ミリタリー

2026/10/30

約5か月間にわたる航海で行なわれる実践的教育「令和8年度 遠洋練習航海」【Part1】

 

令和8年度

遠洋練習航海 Part1

 

補給艦パティーニョと洋上補給を実施した。「かしま」「やまぎり」でパティーニョを挟み、同時に給油した。先に「かしま」が終了し、他の2隻と分離したところ(写真右)

 

 今年も遠洋練習航海が行われた。これは海上自衛隊が毎年行っている初級幹部(3等海尉)を対象とした体験型教育だ。約5か月間にわたる航海中、彼らは実習幹部として、練習艦に乗り、世界を巡る。そして、操艦したり、応急部署の指揮官を務めたりと、リアルな教育が繰り広げられていく。海自の将来を背負ってたつ若者たちに密着した!

 


 

出港の日の朝の自衛艦旗の掲揚。司令官以下、実習幹部や乗員らが整列し、自衛艦旗へと敬礼する

 

遠洋練習航海という名の実践的教育

 

 海上自衛隊にとって重要な教育プログラムである「遠洋練習航海」─。 防衛大学校や一般大学を卒業後、幹部候補生として海自へと入隊した一般幹部候補生を対象とした実践的教育である。
 彼らは幹部候補生学校にて約1年間、幹部自衛官に必要な知識や素養を学ぶ。そして卒業式を迎えると、3等海尉となる。初級幹部ではあるが、同い年となる二十歳そこそこの若者から、自分の父親や母親と変わらぬ年齢のベテランまで、幅広い年齢の部下を持つれっきとした幹部だ。とは言え、現場経験はゼロ。海自にとって基本のキである艦艇勤務の経験もない。

 そこで、幹部候補生学校卒業のその日から、練習艦や護衛艦へと乗り込み、実習を行う。まずは“内地巡航” こと、近海練習航海を約2か月実施。これが終わると、本番とも言える約5か月間の遠洋練習航海へすすむ。なお、今年で遠洋練習航海は70回目という節目を迎えた。
 今回密着する「令和8年度遠洋練習航海」は、第76期一般幹部候補生として入隊し、今年の3月15日に幹部候補生学校を卒業した約200名が対象だ。この航海実習中、見習い幹部である「実習幹部」という身分となる。
 彼らはまず、準備運動として、「令和8年度近海練習航海」へ。3月15日から5月15日の間、江田島〜神戸〜那覇〜佐世保〜舞鶴〜大湊〜東京〜三机〜呉〜鳥羽〜横須賀を巡った。5つの地方(地区)総監部を回るコースとなっている。

 いよいよ5月16日から10月24日までの161日間をかけ、遠洋練習航海へ旅立つ。日本を出発後、パールハーバー(アメリカ)〜サンディエゴ(同)〜〜ニューヨーク(同)〜ノーフォーク(同)〜レイキャビク(アイスランド)〜ハリファックス(カナダ)〜パナマシティ(パナマ)〜マンサニージョ(メキシコ)〜バンクーバー(カナダ)〜アンカレッジ(アメリカ)〜ダッチハーバー(同)〜日本と言うコースで、5か国11寄港地を巡った。総航程は約30,350マイルにもなる。

 

自由の女神を横目に見ながら、「かしま」はハドソン川を下り、大西洋を目指した

 

シンガポールからやって来たシップライダーと実習幹部。「自由で開かれたインド太平洋」実現のためには、こうした若手士官たちの友情が必要不可欠となる

 

司令部は司令官公室、「かしま」幹部は士官室、CPOらは先任海曹室、海曹士らは科員食堂、そして実習幹部たちは、実習員食堂にて毎回食事をとる

 

セルフサービスで食べたい量を盛り付けていく。若い実習幹部らは常に大盛だった


 この教育を実施するのが練習艦隊だ。司令部は呉にあるが、近海練習航海及び遠洋練習航海中は、練習艦隊旗艦である練習艦「かしま」に司令部ごと乗り込む。 そして、近海練習航海については、「かしま」の他、練習艦「しまかぜ」、訓練支援艦「てんりゅう」の3隻で実施した(4月21日まで)。途中で練習艦「やまぎり」へとバトンタッチ。遠洋練習航海は、「かしま」と「やまぎり」の2隻で巡った。実習幹部たちは、この2隻に交代で乗り込み、実習を行う。
 練習艦隊司令官を務めたのは東良子海将補だ。防衛大学校女子1期生(本科40期)であり、「せとゆき」艦長や派遣海賊対処行動水上部隊(第31次)指揮官、海上幕僚幹部総務部総務課広報室長など要職を歴任。人格的にも優れた人物で、彼女を慕う人は多い。
 今回本誌は、ニューヨークからノーフォークまでのおよそ1週間、練習艦隊へと密着取材を慣行。実習幹部の奮闘と、遠洋練習航海の一部をご紹介していきたい。

 

