2026/01/04
【実銃解説】SIG SAUER P320【後編】
AM SPECIAL All about P320
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SIG SAUER P320 -後編-
SIG SAUERがP320を発表したのは2014年1月のことだ。もうすぐ12年が経過する。このP320が誕生するまでの経緯と、それから起こったことを今、改めて振り返ってみたい。この銃の歴史は、かなり波乱万丈なのだ。
Problems
P320がM17, M18に選定されてから9年近くの時間は経過している。P320はこの間、様々な話題を振りまいてきた。素晴らしいセールスを記録し、様々な法執行機関での採用、諸外国の軍での採用といったポジティブな話題も多いが、その一方で、ネガティブなニュースもあった。ひとつは決着済みだが、もうひとつはかなり深刻な内容で現在も結論に至っていない。P320を語る時、それらについて触れないわけにはいかないだろう。そこでこの2つの問題について、その概要を述べていきたいと思う。
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ファイアコントロールユニットに関するパテントの問題
P320がアメリカ軍のサービスピストルM17, M18に選定されてから約4ヵ月が経過した5月、オーストリアのSteyr Mannlicher GmbH(シュタイヤーマンリヒャー:現在はSteyr Arms)は、P250およびP320はシュタイヤーのパテントを侵害しているとして提訴をおこなった。シュタイヤーは1999年に同社初のポリマーフレームピストルとしてシュタイヤーMを発売したが、この銃には、トリガーやシアなどのメカニズムを収めて容易に取り外し可能なユニットが収められていたのだ。シュタイヤーはこの構造に関するパテントを#6,260,301として取得しており、シュタイヤーの主張によれば、SIG SAUERのFCUはこのパテントを侵害しているというのだ。
確かにシュタイヤーMはそのようなユニットをフレームに組み込んでいるし、そのユニットは取り外し可能だ。しかし、シュタイヤーのそれは、ポリマーフレームに撃発メカニズムを組み込むことのためのものであり、そのユニットを取り外すことによって、異なるサイズのグリップフレームやバレル、スライドに入れ替えるというモジュラー構造にしているわけではない。このユニット構造を取り入れた銃は他にもあり、ベレッタが2011年に発表した9mmストライカーファイアードピストルNano(ナノ)や、2013年に発表した.380口径のPico(ピコ)も同じような構造を持っている。こちらはそのユニットを外して、色違いのフレームへの組み換えができることを宣伝していた。
シュタイヤーは9月にベレッタに対してもパテント侵害の訴訟を起こした。実際のところ、同様なユニットをフレームに組み込んでいる製品は他にもある。ルガーが2015年12月に発売したAmerican Pistol(アメリカンピストル)も同様だ。しかし、シュタイヤーはルガーに対しては何もアクションを起こさなかった。
もしシュタイヤーがあと1年早くに提訴していたら、P320はアメリカ軍に採用されることはなかっただろう。軍が採用したサービスピストルが、その後に裁判でパテント侵害が認定されたなら大問題に発展する。したがって係争中の銃は初めから評価対象にならない場合が多い。
シュタイヤーは、アメリカ軍にP320が採用され、注目を集めたことから今回の訴訟に踏み切ったっ可能性がある。ちなみにこのシュタイヤーMは1999年に発売されたものの、まったく人気がなく、2004年にM-A1にアップデートをおこなったが、それもほとんど状況は変わらなかった。2019年には第3世代のA2 MFに発展させているが、依然としてあまり売れてはいない。
本訴訟は2020年3月11日にニューハンプシャー州連邦裁判所が、“特許を侵害するとは考えられない”という判決を言い渡し、決着を見た。これにより、FCUを用いたモジュラーフレーム構造はまったく問題ないものとなった。
ひとつ不思議に思うことがある。現在P320のFCUと同様の、トリガー、シアなどのメカニズムを一つにまとめてこれにシリアルナンバーを打刻したアッセンブリーユニットを採用したピストルは他社から数多く登場している。シュタイヤーのA2 MFをはじめ、スプリングフィールドアーモリーのEchelon(エシュロン)、ルガーのRXM、ヘッケラー&コックのCC9、IWIのMASADA(マサダ)、ベレッタのAPX A1などだ。ところが、そのどれもせっかく取り入れた構造を生かして、交換可能なグリップモジュールやスライド、バレル等のオプションパーツを取り揃えて販売する形にはしていない。SIG SAUERがこの機能により人気を集め、売上を伸ばし、パーツ供給はサードパーティにも広がっているのを見ているにも関わらず、自分達も同じことをしようとしないのは、いったいなぜなのだろうか。
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暴発問題
P320が2017年1月にアメリカ軍に採用された数ヵ月後、この銃を地面に落とすとその衝撃で暴発を起こす可能性があるということがSNS等を通じて急速に広まった。
実際にはそれより前の2016年にホルスターに入れたP320を地面に落としたコネチカットの警察官が、暴発で足を負傷したという事故が発生、2017年の春にダラス警察でも暴発事故が起こり、この銃の使用を禁止することを公表した。これがきっかけで急速に広まった形だ。
当初はグロックのようなトリガーセーフティを備えてないことから、落下の衝撃でトリガーが動いてしまい、これが暴発の原因だと予測されていたが、暴発発生時にはトリガーが動いていないことが実験で確認され、銃の構造的欠陥であるという認識が広まっていった。
