2025/11/21
ポーランド軍最精鋭特殊部隊出身の教官たちに学ぶ!GROM GROUP The practicality of veteran training
GROM GROUP
The practicality of veteran training
―ベテランたちの戦術訓練に特殊部隊のリアルを見た―
ポーランドの近隣では、今まさにロシア・ウクライナ戦争が進行中であり、同国の安全保障はその影響から逃れることができない。それゆえ自国の国防力を整えていくことは、人間に欠かすことのできない呼吸のように、ごく自然なことなのである。ポーランドにおいて各種の軍事訓練や警備を手がける半官半民の軍事企業、GROM GROUPについてこれまでレポートしてきたが、今回は軍人やLE(警察等の法執行機関)の技量維持を目的とする、プロフェッショナル向けの訓練を中心にご紹介する。
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筆者近影神崎 大:Masaru Kanzaki GROM GROUPの取材は、訓練教材創りのヒントを得る旅にもなった |
危険度の高いLOW & HIGH
訓練参加者は、ポーランド軍や警察、国境警備隊などに勤務する現役の軍人やLEオフィサーたち。練度の高い特殊部隊員と思しき人から、デスクワークがメインと思しき人まで、レベルは様々だ。2名1組で行なわれるLOW&HIGHの射撃姿勢はかなり危険度が高く、前方射手が不意に立つと後方射手に頭を撃たれてしまうリスクが高い。そのため、教官は後方射手にできるだけ前に位置し、自分の存在を前方射手に意識させるようにすることを繰り返し教えていた。
具体的には後方射手の小銃のマガジンが、前方射手の頭の直上に来るようなイメージで、右足の内腿は前方射手の背中に触れるような位置が最も安全のようだった。陸上自衛隊の普通科部隊で見た訓練では、「立つぞ」「立て」等の号令をかけ合っていたが、GROM GROUP(GG)流の指導では無言での意志疎通を求めており、そこに特殊部隊出身の教官らしさを感じた。タクティカルシューティングのテクニックは、新兵(新隊員)からベテラン、特殊部隊員に至るまで様々なレベルがあり、任務の特性や状況によって使い分けるものとされている。
CQB Training for Veteran group
混沌の時代に即した訓練
対露戦争の最中にあるウクライナに向けた西側諸国の軍事援助物資は、多くがポーランドを経由して送り込まれており、ポーランドは国境警備を強化している。NATOの一員である同国へのあからさまな攻撃はいまのところ考えづらいが、グレーゾーン事態が生起する可能性はある。一例として、戦争の前にはなるが2021年にイラクやアフガニスタンからの難民がベラルーシを経由してポーランド国境に押し寄せ不法越境を試みる事件があり、これはEUに混乱を引き起こすことを目的としたロシアとベラルーシによる意図的なハイブリッド攻撃の一種であったとの見方もある。また、今年9月初頭にも、ポーランド領空にロシアのドローンが多数侵入するという事件が起きている。
ポーランド政府はこのような状況下で、国防や治安維持に従事する人々に対して戦うための技量維持・向上を求めており、彼らは実任務の間を縫ってGROM GROUPの訓練に参加しているのだ。
ベテラン戦闘員の技量維持
一般的に戦闘員として脂が乗ってくる時期は、経験を積んだ30代以降が目安とされることがある。その一方で管理職としての業務が増え、若い頃のように訓練に明け暮れるようなことは減っていくのも通例だ。しかし、ポーランドでは国防や治安維持に従事する現役のベテランにも戦闘技術の維持向上を目的とする訓練履修を義務化しており、GROM GROUPは様々な組織からの訓練生を受け入れている。
今回取材した軍人やLEオフィサー向けのコースに参加した訓練生は、聞けた限りでは警察、国境警備隊、軍の救難部隊、民間軍事会社等で、シニアクラスの参加者も見られた。訓練内容は各種射撃訓練のほか、戦闘救護訓練、CQB訓練、高所降下訓練などである。GROM GROUPの教官陣は対テロ任務もこなす最精鋭特殊部隊、JW GROM出身者を主体としており、彼らの射撃精度や身のこなしから能力の高さが垣間見られた。特殊部隊員と思しき練度の高そうな訓練生も何人か見られたものの、射撃訓練の機会が少ない警察官など、タクティカルな動きに不慣れな訓練生も同じコースを受講している。教官は訓練生の能力を見ながら指導し、彼らは新しいテクニックを習得していった。
GROM GROUPの日本人スタッフ
