2025/07/04
ポーランドの国防を支える軍事企業「GROM GROUP」part.1
ポーランド軍最精鋭特殊部隊として知られる“JW GROM”の元将校らにより創設された「GROM GROUP」は、各種軍事分野の教育訓練、国内外の重要施設や要人警護を手掛ける半官半民の軍事企業であり、安全保障環境が厳しさを増す中でポーランドの国防における重要な一角を担っている。そのGROM GROUPから、日本の雑誌メディアとしては初めて直接取材する機会をいただいた。今回はまず、彼らの活動の概要からレポートしていこう。
筆者近影神崎 大:Masaru Kanzaki 訓練用ラバーガンTRGのキャロット代表。2005年より自衛官募集相談員を委嘱中 |
元ポーランド最精鋭特殊部隊将校を中心に創設
国防を担うスペシャリストたちに迫る
2022年2月に始まり、いまだ続くロシア・ウクライナ戦争。ウクライナやベラルーシ、さらにはロシア(バルト海に面する飛び地のカリーニングラード州)とも直接国境を接する中欧の国・ポーランドは、NATO加盟国のまさに最前線に位置しているといえるだろう。
それゆえ、国民が脅威を強く身近に感じているポーランドにおいて、国防力強化は喫緊の課題であるといえる。同国では2009年に徴兵制が廃止されているが、脅威の高まりを受け2017年には非職業軍人を主体とする領土防衛軍(Wojska Obrony Terytorialnej)を創設。直近では2025年3月に全成人男性に対する軍事訓練の義務化を発表し、2025年度国家予算における国防費は対GDP比で4.7%と過去最高の増加が見込まれている。こうした国防力強化の明確な意図を内外にアピールしたポーランドは、世界的にも軍事強国としての存在感を示すことになった。



月刊アームズマガジン2025年1月号では、昨年9月にポーランドで開催された障害物レース「GROM CHALLENGE」をご紹介した。その主催者である「GROM GROUP」は、軍および法執行機関を対象とした様々なレベルの訓練を手掛ける「教育部」と、国内外での警備業務などを手掛ける「警備部」を擁する半官半民の軍事企業である。同国には軍事訓練を請け負う軍事企業がいくつか存在するが、GROM GROUPもその一つであり、国防政策の一環として政府の公的資金によるバックアップがなされている。
ポーランド軍の軍種には、陸海空軍に加え前述の領土防衛軍と、複数の特殊部隊を隷下に持つ「特別軍(Wojska Specjalne)」が存在する。その中でも対テロ、直接行動、救助任務などに従事し、国連平和維持活動などで数々の実戦を経験してきた「JW GROM」は、同国特殊部隊の最精鋭として知られている(「GROM」はポーランド語で「雷鳴」の意味)。GROM GROUPはこのJW GROMの元将校らによって創設され、インストラクター陣にも同部隊出身者が多数在籍し、国防関係者から一目置かれる存在となっている。さらに、2024年に新設された「GROM GROUP JAPAN」をはじめ、アジア地域での事業展開も進められている。
この度、そんな彼らから取材の機会をいただけることになった。1週間におよぶ取材期間では、GROM GROUPの訓練施設で実施される高校生対象の軍事訓練に加え、ポーランド軍が近年採用した最新鋭小銃GROTなどが見られるという。4月末、本誌取材班はポーランド北東部、ポドラシェ県のチェルボニ・ブル(Czerwony Bór:赤い森)にあるGROM GROUP訓練施設へと向かった。
GROM GROUP Tactical Shoot Training

ベテラン層の技量維持も手掛ける
GROM GROUP訓練施設では、ポーランドの国防政策に応じた高校のOPW(軍事準備部隊)クラス、軍の士官学校、現役部隊などへの訓練提供に加え、軍人や法執行機関職員、民間のセキュリティガードといったベテランたちの技量維持訓練も行なわれている。取材期間中にも現役の軍人、警察官、国境警備隊員などがGROM GROUPが開催しているタクティカルシューティング、CQB、ラペリングといった訓練課程をこなしていた。また、前述のGROM GROUP警備部には軍や法執行機関出身のセキュリティガードもおり、射撃等の技量維持のための訓練を受講するという。
最新の銃器に触れる
この訓練の受講生は基本的に私物の小火器(小銃、拳銃)を携えて訓練に臨んでいたが、何名かはGROM GROUP側が用意した銃器を用いていた。教官が独自にセットアップした小銃には一種の凄みがあり、射撃や操作面へのこだわりが強く感じられた。普段、カスタムされたカービン銃を持つことのない者にとっては、最新型の銃器やテクニックに触れる機会にもなっている。




最小限の人数で訓練を回す
訓練は最小限の教官によって管理されており、1つの射撃グループ(5~6名)に対し2名の教官(射撃指揮と助教)があたる。この2名によって実弾の交付から照準の解説、実技の指導、射撃中のサポート、射撃後の評価まで行なってから次のグループへと交代させていく。陸上自衛隊のように1人の射手に1名~2名のサポートが付くのとは異なり、かなり省力化されたシステムで運用されていた。
受講生は特殊部隊員と思しき練度の高そうな人から、射撃訓練の機会が少なそうな法執行機関職員と思しき人まで、レベルは様々のようだった。今回は基本的に全員同じ訓練メニューをこなし、教官は個々のレベルを見ながら指導していった。


Text & Photos:神崎 大/アームズマガジン編集部
取材協力:GROM GROUP / GROM GROUP JAPAN
この記事は月刊アームズマガジン2025年8月号に掲載されたものです。
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