ミリタリー

2025/11/21

【実銃】ポーランド軍の新型小銃 MSBS C16 FB-A2 GROT 高校生たちが軍事訓練の一環として実射!

 

―ポーランド軍最新小銃GROT の基本射撃訓練に密着!!―

 

Fabryka Broni “Łucznik” – Radom

MSBS C16 FB-A2 GROT(5.56mmx45 NATO)

 basic shooting training with GROM GROUP 

 

MSBS C16 FB-A2 GROT
全長:848/900mm
銃身長:406mm(16インチ)
重量:3.65kg(弾倉未装着時)
マガジン装弾数:30発
発射回転速度:700~900発/分
作動方式:ショートストロークガスピストン

 

 ポーランド軍が配備している新型小銃MSBS C16 FB-A2 GROTは、2014年に初期採用、改良を経て2023年に正式配備を開始。1999年のNATO軍加盟から実に24年ぶりに、AK系から脱皮し自国開発小銃の配備が実現した形となった。これは日本の20式小銃の開発、制式化と近い時期であり、AR15系を選ばずに独自路線へと舵を切った両国の新型小銃は、外観や機能に複数の類似点が見られる。先月号に続き、ポーランドのGROM GROUPにて実施された、高校生対象のOPW(軍事準備部隊)における基本射撃訓練を通じて、GROTの実力に迫ってみた。

 

筆者近影

神崎 大:Masaru Kanzaki

今回、GROTを射撃したが、構えやすさや反動の素直さ、そして高い命中精度を実感した。各部が人間工学的によく錬られている点も好印象だった。

 

 

コーディネート:Captain Katz(GROM GROUP アジア地域統括管理官、写真左)/ Nobby(GROM GROUP JAPAN代表、写真右)

 

訓練ではチェコのSTVテクノロジー製「SCORPIO」5.56mm×45NATO弾を使用した。弾頭重量55grのFMJで軍用弾に準拠する

 

GROTにはNATO STANAG規格に準拠する樹脂製のマガジンが採用された。濃いグリーンの半透明なマガジンは残弾も判別しやすい

 

シューティングマットの上に無造作に置かれたGROT。独自の雰囲気を醸し出すデザインにポーランド軍の正統性を感じる。軍用小銃を自国で開発生産できる国はそう多くはない

 

GROTはポリマーとアルミニウム合金の部品構成により、触った時の印象はスポーツ用品的で、鉄製部品が多いAK系とは異なり女性にも扱いやすい

 

 

 GROT C16 FB-M1 Function & Detail 

 GROTの機能と細部 

 

 

純正ハードケース内の構成部品には、銃本体、マガジン、スリング、メンテナンスキットバッグが含まれる。まとめて保管できるメリットがあるが、まるで民間用スポーツ銃のようだ

 

旧東側AK系と現西側GROTの共存

 

 現在のポーランド軍では、主にKbk wz. 1988 タンタル(5.54mmx39)やモダナイズされた同国製のKbs wz. 1996 ベリル(5.56mmx45 NATO)があり、ワルシャワ条約機構時代からの小火器とNATO加盟前後のもの、そして現在の三世代におよぶ時代の小火器を運用していると思われる。それらはピカティニーレールや伸縮型ストック等を装備し、現代戦に適応した改良が施されている点は陸軍大国ポーランドらしく手抜かりがない。

 

 

敢えてAR15系を選ばず

 

 ポーランド軍と米軍との連携は活発であり、2023年からは主要都市であるポズナンに同国初となるアメリカ陸軍の常設基地(キャンプ・コシチュシュコ)が新設される等、NATO加盟国の中でも群を抜いた緊密ぶりを見せている。しかし新型小銃の開発においては米軍のAR15系を敢えて追従せず、FN SCARを模範に見据えつつ、あくまでも自国での開発と生産にこだわった面は日本と似ており、その様な経緯からか、GROTと20式小銃はどこか似た雰囲気を持っている。


