実銃

2025/10/21

アイコニックなマグナムリボルバー「S&W Model 29」

 

 Gun Professionals Web 出張版

 

アイコニックなマグナムリボルバー

S&W Model 29

Text:Satoshi Matsuo 
Photos:Yasunari Akita and Toshi 

 

44マグナム弾の開発を提案し、その完成に尽力したエルマー・キースの業績を称えるため、1985年に29-3をベースに2,500挺製造されたエルマー・キース コメモラティブエディション。シリンダー側面に書かれた“HELL, I WAS THERE”は1979年にエルマー・キースが発表した自伝のタイトルだ。“地獄、私はそこにいた”と題されたこの本は、エルマー・キースがアメリカ西部で狩猟家、銃器専門家、牧場主として生きてきた冒険に満ちた人生を生々しく、飾り気のない文体で綴られている。

 

1971年全米公開の映画『ダーティハリー』でこの29-2の6.5インチが使われ、これによって44マグナムは一躍有名になった。あの映画でこの銃が使われなかったら、モデル29は“単なるハンティング用大型リボルバー”のまま、終わっていたかもしれない。

 

 S&Wはリボルバーを数多く製造供給しているメーカーだ。もちろん現在の主流はセミオートマチックであり、S&WもM&Pなど時代の最先端を走るモデルを多数取り揃えて市場のニーズに応えつつ、リボルバーのアップデートも忘れずにおこなっている。そんなS&Wのリボルバーの中で、もっともアイコニックな存在といえば、かつて世界最強といわれたモデル29がその筆頭に位置する。おそらくこれは永遠に変わることはない。


 1956年以降、製造が続くモデル29シリーズの中でも一番美しく、且つ人気を集めてきたのは、1962年から1982年まで製造供給が続いた“29-2”だろう。製造技術が大幅に進化し、自動化された現在でも、当時の熟練工達が経験と技術を駆使して切削加工で作り上げた29-2に匹敵する製品を新たに作り出すことはできない。今回はそんな定番中の定番であるモデル29-2と29-3の特別なモデルの雄姿をご覧頂こうと思う。

 

左が薬莢のリム部まですっぽりと収まるRecessed Cylinder(リセスドシリンダー)で、日本ではCounter Bored(カウンターボアード)と表記される場合が多い。S&Wのマグナムリボルバーが採用していたデザインだ。この方が安全性は高いといわれてきたが、実際にはほとんど強度アップには寄与していない。そのため1982年以降は省略された。右のエルマー・キース コメモラティブエディションは1985年製で29-3をベースとしているため、リセス加工のないスタンダードシリンダーだ。こうして見比べてみると、リセスドシリンダーの方が断然高級感がある。

 

テキサスのWild Guns Leather Co.製ダーティハリーホルスター。同社は1977年からこのホルスターを製造供給しており、今でもオーダーが可能だ。映画で使われたホンモノはJ.M. Bucheimer Co.製。同社は1975年にクラークと合併し、Bucheimer Clark(ブーシュマークラーク)となった。その後にLawman Leather Goodsとなって、ホルスターの供給を続けていたが、現在の状況はよくわからない。

 

これらのモデル29はTTIのタラン・バトラーのコレクションだ。タランはダーティハリーの大ファンで、クリント・イーストウッドの直筆サイン入り写真も持っている。

 

モデル29

 

 1955年12月、S&Wは同社の最大サイズ(当時)であったNフレームから44マグナムを発射する大型DA(ダブルアクション)リボルバーを完成させ、翌年から販売を開始した。

 これに使用する44マグナム弾は、著名な銃器研究家であり、牧場主でハンター、そして作家でもあったElmer Merrifield Keith(エルマー・キース:1899-1984)が、既存の44スペシャル弾を強化した新型カートリッジをS&Wとレミントンに提案し、これを受けて両社が開発したものだ。当時において、これが世界最強のリボルバーカートリッジとなっている。
 この44マグナム弾を使うリボルバーのモデル名は、そのものズバリの44 Magnumであったが、1957年に29というモデルナンバーが用いられるようになった。
 当初は6.5インチでデビューしたが、1958年に8-3/8インチが追加され、5インチも500挺ほど製造された。
 1960年にエジェクターロッドスクリューを左回転ネジに改良した29-1が登場した。翌1961年、シリンダーストップスプリングのネジを省略して、3スクリューとした29-2に切り替わっている。