これに対し、SIG SAUERは2017年8月8日に公式な対応策を発表している。規格外の特殊な状況では暴発が起こり得るとし、自主的にアップグレード(Voluntary Upgrade)を無償で提供するというのだ。
この規格外の特殊な状況とは、銃口が斜め上30°の角度となる状態で固い地面にぶつけるというもので、これは設計時点では想定外のことであり、銃の欠陥ではないというSIG SAUERの主張は、まったく理解不能だとしか言いようがない。さらに実際にはスライド後部をハンマーで強く叩いた衝撃だけでも暴発する可能性があることが広く知られており、どう見ても欠陥なのだが、とにかく無償で対策が行なわれたため、この問題はその後、鎮静化したかのように思われた。この時、アップグレードの対象となったP320は、50万挺以上だったといわれている。
この時に実施されたアップグレードとは、FCUにディスコネクターを追加し、設計を大幅に変更した新型トリガーを組み込み、それに伴ってスライド側にもディスコネクター作動用のポケット加工を施すというものだ。併せてトリガー、シア、ストライカーなどの重要パーツは軽量化され、強い衝撃を受けても誤作動が起きないようにしている。
このアップグレードがおこなわれる前の暴発は、地面に落とすなどの大きな衝撃を与えることで起こるものだったが、その後に知られるようになった暴発事故は、だいぶ異なるもので、ホルスターに入れた状態から突如発射される、あるいはホルスターに戻したと同時に暴発する、ちょっとした力が銃に加わった瞬間に暴発するといった、かなり得体の知れないものだ。
P320の暴発事故は全米各地で発生し、SIG SAUERに対して賠償請求する訴訟が何件も発生している。またこの問題からP320を採用した法執行機関や政府機関の一部は、その使用を禁止している。射撃競技団体であるInternational Defensive Pistol Association (IDPA)はP320の競技での使用を全面的に禁止した。United States Practical Shooting Association (USPSA)は禁止していないものの、その下部組織では使用を禁止しているところがある。
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M17およびM18を採用しているアメリカ軍は独自に安全性の確認を行ない、その結果問題はないと判断し、継続使用している。
またSIG SAUERは、P320についてトリガーを引かない限り、絶対に発射されることがない安全なピストルであることを強く主張し、発生している事故はすべて使用者の誤操作、誤使用、過失によるものだと主張し、1歩も譲る気配はない。さらに現在SIG SAUERを相手取って起こされている訴訟の一部は、明らかに原告側に非があり、棄却されているとも述べるなど、強気の姿勢を貫いている。
だが一方で、P320に欠陥があるとしてSIG SAUERに損害賠償の支払いを命じた判決も出ているのだ。
何件もの暴発事故が発生し、負傷者も出ている中で、この暴発による死者は現時点では出ていない。しかし、2025年7月20日にF.E. Warren空軍基地で発生した事故ではひとりの兵士が死亡した。当初これは別の兵士が持つM18が突然、発射されたことによるものとされ、アメリカ空軍Air Force Global Strike Command(地球規模攻撃軍団:AFGSC)は、M18の即時使用禁止を打ち出した。しかし、その後にこれはそのM18を持っていた兵士の完全な過失による事故であることが判明、その兵士は加害者として逮捕され、M18の使用禁止は解かれている。この時、AFGSCは保有するM18約8,000挺の全数検査を実施したが、問題点は発見されなかった。よって現時点においても、この問題における死亡者はでていない。
これを書いている11月中旬の段階においても、この問題は様々な意見が飛び交い続け、原因の恒久的な究明には至っていない。P320の暴発事故は、使用者が意図しない状態で発生する“Uncommanded Discharge”なのか、使用者の誤使用によって発生する“Negligent Discharge”なのか、これが依然として不明なのだ。
もしP320に何か問題があり、その解決のためにアップグレードが必要だとなったならば、それは大変なことになる。2014年の発売以来、P320は約600万挺が生産され、それらは、軍、法執行機関、並びに民間に広く普及しているからだ。海外にも多数ある。2017年のアップグレードは50万挺だったが、今度もしそれが必要だとなったならば、その12倍が対象になる。
この問題がどう決着するかについては、今後も注視していきたい。
非常に悩ましい話を書いたが、SIG SAUER P320は実に魅力的な銃だと思っている。FCUをコアに様々な形態に銃を組み替えていけるのだ。それも簡単に。こんなに楽しめる銃はこれまで存在しなかった。P320に対する懸念が一刻も早くに払拭され、安心して使えるようになることを願っている。
P320のフルサイズXシリーズをベースに、2ポートコンペンセイター付きスライドと3.9インチバレル、アンビのデュアルマガジンリリースシステムを内蔵したモデル。ストックが付いているように見えるが、これは引き出し式のスタビライジングブレイスでストックではない。後部にはスライド作動とは連動しないピカティニーオプティックマウントを持つ。全長277mm、重量1,395g、30連マガジンが2本付属する
TEXT:Satoshi Matsuo
PHOTO:Yasunari Akita
この記事は月刊アームズマガジン2026年1月号に掲載されたものです。
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