2025/11/21
“すべての海兵隊員はライフルマンであれ” 現代アメリカ海兵隊の戦い方/小銃射撃訓練 【M27 IAR編】
大変革を進めるアメリカ海兵隊に注目
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アメリカ海兵隊は「水陸両用作戦能力」、つまり海と空から敵地へと上陸し戦う能力を持つのが特徴で、これまで数々の困難な作戦を遂行し、精鋭としてのイメージが定着している。前方展開の一環として沖縄を中心に日本にも駐留しており、我が国との関わりも密接だ。かつて太平洋戦争では恐るべき敵であったのが、今や安全保障上の頼もしいパートナーである。駐留部隊の規模も大きく、日本人にも身近な存在となっている。
現在、アメリカ海兵隊は世界的な安全保障環境の変化を受け、戦車部隊全廃や砲兵部隊大幅削減の一方で、歩兵部隊に加え対艦ミサイル部隊、防空部隊、兵站部隊などを擁するMLR(海兵沿岸連隊)を新編したり、ロケット砲兵部隊や無人機部隊を増強するなど大変革を進めつつある。それは、我が国の安全保障とも密接に関係していると言っていいだろう。
そこで、アームズマガジンWEBでは改めてアメリカ海兵隊に注目。少し前の記事にはなるが、フォトジャーナリスト・笹川英夫による沖縄の31st MEU(第31海兵遠征部隊)への取材記事(「月刊アームズマガジン」2023年8月号および9月号掲載)を抜粋、再構成してご紹介していく。取材ではアメリカ海兵隊の主要な職種である歩兵を中心に、各種訓練や装備などを収録しており、この第1回ではM27 IARをピックアップする。
31st MEUとは
MEU(Marine Expeditionary Unit:海兵遠征部隊)は米海兵隊がMAGTF(Marine Air-Ground Task Force:海兵空陸タスク・フォース)として編成する部隊のひとつだ。MAGTFは陸上部隊、航空部隊、兵站(補給)部隊などで編成される諸兵種連合部隊で、本国から離れた遠隔地でも一定期間独力で戦える能力を備えている。MAGTFには任務内容によって主に3種類の異なる規模の部隊があり、大が師団基幹のMEF(Marine Expeditionary Force:海兵遠征軍)、中が連隊基幹のMEB(Marine Expeditionary Brigade:海兵遠征旅団)、小が大隊基幹のMEUとなる。なかでもMEUには緊急展開が可能な「即応機動部隊」としての役割が与えられている。
日本に駐留している部隊では、3rd MEF(第3海兵遠征軍)および3rd MEB(第3海兵遠征旅団)の司令部が沖縄県うるま市のキャンプ・コートニーに置かれている。ただし、すべての戦力が日本に常駐している訳ではなく、必要に応じて本国から派遣される形をとっている。その一方で、31st MEU(第31海兵遠征部隊)については沖縄のキャンプ・ハンセンを中心に日本に常駐し、インド太平洋地域では唯一、常時前方展開しているのが特徴だ(ちなみに31st MEUは3rd MEFに所属する)。
31st MEUの部隊規模は約2,300名で、司令部(偵察部隊等も含む)、BLT(Battalion Landing Team:大隊上陸チーム)、CLB(Combat Logistics Battalion:戦闘兵站大隊)、VMM-265(第265海兵中型ティルトローター飛行隊)、VMFA-242(第242海兵戦闘攻撃飛行隊)で編成(※取材当時)。海軍のPHIBRON(揚陸即応群)の揚陸艦にも定期的に乗船し、有事の緊急展開に備えている。
ARQ(年次適格性評価)に伴う射撃訓練
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2023年5月、筆者は取材のため沖縄県金武(きん)町にあるキャンプ・ハンセンの射撃場を訪問した。ここでは31st MEUをはじめとする沖縄駐留アメリカ海兵隊員の小銃射撃訓練を見せていただいた。
この時射撃場で行なわれていたのが、ARQ(Annual Rifle Qualification:年次ライフル適格性評価)に伴う小銃射撃訓練だ。アメリカ海兵隊は“Every Marine a Rifleman:すべての海兵隊員はライフルマンであれ”を標榜するだけあって、ARQはパイロットだろうが後方職種だろうが全海兵隊員が定期的にクリアせねばならない。この日の射撃訓練には31st MEUだけでなく3rd MARDIV(海兵師団)、3rd MIG(海兵遠征軍情報群)など3rd MEFに所属する様々な職種の海兵隊員が、10カ月後に予定されるARQに備えて射撃訓練に臨んでいた。
