2025/08/19
映画『ジョン・ウィック』に登場する銃器たち John Wick Worldの銃器 between JW3 and JW4 Part1
Gun Professionals Web 出張版
John Wick Worldの銃器 between JW3 and JW4-Part1
Text by Satoshi Matsuo, Photos by Yasunari Akita
8月22日公開の映画『バレリーナ THE WORLD OF JOHN WICK』(From the World of John Wick: Ballerina)は、2019年に公開されたジョン・ウィックシリーズの3作目『ジョン・ウィック: パラベラム』(JW3)と2023年公開の4作目『ジョン・ウィック;コンセクエンス』(JW4)の間に位置する物語だ。時系列的には、一部が3作目と同時進行し、多くの部分は3作目の後に起きた別の出来事を描いている。大ヒットシリーズから生まれたスピンアウト作品にはありがちな事だが、部分的に辻褄がちょっと合わないように感じる部分がある。しかし、あくまでも娯楽作品なので、気にすることではない。
今回のGun Pro Web出張版は、映画『バレリーナ』を楽しんで頂けるよう、3作目『ジョン・ウィック: パラベラム』の公開に合わせGun Pro誌2019年11月号に掲載した銃器紹介記事の一部をベースとして、あの時代のジョン・ウィックワールドの銃をご紹介するものとした。
Gun Pro誌では、『ジョン・ウィック』シリーズが公開されるタイミングに、毎回劇中で使用された銃に関する詳細な記事を掲載してきた(2作目以降)。このシリーズは大変なこだわりを持って使用する銃器が選ばれており、どれも魅力的だ。今回の記事は6年近く前のものがベースではあるが、『ジョン・ウィック』ワールドを知って頂く上で参考になると思う。
8月22日公開の映画『バレリーナ』で使われた銃器に関しては、Gun Pro Web 9月号で詳しくご紹介させて頂くので、そちらもぜひご覧頂きたいと思う。


ゲーリーさんは最新作『バレリーナ』も担当している。左の写真で手に持っているのは、JW3で使われたSIG MPXカービンだ。
STI/TTI Combat Master 2011

全長230mm、銃身長137mm、全高141mm、重量1,043g、
2019年の時点での市販品メーカー希望小売価格 $3,899.99
2025年現在の市販品メーカー希望小売価格 &6,999.99(納期3-4ヵ月)
カスタムガンビルダーであり、ガンメーカーでもあるTaran Tactical Innovations(TTI)のオーナー、Taran Butler(タラン・バトラー)は、JW2以降、射撃トレーナー、そして銃器アドバイザーとして『ジョン・ウィック』シリーズの製作に協力している。JW3では、前作JW2の前半で使用したG34コンバットマスターを超える新たなハンドガンを使用したいというチャド・スタエルスキ監督からの要求に対し、グロックカスタムを超えるモデルなら、2011ベースのカスタムガンしかあり得ないと判断、STI(現在のSTACCARO)とのコラボレーションで、新たなハンドガンを開発した。
それまでタラン・バトラーは、2011フレームのハンドガンとしては当時最高品質を誇ったSVI(Strayer-Voigt, Inc.:Infinity Firearms)を使用していたが、このコンバットマスター開発に際して積極的に応じてくれたのは、SVIではなくSTIであった。ちょうどこの頃、STIは新しい経営陣の元、製品品質が大幅に向上しており、タラン・バトラーとしても共同開発をおこなうパートナーとして相応しいと判断、この開発を積極的に進めた。
そして誕生したのが、STI/TTI コンバットマスター2011だ。この開発に際して、2011を6インチモデルとするとスライドが重すぎてしまい、作動サイクルが遅くなるため、バレル長は5.4インチとしている。このバレル長は、STIの3ガンマッチ対応モデルであるDVC-3と同じ長さだ。
このSTI/TTIコンバットマスター2011は2019年1月のSHOT SHOWでSTIブースに展示され、たいへんな注目を浴びた。その直前、JW3のトレーラー(予告編)が公開されており、このコンバットマスター公開はベストタイミングだったといえるだろう。そして約4ヵ月後の2019年5月17日にJW3は全米公開され、大ヒットを記録している。




2025年現在、TTIは優れたカスタムガンを供給するガンメーカーとしての安定的なポジションを手に入れているが、10年前はまだコンプリートモデルを供給する段階ではなかった。2011年にTTIがスタートした当初は、グロックや2011,ベネリショットガンのカスタムを手掛けると共に、マガジン装弾数を増やすベースパッドを製品化していた。
その後にカスタムメニューを一歩前進させるべく、グロックカスタムに施す独自のスライド加工をデザインしていた時、2017年公開のJW2製作に向けて、主演のキアヌ・リーブスへ射撃トレーニングをおこなって欲しいという要請を受けた。この事がG34コンバットマスターをヒーローズガンとして劇中で使用することにつながっていく。
JW3で使用されたSTI/TTI 2011コンバットマスターは、G34コンバットマスターのデザインを2011に落とし込むことから始まった。タラン・バトラーがおこなったことは、映画用プロップガンを作るのでは無く、最高のカスタムガンを作るということだった(射撃しない恰好だけの銃を作るのではなく、実戦で使える最高の銃を作るという意味)。
これはG34コンバットマスターの時も同様で、スクリーンで映える見掛けだけの銃を作ったのではない。
『ジョン・ウィック』シリーズは、現実にはあり得ない独特の世界観による物語だ。しかし、銃器に関しては一部例外もあるものの、かなり高いリアリティと強いこだわりに基づいて描かれている。そのバランスがこのシリーズの魅力でもあるのだ。
タラン・バトラーはコンバットマスターで使用するパーツを、自身がベストと考えるサードバーティ製とすることを主張し、STIのエンジニアと何度も協議を重ねた。さらにマッチバレルを高い技術を持つガンスミスの手でタイトフィットさせている。トリガージョブもまた、タランが市場でベストと信じるエクストリームエンジニアリングを指定した。
JW3の大ヒットにより、STI/TTI 2011コンバットマスターにも注目が集まった。タラン・バトラーはこれをコンプリートガンとして大々的に販売する方針だったが、2018年にTony PignatoがSTIのマーケティングダイレクターに就任した以降、STIはマッチガンを主体とするメーカーから、法執行機関向けのハイエンドデューティガンを主体とするメーカーに移行しようとしていた。そのため、2011コンバットマスターを限定生産品として販売するに留めていた。そして2019年末、デューティガンの生産に注力するため、コンバットマスター2011の生産を中断してしまった。そして翌2020年5月26日にはその社名をSTIからSTACCATO(スタカート)に変更している。
コンバットマスター2011の製造中断を受けてTTIは、STIに頼らず、コンバットマスター2011を自ら製造供給する道を選び、パーツ製造業者の選定を開始、2021年にJW3コンバットマスターとして発売した。これによりTTIはコンプリートガンメーカーとなったのだ。現行型はSTI製造モデルとは少しだけ細部の仕様が異なっている。