 ファブルィカ・ブローニ・ラドム(ラドム造兵廠)は2000年代初頭には大規模な組織再編を行ない、ポーランドの新時代に相応しい兵器開発と生産に集中できるようになった。同時期、国防当局は「タイタン」個人戦闘システムに関する研究を開始。一環として、ラドムのウチュニク兵器工場とワルシャワ軍事技術大学機械工学部 兵器技術研究所 特殊設計部門は、MSBS(モジュラー火器システム)開発に着手した。この構想は、レシーバー、銃身、ボルトキャリアといった基本部品を共有する基本型とブルパップ型の2種類のライフルを開発することだった。これらのポーランド独自の設計により、ニーズに応じて武器を迅速に構成することができ、グレネードランチャー、機関銃、精度を高めたカービン銃へと変形が可能となった。そして、ポーランドの英雄、ステファン・ロウェツキ将軍のニックネームとしても知られるGROT(ポーランド語で「矢じり」の意味)の名称が与えられた。

 

GROTの銃身は軽量化のためにフルート加工が施されている点も特徴だ。フラッシュハイダーは独自形状で、銃剣やサプレッサー等が装着可能

 

M-LOKハンドガードは現行型(A2)になって延長された。射撃支援アクセサリーの発展と要求に合わせて装着スペースが確保されている

 

ハンドガード上部のレールに装着されたフラッシュライト用リモートスイッチ。Cクランプスタイルでの射撃姿勢を前提に位置を決めているようだ

 

特徴的なアンビ型のチャージングハンドル。レール上の光学機器との干渉を避けるために下方に曲げられており、引く際にのみボルトと連動するが、リターンスプリングはない

 

GROT純正のスリングはMAGPUL製のMS3 Sling。現地ではチョーカー型ワンポイントスリングとして運用されており、不要な部分はビニールテープで固定されていた

 

射手側から見たフリップアップ式フロント&リアサイト。バックアップサイトとしての最低限の機能を持ち、形状が良くとても照準しやすい。可動はロック機構を持たないが、クリック感が強く問題ない

 

バトルプルーフされるGROT

 

 2014年には銃剣付きの特別品も製造し、ポーランド軍儀杖隊に初配備され、以降改良を続けつつ、GROTはA1からA2へと進化。2022年にはロシアからの侵攻に応戦するウクライナに1万挺のGROTを供与し、実戦投入されている。2023年には満を持してポーランド国防省はGROTを制式化、大規模な部隊配備が始まった。


 2024年には進化版A3を発表。外観上の変更点としては、AR15系チューブ型ストックの採用とP-MAGをセットアップし、操作性と相互運用性の向上が図られている。ウクライナでバトルプルーフされたGROTの進化は続き、今後は欧州市場だけでなく世界的に需要が拡大し得る可能性を秘めている。

 

レシーバーの右側には大きな排莢口と樹脂製のケースディフレクターが配されている。マガジンキャッチボタンはアンビで大きく、周囲のガードに囲まれている

 

レシーバー左側の形状は右側とほぼ同じで、エジェクションポートには樹脂製のフタが装着されているが、ドライバー等でこじることで簡単に脱着可能。ボルトを180度組替えれば、数分で左利き射手対応型となる

 

左右に同じ形状で配置されたセレクターレバー。回転範囲は15度ずつでコンパクトに操作できる。クリック感も小気味良く確実性が高い

 

グリップは米軍A2グリップに比べて、直立に寄せたアングルとなっている。滑り止めのテクスチャーも適切で、アクティブな戦術射撃をする際に握りやすさを感じさせる

 

ボルトリリースレバーはトリガーガード前方にアンビ型で配置される。後退したボルトを前進させる際には人差し指で操作できる。マグウェルもマガジン挿入に配慮された形状

 

ストック基部にあるヒンジ部はストック側はポリマー製、レシーバー側はアルミ製となっている。折り畳みは反対側のボタンを押しながら行なうが、確実性が高くガタもない

 


 

 GROT C16 FB-M1 Basic Shooting Training 

 GROTの基本射撃訓練 

 

ある程度の射撃経験を感じさせる学生グループもあり、これから前進しながら射撃する高度な訓練(シュート・オン・ムーブ)に挑む。ガンハンドリングや安全管理が充分に浸透している

 

GROTの射撃訓練

 

 筆者にとって興味の対象だったのは、まだ習熟していないであろう高校生たちがGROTに触れた時にどのような反応を示すのか、ということだった。それは前段で射撃したAKMとの違いを観察することで、人間工学的に優れたデザインのGROTの性能をこの目で確認することでもあった。