今回の取材をアレンジし、我々取材陣を案内してくださった2人の日本人スタッフにインタビューすることができた。1人はGROM GROUP JAPAN代表のYoshinobu Nakamura氏(通称Nobby、階級は准尉)。もう1人はGROM GROUPにおいてアジア地域統括管理官という要職に就くKatsumi Shinjo氏(通称Katz、階級は大尉)だ。
GROM GROUPの海外展開におけるキーマンであり、日本人でありながらポーランドの精鋭部隊出身者が大半を占めるこの企業で現場経験を重ね信頼を勝ち得ている2人に、お仕事や訓練の内容など実に興味深いお話を伺うことができた。
Yoshinobu Nakamura GROM GROUP JAPAN代表
――GROM GROUP JAPAN(GGJ)の設立経緯を教えてください。
Yoshinobu Nakamura(以下、Nobby):GROM GROUP(GG)のアジア進出計画に伴いアジア人、特に日本人メンバーを中心に準備期間含め選抜され、GGJが設立されました。日本とポーランドには歴史的な絆、信頼関係があり、日本人の誠実さ、勤勉さはポーランドにおいても評価されています。
――得意な射撃分野と、扱われる銃器は?
Nobby:やはり遠距離精密射撃ですね(氏はGG認定上級狙撃手である)。狙撃銃は訓練生時代はアキュラシーインターナショナルのAW(Arctic Warfare)、M24SWS(.308/.300WM)、バレットMRADなどを使いました。現在は豊和M1500とサコーTRG-42を主に使っています。M1500は.308仕様で、MDT製のORYXシャーシ(アルミ製で剛性が高い)と組み合わせています。日本人として日本発祥の銃を使いたかったということもありますね。
スコープはポーランドのDelta Optical製Stryker HD 5-50x56。長距離精密射撃競技(F-Class、PRS、ELR)や軍・LEで広く使用されているメジャーなブランドで、FFP(First Focal Plane:第一焦点面)仕様です。調整ダイヤルは大きくクリック感があり、目を離さずに指先の感覚だけで調整できます。TRG-42は.338LM仕様で、1,000m以上の射撃はこちらを使います。バイポッド以外は純正で、スコープは同じくStryker HD 5-50x56ですが、レティクルの実寸法が倍率で変わるSFP(Second Focal Plane:第二焦点面)仕様。50倍まで高倍率とSFPの細いレティクルは、精密射撃(ベンチレスト/ELR寄り)に強く、ロングレンジ確認射やロード開発、的撃ちに適しています。以前、チェコ人スナイパーと組んだ時に使わせてもらったCZ 750が、僕の呼吸に一番よく合い、欲しくなりました。まさに運命の出会いで、入手できたら即TRGと交換するつもりです。
ハンドガンはグロック17/19等がGG推奨となっていますが、個人的にグロックの安全機構には抵抗があります。僕が好んで携行してるのはCZ 75(後期型)で、鋼鉄製の重厚な造りが掌にぴたりと馴染み、相性がいいです。スナイパーだったヴォイテク司令も、現役時代はこれを使っていたそうです。
――GGの狙撃訓練について、話せる範囲で教えてください。
Nobby:GGでは狙撃はもちろん、準備や移動、狙撃後の離脱等の行程が特に重視されます。1日以上の待伏せはざらで、忍耐力を保てても、同じ姿勢でいつづけることのダメージ蓄積は大きな悪影響をもたらします。離脱行程でも軍用犬やドローンなどの追跡があり、特にドローンから逃れるのは困難で、スナイパーという職種は今後消えていくのでは、と危惧するほどでした。
極寒環境下の狙撃訓練も印象的でした。ポーランドでは地域的な条件に加え、過去の戦訓から冬季戦闘訓練は必須とされています。狙撃銃のメンテナンスについては、極低温対応のCLP (Cleaner Lubricant Preservative)やドライフィルム系潤滑剤(テフロン系)等を使わせなかったのが意外でした。GGでは機関部凍結防止のため潤滑油をアルコールや溶剤で脱脂し、ボルト周りに石墨(グラファイト)粉を軽く擦り込む、完全脱脂&ドライ運用です。ほかにも極寒下での銃の取扱注意点として、銃身に雪が入らないように簡易ソックやテープで銃口を塞ぎ、暖房の効いた場所には絶対に持ち込まない(外に置く)ようにします(温度差で内部に霜が付くと、作動不良を生じる)。凍結の有無の確認では、音を立てないようボルトを2度スライドさせます。基本夜間行動なので、日中は空き家などに身を隠して仮眠しました。
――GGJの今後の展望は?