 

29-2のファイアリングピン付きのハンマーノーズ。ハンマーはケースハ—ドゥン仕上げだ。1998年の29-7以降、フローティングファイアリングピンとなり、ハンマーノーズのファイアリングピンは無くなった。しかし、2000年にS&WはClassic Lineを製品化し、そのシリーズの中でのみハンマーノーズが復活している。

 

クラシックなゴンサロアルベス製ターゲットグリップ。サムレストはフットボールタイプと呼ばれるものだ。このグリップが付いてこそ、“S&Wモデル29”といえるのだが、正直な話、握り難い。
1970年代後半になって、スピードローダーが使いやすいようにこのサムレスト部分を薄くカットしたグリップが登場した。

 

クラシックなモデル29には、このグルーブ付きワイドトリガーがよく似合う。ダブルアクションで撃つのであれば、グルーブ無しのスリムトリガーの方が断然引きやすい。一方、シングルアクションで撃つ場合は、このワイドトリガーが生きてくる。


 この29-2が映画『ダーティハリー』(Dirty Harry:1972)で使用され、一躍有名になった。それまでガンショップのショーケースの片隅に置かれたハンティング用大型リボルバーであったモデル29が大人気となり、あっという間にプレミア価格で取引されるようになったのだ。
 映画の中で発せられた主人公ハリー・キャラハン刑事のセリフ
I know what you are thinking. Did he fire six shots or only five? Well, to tell the truth, in all the excitement I’ve kind of lost track myself. But since this is a .44Magnum, the most powerful handgun in the world…and would blow your head clean off…you’ve got to ask yourself one question: Do I feel lucky? Well, do ya, punk?
(お前が何を考えているのか判るぜ。こいつはもう、6発撃ち尽くしたか、まだ5発かということだろ。正直言って、俺も興奮して数えるのを忘れちまった。だがな、これは.44マグナムという世界最強の拳銃だ。お前の頭なんか1発で吹っ飛んじまうぞ。自分がツイているかどうか試してみるか?さぁ、どうするんだ、この野郎!)


 この“世界最強の拳銃”という言葉が、たくさんの人達の心に響いた。実際に44マグナムが世界最強のハンドガンカートリッジであったのは、45コルトのケースを延長・強化した454Casull(カスール)が誕生する1958年までのわずかな期間であったが、454カスールは長い間ワイルドキャットカートリッジ(量産されていないカスタム弾)であり、これを撃つ市販リボルバーがフリーダムアームズから登場したのは1983年になってからだ。したがって、ハリー・キャラハンが劇中にいう“世界最強のハンドガン”という表現は映画公開当時では間違いではなかったといえる。
 映画の強烈な印象が、モデル29を一気にアイコニックな存在にのし上がらせらた。あれからもう52年が経過しているが、このリボルバーは今でもS&Wのハイエンドモデルであり続けている。

 

Smith & Wesson Model 29(29-2)
全長:310mm
全高:150mm
全幅:43.5mm
重量:1,350g
銃身長:6.5インチ(165mm)
装弾数:6発
照準線長:215mm
トリガープル:DA 5.5kg, SA 1.4kg
トリガー幅:10mm
ハンマー幅:12.6mm
適合カートリッジ:44マグナム&44スペシャル

 

その後のモデル29


 78年になってステンレス版のモデル629が登場した。そして79年に6.5インチバレルが6インチに少し短く変更された。82年にはシリンダーのリセスドシリンダー加工とバレルの固定ピンが省略され、シリンダー全長を44.5mmから43.2mmへと変更し、29-3となった。

 この後の1988年、シリンダーヨークの保持システム、フレームスタッドの耐久性強化といった地味ながら重要な改良を加えて29-4(初期のモデルは29-3Eと刻印されていた)に切り替わっている。
 90年には29-5に移行した。この時、シリンダーストップノッチを長くして、シリンダーが回転時にスリップしてしまう不具合を解消、また内部メカニズムの強化を図っている。翌年にはフルラグ・バレルを組み合わせた44クラシックが登場し、それにコンバット ハードウッドグリップを組み合わせたクラシックDX(デラックス)が続き、姉妹製品として、フルート加工をしないアンフルーテッドシリンダーを組み合わせたクラシックハンターなども登場した。