 彼ら、彼女らは、金色に輝く5.56mmNATO弾を受領し、黙々とマガジンに装填するが、AKMの鉄製マガジンに比べ軽量で手触りの良い樹脂製マガジンが、弾込めしやすいことを実感していた。4段階調整式のストックは最短ポジションで使う者が多く、アイソセレス・スタンスが多い現代の射撃訓練に慣れた世代は、ストックの短さに違和感がない。ごく一部の生徒のみ、積極的にストック長を調整していた。
 射撃が開始されると、リコイルの軽さや各操作部の使いやすさが功を奏し、各々が集中し始める。特にタンジェントサイトのAKMに比べ、ピープサイトになることで心理的にも標的への集中力が増すように見えた。左右からアクセスするチャージングハンドルも効果的で、射撃姿勢を変えずに標的を捕捉していた。


 結果的にAKMの時よりもグルーピングが向上しているのを確認できた。
 取材時にはアイアンサイトでの射撃訓練であったが、ドットサイトを搭載する場合もあるという。今後は各種の光学サイトの運用が増加するはずだ。

 

実弾の配布作業も特に厳しいルールはなく、リラックスした雰囲気の中で行なわれる。必要なのは数量をカウントし、弾倉に装填することに集中することだ

 

GROTのチャージングハンドルが後退位置で止まっている。教官の号令を待つ間、射手は薬室を開いて安全状態を示している

 

「撃ち終えたらマガジンを抜いて弾が残っていないか確認するんだ」とアドバイスを受ける女子生徒。右手でGROTを支える時の表情は真剣そのもの

 

ローレディ姿勢から号令を受けて射撃する手順を聞く訓練生。すべての射手の横に助教が付くことはなく、各自のスキルに合わせて射撃訓練が進行する

 

体格の大きな射手はGROTを軽々と扱うし、射撃姿勢も安定している。取材時には少なくない左利き射手が参加していた

 

射撃を終えたら、開口するエジェクションポートからチャンバーを確認し、残弾がないことを自他共に再確認するのが西側共通の手順

 

女子生徒たちにカメラを向けるとはにかんで微笑んでくれた。彼女たちの訓練のメニューは男子生徒と変わらず、最後まで奮闘していた

 

前面の被弾面積が少なくなるようコンパクトな射撃姿勢をとる生徒たち。露天の25Mの縮尺射撃場での訓練は、抜けるような爽快感の中で進行する

 

ニーリング(膝撃ち)の射撃姿勢で臨む生徒たち。アイソセレスに慣れた現代の射手は、ストックを最短にした状態で射撃する者が多い

 


 

 GROT C16 FB-M1 

 Disassembly & Maintenance after firing 

 GROTの分解整備教育 

 

GROTをテイクダウンし、ボルトキャリアとリコイルスプリングを外した状態。通常分解はこの程度までで、射撃後のメンテナンスとしてはこと足りる

 

四角いボルトキャリアにマイクロロッキングラグを持つボルトヘッドの組合せはAR18が元祖であり、FN SCARやHK G36等も継承している優れたメカニズム

 

ボルトキャリア背面部から見ると、リコイルスプリングが入る穴があり、ファイアリングピンの後端が見える

 

ボルトユニットASSYを分解するとシンプルな構造が理解できる。多くの西側銃器メーカーでは、ボルトやファイアリングピンにクロームメッキ加工を施し耐摩耗性を高めているが、GROTはシンプルに黒染めとなっている

 

リコイルスプリングガイドASSYはシンプルな構造で、リコイルバッファー(減衰装置)等は見当たらない

 

GROTの分解整備

 

 射撃訓練を終えた銃器には発射ガスに含まれる燃えカスや煤が付着し、銃身内には弾頭の銅がこびり付く。先ずは銃を分解し、これらを除去した上で仕上げには防錆と潤滑の油を差して整備が終わる。現地では教官の指導を受けつつ、訓練生達は煤落としや銃身のクリーニングを体験した。

 

 GROTはストックを外し、テイクダウンピンを引き抜くことで上下レシーバーを分割する。大雑把だが構造が理解しやすいAKMに比べて、丁寧に扱うべき対象という印象を持ったようだ。GROTの大きな特徴でもあるショートストロークガスピストンは文字通りの小さな部品で、煤を落とす際に床に落とすリスクがある。西側の銃器は精密な造りであり、確実な作動性を得るためにも正しい整備を理解する必要がある。異なる時代の銃器を学ばせる機会は訓練生の知識をより高めるだろう。

 