写真左は一般的な9×19mm(9mmパラベラム)のフェデラル115grで、右が9mmメジャーだ。かなり弾頭部分が長く感じられるが、パウダー量を増すために弾頭のシーティングデプス(薬莢に弾頭をセットする深さ)を浅くし内部スペースを稼いでいるため全長が長い。
これはJW3の撮影前にチャド・スタエルスキ監督がこれを実射して、そのパワーを実感して貰うためにTTIでハンドロードしたものだ。それを実射することで、チャド監督もこの弾の実力を実感し、映画の設定を変更、使用することが決まった。
劇中、シャロンにより語られている通り、弾頭重量125grで銃口初速を1,425fpsまで加速、PF(パワーファクター)は178となる(競技では165以上がメジャーPF)。銃口エネルギーでは564ft.lbsまでアップし、一般的な9mm(115gr弾頭、初速1,150fps)の338ft.lbsより約1.6倍のパワーを持っている。
USPSAリミテッド部門、IPSCスタンダード/クラシック部門の場合.40/10mm、または.357SIG口径以上でないとメジャー扱いにはならないため、この種の9mmメジャー弾の需要は限定的だが、主席連合の特殊部隊と戦うために強装弾として映画に登場した。
TTI G19 Gen4 Combat Master HB Model
JW3を代表するハンドガンとしてG19コンバットマスターにも注目したい。JW3の撮影がおこなわれた2018年頃のTTIカスタムガンの代表的機種のひとつであり、現在でもTTI G19 Gen3 Combat Master Packageして販売が継続されている。
これはJW3のモロッコのシーンで、ハル・ベリー演じるソフィアが敵から奪って使用するモデルだ。タラン・バトラーがチャド・スタエルスキ監督から、彼女のキャラクタイメージにマッチする銃は何かと聞かれ、このG19コンバットマスターを推薦した。
G19 Gen4をベースにスライドをコンバットマスターデザインとし、サイドポリッシュでシルバーのイオンボンド仕上げにしている。スティップル加工を施し、トリガーガードにアンダーカットを加えたフレームにはTTI キャリーマグウェルを装着、TTIベースパッドで+4発増量して19連マガジンとした。このカスタムは当時のTTI社内で、HB(Halle Berry=ハル・ベリー)モデルとも呼ばれていたほど、完成度が高い。
但し、この銃は敵から奪って使用するものであり、ソフィア自身の銃はSIG SAUER P365カスタムだった。それでもG19コンバットマスターの方が断然目立っていたし、ガンアクションの経験がないハル・ベリーが、撮影前にTTIのレンジで射撃訓練を受けた際、主にグロックカスタムを使用していたようで、やはりこちらがメインだったのだろう。
彼女もキアヌ・リーブスほどではないが、かなりしっかりと射撃訓練を受けている。同時期に格闘技の猛特訓を受けたが、その時に彼女はつま先、肋骨、指を骨折してしまった。それでも厳しい訓練課程をすべてこなしたという。それらの訓練の成果はJW3のアクションシーンで遺憾なく発揮された。

5.4インチバレルは安定感があり、狙いやすく、そして撃ちやすい。それでいて長過ぎるとは感じさせないバランスの良さが魅力だ。このモデルのトリガープルは実測658gとかなり軽いが、適度な抵抗感と鋭く切れる絶妙なチューンが施されている。作動は滑らかで、操作性も良い。これはリミテッドガンとしてそのままマッチでも使えるレベルだ。
映画『バレリーナ THE WORLD OF JOHN WICK』に登場するジョン・ウィックは、2011系のハンドガンを使用していた。どうやらそれはTTI製のPIT VIPERらしい。ヴァイパーはTTIがJW4に向けてデザインした、2011コンバットマスターに続く新しい2011だ。『バレリーナ THE WORLD OF JOHN WICK』は、時系列的にはJW3からJW4の間に位置するストーリーであり、彼がヴァイパーを持っているのはちょっとだけおかしい。ここは2011コンバットマスター、あるいはG34コンバットマスターを持って出てきたら、少し整合性がとれたような気がする。


Gun Pro Web 9月号 CONTENTS ▶『バレリーナ:The World of John Wick』の銃器 |
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Text by Satoshi Matsuo, Photos by Yasunari Akita
この記事は月刊アームズマガジン2025年9月号に掲載されたものです。
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