 94年には従来のゴンサロアルベスで作られた美しいグリップを止め、ホーグ製ラバーグリップを標準装備し、エキストラクターを改良、リアサイトのリーフ形状を変更すると同時にフレーム上面にネジ穴を加工し、サイトを取り外すとスコープマウントを直接装着できるようにした29-6へと進化している。1998年、それまでハンマーに装着されていたファイアリングピンが、フレーム側に内蔵されたフローティングファイアリングピンに変更され、29-7となる。またこの頃にフレームのスクエアバットが廃止され、トリガー、ハンマーがMIM(金属粉末射出成形法)で製造されるようになった。また製品パッケージが紙箱から青いプラスチックのケースに切り替わっている。
 そして通常量産型のモデル29は1999年1月、遂に製造中止となり、同年4月10日にS&W直営店で売れたモデルが最後となった。ブルー仕上げのモデル29はカタログから消えたが、ステンレス製のモデル629は製造が続いていたため、S&Wの44マグナムがここで潰えたわけではない。

 

79年に6.5インチのバレルが6インチに切り替わった。なぜこの時、S&Wがバレルを0.5インチ短くしたのか、その理由についての記録はない。たった0.5インチの差だが、6.5インチバレルの方がよかったというファンは多かった。それを受けてかどうかは不明だが、50周年記念モデル29-10で6.5インチバレルが復活している。以後、クラシックラインなどでも6.5インチバレルが作られるようになってきた。この写真も6.5インチの29-2だ。

 

トリガーの動きに連動しサイドプレートの溝に沿って上下に動くハンマーブロックが引き金を引ききっている時以外、ハンマーがプライマーを叩けないようにハンマーの前進をブロックする。ハンマーに直接ファイアリングピン(ハンマーノーズ)が備わっている設計なので銃を落下させてハンマーに衝撃が加われば、それがそのままプライマーを叩く事になるため、こうした安全対策は必要不可欠だ。ハンマーブロックはフローティング方式が採用されている現在でも引き続き採用されている。


 その後、モデル29も復活する。2000年に29-7にステンレスシリンダーを組み合わせた特別モデルが少数製造され、2001年に現在のようなキーロック内蔵型フレーム、4スクリューサイドプレートを採用した29-8が記念モデルを中心に少数製造されている。
 そして2002年、パフォーマンスセンターから出荷されるヘリテージシリーズの一部として、ブルーとニッケル仕上げが29-9として再デビューを果たした。
 2006年、50周年記念モデルとしてスクエアバットフレームの特別モデルが発売されていて、これが29-10だ。


 モデル29のシリーズは、長い製造期間の中に限定生産されたモデルも数多く存在する。たとえば、83年から91年まで製造されたシルエットモデルは10-5/8インチ・バレル付きで、4段階の距離に合わせて高さ調整が可能なパトリッジフロントサイトを装備しており、ロングレンジ射撃に特化したものであった。
 モデル29とそこから発展したバリエーションは多く、現在も多くのシューター、ハンターの需要を満たししている。
 2025年9月現在、S&Wのモデル29系44マグナムラインナップは以下の通りだ。

 

● モデル29 クラシック 4インチ、6-1/2インチ
● モデル29 マシンエングレーヴド 4インチ
● モデル629 マウンテンガン  4.13インチ
● モデル629 4インチ、6インチ
● モデル629 パフォーマンスセンター 2.63インチ
● モデル629 クラシック 5インチ、6.5インチフルラグ
● モデル629 パフォーマンスセンター 44マグナムハンター 7.5インチ
● モデル629 パフォーマンスセンター ステルスハンター 7.5インチ
● モデル629 デラックス 6.5インチフルラグ
● モデル629 デラックス 3インチ
● モデル329 PD 4.13インチ
  アイコニックなモデル29の歴史はこれからも続く。

 

44マグナム弾。左がレミントンの180gr JSP (初速1,658fps/エナジー1,099ft.lbs)、右は鉛のコアを持たないカッパー一体型弾頭225gr Barnes(バーンズ)VOR-TX(初速1,298fps/エナジー842ft.lbs)

 

 

Text:Satoshi Matsuo 
Photos:Yasunari Akita and Toshi 

 

 

この記事は月刊アームズマガジン2025年11月号に掲載されたものです。

 

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