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2025/10/01

ハンドガン ポリマーフレームオートの基礎知識

 

ポリマーフレームオートに絞ってコンバットハンドガンを解説

 

 

 現代のコンバットハンドガンはグロックピストルに代表されるフレームにポリマー樹脂を使用した 「ポリマーフレームオート」と、ガバメントやベレッタ92Fのようなフレームに金属を使用した 「メタルソリッドオート」の2種類に大別できる。ここでは前述のポリマーフレームオートに絞って解説する。なお、今回の特集ではSTIやスタカートといったポリマー樹脂製グリップを備えたガバメントのモジュラーフレームモデルはポリマーフレームオートには含めていない。
 銃器に樹脂素材を使用することは近現代に始まったことではない。第二次世界大戦前中に登場したワルサーPPKやワルサーP38のグリップ、M1911A1のグリップ、MP40のサイドパネルやグリップパネルには、エボナイトやベークライトといった樹脂素材が使用された。第二次世界大戦後、銃器の素材がそれまでの「木と鉄」から樹脂素材やアルミ合金といった新素材へと切り替わるきっかけとなったは、ハンドガードやグリップ、ストックなどに樹脂素材が使用されたAR10やAR15(M16)、FNのFAL、ヘッケラー&コックのG3やMP5の登場である。樹脂素材は木や鉄に比べて軽量で耐腐食性や耐水性に優れ、生産しやすいことからアサルトライフルやサブマシンガンの素材として使われるようになる


 一方、ハンドガンは1970年に登場したヘッケラー&コックのVP-70が初めてフレームの素材にポリマーを使用した。画期的な製品だったが商業的には成功しなかった。ポリマーフレームを採用して初めて成功したのは1982年に登場したグロックピストルである。グロックピストルが誕生した当時はベレッタ92FやSIG SAUER P226といった9mm×19弾/シングル・ダブルアクショントリガー/ダブルカアラムマガジンを持つ通称「ワンダー9」の全盛期であった。M16と同じように、グロックピストルも誕生当初の評価は高くはなく、どちらかというと異端児扱いであった。
 そんなグロックピストルの評価が変わり始めたのは、法執行機関のハンドガンがリボルバーからオートマチックピストルへと移行し始めた1980年代後半から1990年代にかけてである。ポリマーフレームの優位性はもちろんトリガーを引かない限り弾が出ないという極めてシンプルで効果的な「セーフアクション」と呼ばれるトリガーメカや高い耐久性がハンドガンを趣味ではなく仕事の道具として扱う法執行機関の現場で評価されたからだ。そんなグロックピストルの躍進を見て、各社からグロックピストルをモチーフにしたオートマチックピストルが登場するのもこの頃である。


 グロックピストルのようなストライカーファイア式/ポリマーフレーム仕様のオートマチックピストルに対して、シングル/ダブルアクショントリガーを持つオートマチックピストルにもポリマーフレーム仕様が登場する。その代表格がヘッケラー&コックのUSPである。コンベンショナルなブローニングタイプのショートリコイル方式にアンビマガジンキャッチ、内部パーツを組み替えることで複数のトリガー&セーフティモードが選択できる機能を備えている。
 ポリマーフレーム仕様のオートマチックピストルは2000年代半ばから進化していく。まずひとつがグリップのサイズが変更できることである。メタルソリッドフレームオートはグリップパネルを変更することで、ある程度はグリップのサイズが変更できたが、ポリマーフレームオートはフレームとグリップパネルが一体成型のためサイズの変更が難しかった。S&WのM&P、スプリングフィールドアーモリーのXD(HS2000)、ヘッケラー&コックのHK45、FNのFNX-45タクティカルはバックストラップやグリップの側面を交換式にすることでサイズの変更を可能にした。


 そして現在では当たり前になっているマニュアルセーフティやスライドストップが左右両側から操作できるアンビコントロールレバーの導入である。これはグリップサイズの変更同様、射手の多様性に対応するためのものである。M&PやHK45、FNX-45などはいち早くアンビコントロールレバーを導入したが、もともとマニュアルセーフティを持たないグロックピストルは第5世代になってようやくアンビスライドストップを採用した。さらに近年はピカティニースペックのアンダーレールや、スライドにマイクロドットサイトが装着可能なオプティクスレディがポリマーフレームオートを含めたコンバットハンドガンのデファクトスタンダードとなりつつある。
 グロックピストルを筆頭にするストライカーファイア式のポリマーフレームオートの進化と躍進の陰で成功作を生み出せなかったSIG SAUERは、FCU(ファイア・コントロール・ユニット)を中心に様々なグリップモジュールやスライド、バレルが組み合わせることができるP320を開発。P320は2017年にM17/M18としてアメリカ軍に制式採用された。


 グロックのパテントが失効して以降、純粋なクローングロックに加えてクローングロックにP320のようなFCUを組み合わせた両銃のいいとこどりしたようなモデルが登場しており注目を集めている。また、強度的な問題というより重量増加を狙ってポリマーフレームをあえてメタルフレームにする流れも競技用のハンドガンで見られるが、メインストリームになることはないだろう。
 これからもポリマーフレームオートを中心にコンバットハンドガンは進化を続けていくことだろう。

 

 

 

TEXT:毛野ブースカ  

 

この記事は月刊アームズマガジン2025年10月号に掲載されたものです。

 

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