Nobby:GG本部の意向に沿って日本はもとより、アジア地域におけるポーランド軍関係、士官学校、軍教育機関の訓練サポート、また来日政府関係者の警備業務および警護員の育成等を展開しつつ、GGをアジア全域に展開していきます。その先駆けとして、GGJはポーランドの軍教育機関と業務提携し、10月に調印式典が行なわれる予定です。
Katsumi Shinjo GROM GROUP アジア地域統括管理官
――セキュリティガードはいつ頃から?
Katsumi Shinjo(以下、Katz):学生時代はスキー競技の選手としてインターハイに出場したり、ライフセーバーに加えスキーや水泳の指導員もしていました。専門学校卒業後は小さな旅行会社に就職。営業や添乗員として頻繁に海外に出る機会を得て、クライアントの行動予定を立てたり、利率のいい両替屋を探したりするうちに個人的にも仕事の依頼を受けるようになりました。
その頃、セキュリティガードの仕事に興味を持ち始め、専門的な知識を得るため、ヨーロッパで最も有名なセキュリティガードの教育機関で学び、ドイツとオランダにある国際警備会社に就職。語学力が不足していたのでセキュリティドライバー係から始め、少しづつ武装警備の経験を積みました。日本では自衛官や警察官の経験もなくこの業界に入ることは異色かもしれませんが、ヨーロッパでは珍しくありません。また、この仕事は好戦的な人には向きません。あくまでも黒子として、クライアントの安全を確保しサポートすることが第一です。
――武装警備ではどんな銃を携行されますか?
Katz:クライアントや警備会社から支給される銃器を持つ場合が多く、私物を携行する機会はごくまれです。仕事の内容や派遣地域の危険度によって銃器のレベルも変わりますが、あくまでも警護対象を守ることに主眼を置き、チャンスがあれば交戦よりも危険な場所からの離脱を優先します。基本的に映画のようなドンパチはしませんが、危険度の高い地域では偶発的な交戦のリスクは存在するので、必要最低限の銃器は携行します。
――好みの銃器について教えてください。
Katz:車での移動が多いことからAK系、特にAK47SやAKS74Uなどが使いやすく感じます。小型軽量でどんな環境でも作動する信頼性、メンテナンスの容易さに加え、どの派遣先でも弾薬を調達しやすいメリットがあり、気に入ってます。それゆえAR系はあまり好きではなく、道具として使いやすいAK系に手が伸びます。要人警護では圧倒的にMP5系が支持されていますが、9mm×19では威力不足を感じるシーンもあり、都市部でのオーバーペネトレーションを避けるような場面に限られると思います。
ハンドガンはあまり使いませんが、要人警護でグロックやSIG SAUERのDAオートを携行することはあります。現場でそれを撃つことはまずありません。もし発砲して誰か死傷すれば、現地警察の捜査や裁判に巻き込まれ、警護という本来の目的を果たせなくなります。あくまでも自衛用に限定し、使用の可否は慎重に判断します。派遣先の銃刀法にもよるのですが、私物を携行できるならお気に入りのワルサーP99か、P1(P38の戦後版)がいいですね。
――GGでの仕事について教えてください。
Katz:ヨーロッパの警備会社での仕事を通じ、GGとの出会いがありました。ちょうどGGがアジア地域での業務拡大を模索していた時期で、採用していただけました。現在は幹部教育を修了して大尉に任官し、ポーランド人のメンバーたちと一緒に仕事しています。ここでは警備や警護のほか、トレーニング等も担います。日本では武装警備の仕事はないため、主にアジア地域で活動することが多いですね。