艦橋内中央には、実習幹部当直士官用の場所があり、そこから操艦の指揮をする

 

シップライダーたちとの交流行事として、大太鼓演奏が行われた。女性の実習幹部がニュージーランドの女性士官に叩き方を伝授

 

 

日NATO共同訓練への参加

 

 7月3日、「かしま」「やまぎり」の2隻はニューヨークへと入港した。この入港の目的は、アメリカ建国250周年を祝した国際観艦式IFRに参加することだった。
 停泊中、実習幹部たちは大忙しだ。艦上レセプションやスポーツ交歓など交流行事が盛りだくさん。ニューヨークも例外なしであったが、それでも時間を見つけて、マンハッタン散策へと出かけていった。
 7月7日には、なんとニューヨーク・ヤンキースGM付特別アドバイザーの松井秀喜氏が「かしま」を訪問し、実習幹部たちに講話をした。実は東司令官と松井氏は、ともに石川県出身で、さらには星稜高校の先輩後輩の間柄だ。在学中、面識はなかったそうだが、今では同郷かつ同窓生として交流があり、その繋がりが生んだ実習幹部へのサプライズとなった。
 7月8日13時頃、練習艦隊は出港した。「かしま」と「やまぎり」は別々の場所に停泊していたため、ひとまず「かしま」は単艦で大西洋へ出た。
 前甲板では、運用員たちがあわただしく出港作業を行っている。その様子を旗甲板にて見学する実習幹部たち。さらに制服の異なる数名の若者たちがいた。彼らはシップライダープログラムという海軍間交流の一環として乗り込んできた、バングラディシュ、チリ、ドイツ、ニュージーランド、シンガポール、スペインの若手海軍士官たちだ。ノーフォークまで乗艦し、訓練を研修するとともに、実習幹部たちと親睦を深める。

 

前方を航行する「パティーニョ」に近づくため、「かしま」ウイングに立ち状況を確認する三浦艦長。その奥には同じく近接する「やまぎり」の姿も見える

 

練習艦隊司令官・東良子海将補がウイングに出て、訓練の様子を見守る

 

夕闇迫るヘリ甲板へと近づくスペイン海軍ヘリH-135。表敬訪問した東司令官が戻って来たところ


 大海原へと出ると、休む間もなく、日NATO共同訓練がスタートした。
 NATO側の参加艦艇は、スペイン海軍の強襲揚陸艦L61「ファンカルロス1世」、ガリシア級ドック型揚陸艦L52「カスティーリャ」、アルバロデ・バサン級フリゲートF103「ブラス・デ・レゾ」、サンタマリア級フリゲートF84「レイナ・ソフィア」、パティーニョ級補給艦A14「パティーニョ」、オランダ海軍のカレル・ドールマン級フリゲートF831「カレル・アムステル」という顔ぶれだ。
 まず「かしま」は、レイナ・ソフィアと近接運動訓練を行った。これは洋上での給油や物資輸送の基本フォーメーションとなるハイライン陣形を錬成するためのもの。両艦の
間隔は35〜50m程度とかなり近い。その距離を保ちながら航行するというダイナミックなものだ。
 この後、「かしま」にヘリ発着艦用意の号令がかかる。スペイン海軍の汎用ヘリH-135が「かしま」へとやってきた。東司令官は、このヘリコプターへと乗り込み、「ファンカルロス1世」へと表敬訪問をした。20時を回るころ、東司令官を乗せたH-135が帰って来た。
 翌9日。この日は朝7時前からあわただしい朝を迎えた。この日、「かしま」と「やまぎり」は、「パティーニョ」とRAS(洋上補給)を行うからだ。パティーニョを中央に、同艦の左舷側に「かしま」、右舷側に「やまぎり」が接続するという同時給油だ。前日のレイナ・ソフィア同様に、「パティーニョ」に近づき、「かしま」と「やまぎり」が挟むように3隻がきれいに横並びとなる。すると、「パティーニョ」から蛇管と呼ばれる給油ホースが伸び、「かしま」の給油口へと繋がれた。このホースを通じ、燃料が送られる。
 こうして給油作業が終わると、午後からは、対空戦闘訓練が行われた。「ファンカルロス1世」に搭載しているEAV-8Bハリアーを敵機に見立てた実戦的な訓練となった。

 最後は、全艦艇による記念撮影を実施し、大西洋上で繰り広げられた日NATO共同訓練は幕を閉じた。(次回へ続く)

 

単縦陣を組んだ日NATO艦隊。「カレル・アムステル」、「レイナ・ソフィア」、「やまぎり」と続く

 

スペイン海軍の強襲揚陸艦L61「ファンカルロス1世」。後部甲板側でハリアーが翼を休めている

 

スペイン海軍のイージス艦であるアルバロデ・バサン級フリゲートF103「ブラス・デ・レゾ」

 

 

Text & Photos : 菊池雅之

 

この記事は月刊アームズマガジン2026年12月号に掲載されたものです。

 

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