2023/04/21
【実銃】スイスの銃器メーカーB&Tの画期的な銃器「SPR 300」
B&T SPR 300
Cal.300 AAC Blackout
Bolt Action Rifle
目立たないながら異色の光芒を放っているのが、B&T AG社が数年前にリリースしたSpecial Purpose Rifle(SPR)300だ。このローエンフォースメント用として、限りなく静かな発射音と携帯性を追求して生み出されたボルトアクションスナイパーライフルにスポットを当ててみたい。
Special Purpose
2019年に入って、U.S. ArmyがB&T社のAPC9 ProK 9mm口径をベースとしたサブマシンガンを“SCW(Sub Compact Weapon:サブコンパクトウェポン)”として採用したというニュースが飛び込んできた。U.S. Armyがピストル口径サブマシンガンを公式に採用するのは、1942年のM3(通称グリースガン)以来だから、いくらミリタリーポリス用がメインとはいえ、2017年の時点でサブマシンガントライアルが始まると聞いた際には、耳を疑ってしまったものだった。
採用といっても、現時点での納入は350挺でしかないが、オプションとしてアクセサリーやスペアパーツを含む1千挺が納入される可能性もあるのだという。
このミリタリー契約で注目を浴びたB&T AG社は、1991年にKarl Brugger氏とHeinrich Thomet氏によって創立されたスイスに本拠地を置く銃器メーカーだ。創業当初はサウンドサプレッサーやスコープマウントなどのアクセサリーパーツを製造していたが、2004年からは自社生産による小火器を結構な勢いでリリースするようになった。
・MP9 Steyr TMPをベースとしたコンパクトサブマシンガン。“ロックドブリーチアクション”を採用しているため、軽量ガンとしてはリコイルの少ないサブマシンガンとして仕上がっている。
・APC9 “Advanced Police Carbine(アドバンスドポリスカービン)”と名付けられたクローズドボルト/シンプルブローバックシステムが採用されたカービン/サブマシンガン。U.S. Armyが採用したSCWは、このモデルの改良版だ。
・APC556 ポリマーロア、アルミアッパー構造の、5.56mmガスピストンオペレーションカービン。油圧バッファーを備え、そのリコイルはソフトだ。同じプラットフォームで、.300 AAC Blackout口径のAPC300と、7.62×51mm口径のAPC308(アルミロアフレーム)モデルもある。
・APR 308/338 “Advanced Precision Rifle(アドバンスドプレシジョンライフル)”。7.62×51mmと.338ラプアマグナム口径が用意された、ロングレンジ ボルトアクション スナイパーライフル。
そして2017年にU.S.リリースされたのが、今回紹介できることになったSPR300 “Special Purpose Rifle(スペシャル パーパス ライフル)”だ。このローエンフォースメント用に開発された長大なサプレッサーとアルミストックを備えたボルトアクションライフルは、近距離(メーカーによると165ヤード(約148m)まで)における高精度と、.300 AAC Blackout口径+サプレッサーにおける消音効果、またサプレッサーを外してストックをたたむと全長が16インチ(約40cm)になってしまう優れた携帯性を兼ね備えた魅力的なモデルとなっている。
メーカーによる、“165ヤードまでの高精度を誇る“という謳い文句が気になったので、この辺りをLA近郊都市のPD(ポリスデパートメント)でSWATチームのスナイパーを務めるジェイソン・デイヴィス氏にSPR300を見せてみた。
「ああ、B&Tね。このモデルはテストしたことがあるよ。ウチのPDでは採用を見送ったけど、ポリススナイパー用としては、かなりのポテンシャルを持っていると思う。
実際の事件におけるポリススナイパーの発射距離というのは、その90%以上が100ヤード以内で起きているという統計があるからね。
SPR300は、.300 AAC Blackoutという近/中距離に特化したアモを採用して、そのサブソニック(亜音速)弾を使ってサプレッサー使用時の発射音を大幅に抑え、スナイパーライフルとしては近距離に目的を絞り込んだ、ということだろうね。
とにかく16インチまで小さくできる本体と、スコープを入れて4.8kgという重量は評価できる。
想像してみてくれ。ターゲットが立てこもる銀行から、道を挟んだ反側、家屋の屋根やビルの屋上が我々のポジションするポイントなんだ。小型軽量というのは大きなプラスとなる。
現在ほとんどのSWATスナイパーはミリタリーベースのボルトアクションライフルを使っているから、サイズ的には長さ1m以上、重量に至っては8kgを超える重いライフルを、担いでいることになる。
私がSPR300を見送ったのは、新製品が故の信頼性の低さ、トリガープルが好みではない点、そして何よりもこの.300 AAC Blackout口径という新しい弾薬を公式に採用弾とする法律上の難しさ、があるね。この発射音の低さは魅力的だが、サブソニック弾とはいえ220gr(グレイン)弾頭の貫通力の高さも気になるところだ。
LEO(Law Enforcement Officer:ローエンフォースメントオフィサー)が放った弾頭が壁を貫通して一般人を傷つけたとなると、これは大問題だからね」
納得のコメントであった。この.300 AAC Blackout口径に関しては、FERFRANS(ファーフランス)社の協力により、各ロードにおけるその初速やマズルエナジーを計測することができたので後項においてお知らせしたい。まずは実射レポートをお届けする。
Photo&Text:Hiro Soga
この記事は月刊ガンプロフェッショナルズ2020年1月号に掲載されたものです。
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