を終えると、自由にボートを操る「自由航行」と、指定された三角形状のコースを正確な航路で漕舟する「三角航行」を行う。隊員たちは訓練期間中、これらの作業を繰り返して体に叩き込み、ボートを操る技術と体力を錬成していく。若手の担当教官である教育支援施設隊の浅泉さん(27歳)は、「練度の基準はありますが、個人の技能はそれぞれ違うので、見極めて指導しています」と話した。

 

かいを手にして険しい表情の隊員。疲れた様子で下を向く隊員も見られた。渡河ボートは個人の技能だけでは進まない。チームで息を合わせてはじめて、ボートは進むのだ

 

裏返しに置かれている渡河ボートを隊員たちがひっくり返している様子。100数十キロもの重量がある半形舟を2つつなげて全形舟となっている。舟の下には器材が隠れていた

 

空中に出る部分と水中に沈める部分のつなぎ目を調整する隊員。基準の角度で固定したのち、実際に入水して押し引きを試し、再び調整を行う。最適な角度は舟によって異なる


 私は安全舟に乗せてもらい、湖上に出ていったボートに近づいた。「イチニーサン! イチニーサン!」という掛け声が聞こえてくる。湖畔で見ているよりも、かなり激しく動いているのがわかった。ブイ近くのボートからは、「ろが死んでるぞ!」と教官の声も飛んできた。
 安全舟を降りて、ろを操っていた普通科教導連隊の宮沢さん(20歳)に話を聞いた。「ボートを漕ぐのは地味に見えて大変です。腕の筋肉を中心に、体全体でろを押し切ったり、引き切ったり。それに加えて、細かい技術も必要なので難しいです。でも、災害派遣はもっと細かい動きをする必要もあり、もっと大変です。」


 そして私は、今度は渡河ボートに乗せてもらうことになった。足元にはかいやロープが、目の前には隊員の背中がある。後ろを振り向けば、前方を見つめて足を開いて踏ん張り、ろを大きく前後に押し引きする隊員がいる。やがて、かいを持った隊員たちが立ち上がると、「イチニーサン! イチニーサン!」と声を出しながら、ザクザクと水面を耕すように漕ぎ始める。ボートが一気に速度を上げた。


 ボートから降りた私は、まだ舟上にいるような揺れを感じながら、西側訓練場へ移動した。
 訓練は、まだまだ続く。

 

取材後記

 

 意外だったのは、想像以上に徹底した安全管理だった。訓練のはじまりから、つねに隊員の体調を確認していた。それほど水上事故は恐ろしいものなのだ。思い起こせば、私がこれまでに「死ぬかもしれない」と思った経験は、すべて水にまつわる出来事だった。プールの底から水面を見上げたとき、川で足をとられて体が流れたとき。今回の取材を通して、改めて水の怖さと、それに向き合うための安全管理の大切さを感じた。

白河 理子

 

雨が降るなか取材メモを取るのにも苦労した。レインコートを着て帽子を被り、手に持ったクリップボードごとビニール袋をかぶせて雨をしのいだ。自分の読みの甘さを痛感した

 

 

 

TEXT:白河 理子

取材協力:陸上自衛隊 滝ヶ原駐屯地

 

この記事は月刊アームズマガジン2026年12月号に掲載されたものです。

 

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