2024/09/22
【実銃】フランス特殊部隊にも採用されたスナイパーライフルの実力「AX308, AX338, AX MkIII」【後編】
ACCURACY INTERNATIONAL
AX308,AX338,AX MkIII
フランスのスナイパーライフルといえば、FR F1/F2やPGMウルティマラティオなどが有名だ。しかし、時代は変わった。フランスはもはや自国製にこだわってはいない。アキュラシーインターナショナルAXの納入が現代のフランス特殊部隊で始まっている。
3挺のAX
今回用意されたのはアキュラシーインターナショナルの現行モデルAX308、AX338、そしてAX MKⅢだ。このAX MKⅢはマルチキャリバー仕様のAXMC最新型で、口径はMKⅢ標準の.338 Lapua Magnum仕様となっている。最小限のパーツの組み替えで、.300WinMagまたは.308Winに口径変更が容易にできる。TREquipementの保管庫にはこのAX MKⅢ用の交換パーツもある。
特殊部隊に納入の決まったAX308は、ショートアクションの20インチバレルにタクティカルマズルブレイクを装備したものだ。このマズルブレイク先端部にはスレッド加工が施されており、サプレッサーなどが装着可能となっている。スコープはNightforce(ナイトフォース) ATACR (エイタッカー)4-16×42 F1が載っていた。
AX338は、AXMCの登場で2014年にカタログ落ちしたモデルだ。これはその最終型だ。この個体はトライポッドへの装着を容易にするRRS Auxiliary Plateを装備し、スコープはNightforce ATACR 5-25×56 F1が載せてある。AX308に比べ、より長距離射撃を想定して最大25倍、明るい視野を確保するための56mm径の対物レンズを持つスコープをチョイスした形だ。
AXMCの最新型で2020年に登場したAX MkⅢには、B&T Industries(スイスのB&Tではない)のATRAS バイポッドが装着されている。これはハイエンドのバイポッドで、左右の脚が別々に45°の角度ずつ固定でき、ハリスバイポッドなどより大幅に高機能だ。スコープはUSMC御用達Schmidt & Bender(シュミット&ベンダー:S&B) 5-25×56 PMⅡが載っている。しかしながら最近、フランスではS&Bよりナイトフォースの方が人気が高い。フランス特殊部隊は以前、ブレイザーのLRS2を採用したときもスコープはナイトフォースを選択していた。
余談だが、スコープの話をひとつ。以前フランス外人部隊の精鋭2e REP(第2外人落下傘連隊)でスナイパーをしていた日本人から聞いた話だ。当時、この部隊はFR F1を装備しており、スコープはScrome J8だった。倍率は8倍固定。駐屯していたコルシカ島では1日中毎日狙撃訓練を行なっていた。するとこの8倍スコープで800m先の草木の揺れが見え、風を感じ取ることができるようになったという。
訓練を重ねることによって人間は鍛え上げられ、常識では考えられない能力が身に付くというわけだ。もっとも現代では、高倍率スコープがスナイパーライフルに載せてある場合が多い。人間の能力を訓練で研ぎ澄ませるのが良いのか、優れた道具を使うのが良いのか、この辺りは判断が難しい。
AWからAXへ
AXは2010年に登場したAWの後継モデルだ。外観上判断できるAWとの最大の違いは、バレルを大きく覆うフォアエンドチューブ(ハンドガード)の存在だ。八角形のフォアエンドチューブは上面にフルレングスのピカティニーレイルが配置され、他の7面はKey Modスロットが全面に配置されている。これにより、ユーザーは好みの位置にアクセサリーを装着することができるようになった。
またAIライフルのアイデンティティともいうべき、サムホールグリップストックを止め、独立型ピストルグリップが装備されている。ストック自体の形状は、当初AWの雰囲気をある程度まで踏襲していたが、やがてそのデザインは大きく切り替わり、現行モデルは完全にスケルトンストックになっている。またストックの折りたたみ方向は従来の左側面から右側面に変わった。右側面に折りたたむとボルトハンドルに干渉してしまい、射撃ができなくなるが、これは問題なしと判断されたのだろう。
アクション自体はAWと基本的に同じフラットボトムで、ボルトの閉鎖角度が60°だ。AX338はAW338と比べ、アクション部分に大幅なデザイン変更をおこなっている。マガジンを従来のシングルスタックからダブルスタック、ダブルフィードタイプに切り替えたため、そのアクションの大きさはかなり変わった。
AX MkⅢはマルチキャリバー対応のAXMCの最新バージョンで2020年に登場した。AIのスナイパーライフルは最初のPMの時から容易なバレル交換が特徴だが、AXはそれをさらに推し進め、レシーバー側面のスクリューを取り外し、あとはアクションにねじ込まれたバレルを反時計方向に回して緩めれば外すことができる。AX MkⅢは口径変更のための交換パーツを最小限とし、ベースモデルである.338 Lapuaから.300WinMag、および.308Winへの切り替えが容易に可能となっている。
レシーバー上面のピカティニーレイル(スコープベース)は、AX308とAX338は20MOA、AX MKⅢは30MOAのアングルベースが標準装備だ。いずれもロングレンジでのスナイピングを想定している。
実射
スナイパーライフルなので本来なら長距離での実射が望ましいのだが、今回射撃できたのはTR Equipementの社内にある射撃場だった。室内射撃場で規模はかなり大きいのだが、25mプラスアルファの距離しか取れない。軍や警察へ製品デモンストレーションを行なうことを想定して作られたものだ。スナイパーライフルを撃つには、あまりにも距離が短く、とりあえず実射を行なったというレベルでしかない。さらにここでは.308の実射が限界で、.338 Lapuaは射撃不可となっている。そんなわけでAX308のみを実射した。
25mという距離はスナイパーライフルにとって短すぎる。ライフリングによって回転運動を付けられた弾頭は、バレルから放たれたあと、弾頭が安定して飛翔するまでしばらくの間、ふらつくのだ。25mという至近距離ではこのふらつきは収まらない。ブレットの先端部と底部が弾道の中心軸線に一致せず飛んでいく。おそらく.308クラスであれば50m近辺でこれが安定する。パワフルな.338ならもっと先まで行かないと安定しない。高精度ライフルにとって至近距離は鬼門なのだ。一応、25mで10発撃ちこんだターゲットをお見せする。300m先のターゲットでこれならOKというレベルに散ってしまった。AI のスナイパーライフルはハーフMOAを余裕でクリアする精度を持っている。300m先のハーフMOAは約42mmだ。
トリガーのキレの良さはAIのライフルの場合は当然のことで、それをいうのは無粋なことだろう。マズルブレイクはそれほど大きくないが、しっかりとリコイルを抑えている。射撃時に銃の横で撮影していると、マズルブレイクからの発射ガスを浴びることとなる。それは凄まじいもので、それだけマズルブレイクが効いているということだ。
フランスの特殊部隊でスナイパーライフルとしてAIを採用し始めている。これはフランスだけの話ではないようだ。TR Equipementによれば、今後西ヨーロッパの多くの国がAIのスナイパーライフルを導入していく方向にあるということだ。すでに多くの国の公的機関で、少数ずつではあってもAIのライフルが採用されている。今後、それがさらに進むということなのだろう。実機を試射してみて、そうなっていく理由がわかるような気がした。AXはスナイパーライフルとしての完成度が極めて高いのだ。
Photo&Report:Tomonari SAKURAI
Special Thanks:TR Equipement
この記事は月刊ガンプロフェッショナルズ2022年6月号に掲載されたものです
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