分解時に思わず見入ったのが、フルートが施された太い銃身だ。射撃の命中精度を高め、放熱効果を求めつつ、軽量化も実現するための加工技術だが、大量配備する軍用小銃にここまで手間をかける例はほぼなく、GROTの真骨頂ともいえる

 

銃身とレシーバーを繋ぐバレルブロック部は設計上の中心ともいえる。レシーバーやハンドガード、ロアーレシーバーは、この部品を核に装着される構造となっている

 

発射後の汚れたガスピストン(左)とレギュレーターノブ(右)は、GROTがショートストロークガスピストン採用のガス圧利用式の銃であることの核心部分といえる

 

GROTのリコイルパッド部はいたってシンプルなデザイン。幅が狭いので、プレートキャリア装着時にもハーネスを避けて肩付けしやすい


 

現行型になり延長されたM-LOKハンドガード。上下分割の構造がわかるだろうか。適度にラウンドした断面により、持ちやすく感じる点もGROTらしさだ

 

コンテナを改造したメンテナンスルームでは訓練生たちが和気あいあいとGROTの分解整備に勤しんでいた。ここでは男女協同が徹底していて、皆がこの訓練を楽しんでいるようだった

 


 

 GROT FB-M1 Police & Civilian model 

 GROTのバリエーション 警察&民間仕様 

 

3種類のGROTを並べてみると、サイズ感がよくわかる。ブルパップ最短モデルB10は究極のPDWと言えるだろう

 

 

 GROTには警察や民間向けのセミオート専用モデルが存在する。軍用モデルとの差異はフルオートの制限や着剣装置の削除、「GROT」のロゴが目立つ程度で、その他の機能はほぼ軍用モデルに準じている。GROTシリーズは開発当初からモジュラー構造を活かしたバリエーション展開がなされているが、量産品のブルパップモデルB10は本邦初公開となる。

 

 GROT S16 FB-M1 

口径:.223 Remington(5.56mm×45)
銃身長:406 mm (16”)

 

セレクターレバーはセミオートのみとなっており、セーフからの可動角度は90度となっており、意外と使いやすい。ピクトグラムにはホワイトが欲しい

 

矢じりの意味である“GROT”マークはコマーシャルモデルにのみ存在。軍においてもGROTと呼称されているが、軍用モデルにはない

 

 GROT S10 FB-M1 

口径:.223 Remington(5.56mm×45)
銃身長:267 mm (10.5”)

 

 GROT B10 FB - M 1 Bullpup version 

口径:.223 Remington(5.56mm×45)
銃身長:267 mm (10.5”)

 

 GROTシリーズはポーランドが国家の威信をかけて開発した次世代小火器だが、実際に手に持って観察し、GROM GROUP訓練施設での射撃体験と合わせて感じたのは、設計の緻密さと質実剛健な造りと人間工学的なインダストリアルデザインが調和した完成度の高い銃である、ということだ。欧州には数々の老舗銃器メーカーが存在し競い合っているが、実戦経験で磨かれたGROTシリーズは今後、ますます活躍していくだろう。本取材に全面的に協力してくださったGROM GROUPとGROM GROUP JAPANの皆様に、この場をお借りして心より感謝申し上げます。

 

B10を構える筆者。マズルに左手が近いので実射ではグローブが必要だろうか。小さなフォアグリップとサプレッサーを装着すれば、セキュリティガードでも有効かもしれない

 

フラッシュハイダーは各モデル共通だが、軍用モデルのように銃剣やサプレッサーをワンタッチ装着はできない

 

コマーシャルモデル専用の10発マガジン。民間人が趣味用途で所持する場合、多くの国では装弾数の制限を科すが、有事に備える射撃練習を実現できる点は羨ましい

 

今回の撮影用にGROTを貸出し協力してくださったのが、ワルシャワ市内の銃砲店「GUNCENTER」(https://www.gun-center.pl/)の代表で、元JW GROM隊員のWiesław Woźnica氏。店内にはこのGROTをはじめ欧米の銃器メーカー各社の製品が揃い、元特殊部隊員である氏のこだわりが感じられるラインアップだった

 

 

参考資料「月刊Gun Professionals」2025年1月号掲載、「RADOM MSBS-5.56 GROT」(床井雅美)

 

Text & Photos:神崎 大/アームズマガジン編集部
取材協力:GROM GROUPGROM GROUP JAPAN

 

この記事は月刊アームズマガジン2025年10月号に掲載されたものです。

 

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