GGの教官には長い軍歴で培ったさまざまな特殊スキルや実戦経験を持つ者が多く、おおいに刺激を受けています。現在はヨーロッパ在住ですが、昨年創設されたGGJの中村代表とも連携しつつ日々の業務をこなし、ビジネスを育てるべく努力しています。
GROM GROUP 射撃訓練 番外編
●全長:1305mm ●銃身長:802mm ●重量:4,370 g ●使用弾:7.62mm×54R ●作動方式:ボルトアクション ●装弾数:5発
●全長:840mm ●銃身長:269mm ●重量:3,500g ●使用弾:7.62mm×25 ●作動方式:ブローバック(オープンボルト)●装弾数:71発(ドラム弾倉)
このサブマシンガンは一見するとアンバランスに感じるが、実際に構えてみると意外なほどバランスが良い。セミフル切り替え式でセミオートで狙って撃つことも充分に可能で、バラマキ銃のイメージは完全に払拭された。7.62mmx25トカレフ弾の威力と相まって、市街地戦や塹壕戦では侮れない武器となりそうだ
取材班による体験射撃
ロシア・ウクライナ戦争では、ロシア軍が第二次大戦当時の小火器まで引っ張り出していると言われているが、GROM GROUPのご厚意により、本誌取材班にそうした銃器に触れ、射撃する機会をいただくことができた。なお、取材者は2名とも日本国内での猟銃所持経験者であり、海外での各種実銃射撃経験もある。誓約書にサインしたうえで、教官の厳重な指導のもとで体験射撃をさせていただいた。
第二次大戦当時の小火器も健在
まず撃たせていただいたのは、モシンナガンM1891ボルトアクションライフルとPPSh-41サブマシンガンだ。日本で例えるなら三八式歩兵銃と一〇〇式機関短銃のような存在で、現代戦で役に立つとは到底思えなかったが、実際に撃ってみると確実な作動性と撃ちやすさを実感できた。後方支援部隊や補助兵器としての価値はあるかも、と思えるほどだった。
そして、PPSh-41は見た目に反してバランスが良く、セミフル切換も容易。そして大容量ドラムマガジンなど、第二次大戦を戦い抜いた名銃としての実力を見せつけられるようだった。
これら2挺とも整備状態は良好で、ほかにもこうした旧東側時代の小火器はしっかり保管されているようだった。近年、日本でも試験的に退役した74式戦車のモスボール保管などが実施されているが、旧式兵器の保管や運用は暗中模索の段階なので、そうした面からも東西両陣営での運用経験を持つポーランド軍から学ぶべき点はあるかもしれない。
現代の小火器では、以前レポートしたAKやGROTの実射に加え、ポーランド軍制式拳銃のVIS 100 M1を射撃することができた。こちらはコンベンショナルなDAオートで、特にクセもなく撃ちやすい印象だった。
●全長:193mm ●銃身長:110mm ●重量:695g ●口径:9mm×19 ●作動方式:ショートリコイル SA&DA ●装弾数:15+1発 ●製造:Fabryka Broni Łucznik Radom
このVIS 100 M1はフレームにアンダーマウントレールを備え、スライド後部はオプティックレディ(ドットサイト対応)仕様となっている
まとめ
今回の取材を通じて、ポーランド軍の有事への備えの一端と、GROM GROUPの教官や訓練生など、ポーランドの人々に親近感を持つに至った。取材に協力いただいたGROM GROUPの皆さまに感謝申し上げるとともに、今後、日本とポーランドの軍事交流がさらに発展することを祈念してやまない。
Text & Photos:神崎 大/アームズマガジン編集部
取材協力:GROM GROUP、GROM GROUP JAPAN
この記事は月刊アームズマガジン2025年11月号に掲載されたものです。
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