2024/12/30
「カスタムガバメントの基礎知識」進化を続けるハンドガンカスタムの王道を知る

カスタムガバメントの原点
カスタムガバメントの発展の歴史は、IPSCやスチールチャレンジなどハンドガンを使った射撃競技と深い関わりがある。第二次世界大戦後から1970年代にかけて、ハンドガンを使って行なわれた射撃競技といえばオリンピックやブルズアイシューティング、PPCマッチといった標的射撃が中心で、使われるハンドガンはリボルバーがほとんで、実戦的とは言えないものであった。
そんな中、シューティングスクール「ガンサイト」の創設者であり「45オートの神様」と呼ばれるジェフ・クーパー氏は、スラッピングレザー(レザースラップ)と呼ばれオートマチックピストルを用いる一種の早撃ち競技を1950年代から始めていた。レザースラップを通して実戦的な射撃テクニックと、それを生かした射撃競技が発展していく中、1976年に通称「コロンビアコンファレンス」と呼ばれIPSC(インターナショナル・プラクティカル・シューティング・コンフェデレーション)の創設を決めることになった会議がアメリカのミズーリ州コロンビアで開催され、プレジデントにジェフ・クーパー氏が選出された。ここから現在世界中で開催されているIPSCがスタートした。ちなみにこの会議にはシューティングインストラクターとして現役のケン・ハッカーソン氏、日本からはひとりだけ、ウエスタンアームズの社長である国本圭一氏が参加している。
もともと実戦を想定した競技内容と、.45ACP弾を使うガバメントを意識したレギュレーション設定のIPSCにおいてコルトM1911A1などのノーマルタイプでは使いにくかった。そこで撃ちやすくて使いやすく、命中精度の優れたガバメントが求められるようになる。これがカスタムガバメントの原点である。アンビセーフティやロングトリガー、高精度なバレルとバレルブッシング、ボーマーサイト、ビーバーテイルグリップセーフティといったパーツはこの時代に登場した。
レースガンの登場と発展
しかし、1980年代に入ると実戦的だったIPSCも徐々にスポーツ化されていく。そうした流れの中、競技でいい結果を残すためにバレルウエイトやコンペンセイターなどが装着された競技専用のカスタムガバメント、いわゆる「レースガン」が登場し始める。ベースガンはコルト一択だったが、1980年代半ばになるとスプリングフィールドアーモリーが参入。これをきっかけに競技人口が増え、市場規模が一気に拡大した。1990年代初頭にかけて2011モジュラーフレームやパラオードナンス、キャスピアンなどによるハイキャパシティフレームが登場。ドットサイトの浸透なども加わりカスタムガバメントは急速に発展した。
軍・法執行機関からの注目
射撃競技用のレースガンは発展する一方、1985年にコルトM1911A1に代わってアメリカ軍制式採用拳銃として採用されたベレッタM9や、ポリマーフレーム&ストライカーファイアのグロック17などの登場で、特に法執行機関向けのハンドガンはリボルバーから9mm×19口径のオートマチックピストルが主流となっていく。軍・法執行機関向けとしてガバメントの役目は終わったかのように思えたが、高い信頼性と.45ACP弾への信仰から軍の特殊部隊などで注目されるようになる。アメリカ陸軍特殊部隊デルタフォースは設立当初から余剰品のコルトM1911A1をベースにしたカスタムガバメントを使っていたが、やがてスプリングフィールドアーモリーやキャスピアンなどをベースにしたカスタムガバメントを使用するようになる。隊員たちが自己研鑽のためにIPSCなどの射撃競技に参加することがあり、彼らのカスタムガバメントにはレースガンからのフィードバックも見られる。

ミリタリーユースとしてのカスタムガバメントで最も有名なのが、アメリカ海兵隊MEUが採用した通称「MEUピストル」だろう。ベレッタM9に反発するかたちでコルトM1911A1をベースに独自の基準で海兵隊のRTUによって製造され、1990年代後半にはスプリングフィールドアーモリー・カスタムショップで製造されたプロフェッショナルモデルピストル(FBIビューローモデル)をベースにしたものとなる。アメリカ海兵隊はその後、2003年に新設されたアメリカ海兵隊特殊部隊Det-1用としてキンバーICQB Mod.1、その後継機種として2012年にコルトM45A1 CQBPを制式採用した。
法執行機関においてもLAPD SWATは押収品をベースしたカスタムガバメントを使っていたが、2000年代に入りキンバーのカスタムガバメントを採用。近年はポリマーフレームオートや9mm×19弾がますます一般化しつつある中、USマーシャルの特殊部隊やLAPD SWATがスタカート(Staccato)Pを採用するなどカスタムガバメントは依然支持されている。
カスタムガバメントの発展
1990年代以降、カスタムガバメントは民間市場でも射撃競技用に加えコンシールドキャリーやハウスプロテクション用、ハイエンドユーザー向けのコレクション用として発展していく。特にCNCやCAD、MIC(メタル・インジェクション・モールド)など製造方法の進化によりファクトリーメイドの箱出し製品でも充分な精度が出せるようになり、バリエーションも増加した。スプリングフィールドアーモリーやキンバーといったクローンメーカーだけではなくスミス&ウェッソンやスタームルガーなど、かつてのコルトのライバルメーカーもガバメントモデルを発売するなど人気は衰えることはない。
一方、射撃競技に革命を起こした2011モジュラーフレームはレースガンを中心に発展したものの、マガジンの信頼性の問題などからデューティーガンとしては不向きだった。そんな流れを変えたのが2011モジュラーフレームの元祖であるSTIであった。STIが2019年、今まで主流だったレースガンの製造を止めてデューティーガンの製造に絞り社名をスタカート(STACCATO)に変更。社内外のプロフェッショナルたちの意見を取り入れ、マガジンを改良するなどデューティガンとしてのクオリティを上げたスタカートをリリースした。先に挙げたUSマーシャルやLAPD SWATを筆頭に全米で250以上の法このカスタムガバメントは執行機関で正式認定されるなど、現在最も注目を集めている。
現在ではサイレンサーが装着できるスレッデッドバレルやウェポンマウントライトが装着できるアンダーレールを備え、マイクロドットが装着できるオプティクスレディ仕様のハンドガンが主流である。カスタムガバメントもその流れに乗って発展しており、まだまだ生き続けることだろう。
TEXT:毛野ブースカ/アームズマガジン編集部
この記事は月刊アームズマガジン2025年1月号に掲載されたものです。
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