M27 IAR
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SPEC
使用弾:5.56mm×45
全長:840mm/940mm(ストック伸長時)
銃身長:420mm
重量:3.6kg
作動方式:ガス圧利用(ショートストロークピストン)
装弾数:30発
M27 IAR(Infantry Automatic Rifle)は、ショートストロークピストン方式を採用したヘッケラー&コックのHK416をベースとして、ヘビーバレルを装着するなどの改修を施したいわば「米海兵隊仕様のHK416」だ。周知のとおり本来HK416は自動小銃に分類される銃だが、このM27 IARはM249軽機関銃などを置き換える目的で採用された分隊支援火器でもある。分隊支援火器、とは言いながらも軽機関銃のようなベルト給弾式の発射機構などは持たず、通常の自動小銃同様マガジン給弾式を採用している。そのため一般的にイメージされるHK416と外見上大きな差はない。
一見分類と構造がちぐはぐにも思えるが、M27が分隊支援火器であるのにはしっかりとした理由がある。イラク戦争に代表されるように、現代戦では市街地など入り組んだ場所が戦場となることが多い。そうした場所で活動する機関銃手には、火力よりも素早く移動するための機動力が求められる。実際、200発の弾薬を装填したM249の総重量が10kg超であるのに対し、M27はオプション類を搭載しても5kg程度と約半分の重量に抑えられている。これは射手が戦場で携行する際に、大きなアドバンテージとなる。
機動性と精度にウエイトが置かれる
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M27 IARにはACOGやVCOGといったスコープやバイポッドなど、精密射撃を意識したオプション類が標準装備されている。これは「持続的な射撃による制圧」という従来の分隊支援火器の運用とは大きく異なり、「高精度の射撃で有効弾を与える」という新たな運用法に基づいたものだ。少なく思える装弾数も、そうした運用の下では必要充分とされた。
このように、従来の分隊支援火器とは大きく異なる運用思想の下で生み出されたM27 IARであったが、機動性と精度を重視した仕様のこの銃は狙い通り評価が高く、M249から転換した射手にも好意的に捉えられているようだ。
アメリカ海兵隊はなぜ大変革を進めるのか?
「イラストでまなぶ!用兵思想入門 現代アメリカ海兵隊の戦い方編」
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最後にちょっと宣伝になるが、「イラストでまなぶ! 用兵思想入門」シリーズ最新刊となる『イラストでまなぶ!用兵思想入門 現代アメリカ海兵隊の戦い方編』が発売中だ。
「用兵思想」とは、戦争のやり方や軍隊の使い方に関するさまざまな概念の総称である。これについて知っておくことで「その軍隊がどのような任務を想定し、いかに組織を作り戦うか」ということを理解できるようになる。
本書では現在進行中のアメリカ海兵隊の大規模な変革と、それを必要としている海兵隊やアメリカ海軍、さらにはアメリカ軍全体のあたらしい用兵思想、それを実行するために編成される海兵隊のあらたな部隊とその装備、指揮統制の方法などを、イラストとともにくわしく解説している。
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日本周辺の有事におけるアメリカ軍の戦い方が見えてくる
本書では「イラストでまなぶ! 用兵思想入門」シリーズ(ホビージャパン刊)を手掛ける田村尚也氏が解説を、しづみつるぎ氏がイラストを担当。現代のアメリカ海兵隊が大変革を進める理由や、その用兵思想がわかりやすくまとめられている。
日本の安全保障とも密接に関わっているアメリカ海兵隊が抑止力としていかに機能し、有事にはどのように戦うのか。ご興味をお持ちになった方に、お薦めしたい1冊だ。
Text & Photos:笹川英夫/アームズマガジンウェブ編集部
取材協力:U.S.MARINE CORPS 31st MEU
この記事は月刊アームズマガジン2023年8月号に掲載されたものから抜粋、再構成されたものです。
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