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2020/11/15

日本のプロップガン(撮影用小道具銃)ショートヒストリー

 

 

映画に登場する銃

 

 映画やドラマにはよく銃が登場する(筆者がそういう映画やドラマばかりを観ているから“よく登場する”と感じるのだろうが…)。物語を展開する上において、銃が重要なアイテムとなる場合も多く、たいていは発射シーンが伴う。そしてそれは物語のクライマックスであることも少なくない。
 かつては銃を発射する瞬間の動いている映像(いわゆる動画)は、映画やテレビドラマ、あるいはそれらのビデオぐらいでしか日本では見ることができなかった。だから銃が好きな人は、映画などで銃が登場すると、目を皿のようにしてその銃に見入ったものだ(筆者もそのひとり)。ストーリーそっちのけで銃ばかりを見ていたなんて人もいたと聞いている。しかし、時代は大きく変わり、現在はYouTubeなどの動画がネットで自由に見ることができるようになった。その気になれば、銃の発射シーンばかり1日中見続けることも可能だろう。しかしそれでも、映画やドラマに登場する銃は魅力にあふれている。それは一連のストーリーの中に組み込まれて、銃の登場も、その発射も、ある意味で必然性を伴っているからだと思う。

 

「プロップガン」とは

 

 映画やドラマで使われる銃は、プロップガンpropgunと呼ばれることが多い。propとは小道具を意味するので、プロップガンとは撮影用の小道具銃だ。海外の映画やドラマなどに登場する銃は当然ホンモノで、それを撮影用に改造したものだ…と言いたいところだが、実際には実銃ではない、いわゆる“ノンガン”と呼ばれるものも少なからず使われている。それは主に撮影を安全におこなうためだ。実銃ベースのプロップガンでブランクカートリッジ(空砲)を撃つといってもそれなりの危険が伴う。実際に事故が起きた例もある。その外にも、ロケをおこなう町や市による制約がある場合が多く、その場合は実銃の使用許可を申請し、承認されなければならない。その手続きが煩雑であるため、ノンガンだけで撮影する場合もある。だから外国の映画やドラマだからといって、そこに登場する銃がすべて実銃ベースのプロップガンというわけではない。
 当然、日本で製作された映画やドラマでは実銃は使えない。そこでモデルガンやエアガンをベースにしたプロップガンや、初めから撮影用に特化したプロップガンが作られてきた。今回は、そんな日本のプロップガンについて、簡単にその歴史を追ってみようと思う。

 

映画・テレビドラマに登場する日本警察のスナッブノーズリボルバープロップガン。タナカ製S&Wモデル360J Sakura、タナカ製S&Wモデル37エアウェイト、コクサイ製S&Wモデル36、コクサイベースのニューナンブ化改造モデルなどがある

 

警察から銃を借りて撮影していた時代

 

 1930年代から40年代は、ハリウッド映画黄金期といわれる。第二次大戦の敗戦から復興に向けて動き出した日本でも、映画は娯楽の王様と呼ばれ、映画製作が活発におこなわれていた。戦後の日本では一般市民の銃所持が強く規制され、ハンドガンの所持は禁止された。そのため映画に銃が登場する場合、警察が映画会社に銃を貸し出すという形で対応していた時期がある。1949(昭和24)年の黒澤明監督作品『野良犬』では、当時の日本警察が使用していた.25口径のコルト モデル1908(コルトポケット)や.32口径のFNモデル1910などが登場している。

 

電気着火式(電着)ハンドガンの登場

 

 しかし、警察が銃を貸し出してくれたのは昭和20年代後半までのことだ。おそらく法的に問題だと判断されたのだろう。警察からハンドガンを借りられなくなった映画各社は、撮影用のプロップガンを作り出した。当時のプロップガンとして有名なのは、“日活コルト”と呼ばれるもので、コルト モデル1903ポケットハンマーレスの外観を模している。銃身内部にセットした火薬を電池で着火し、銃口から火を噴き出すことで銃を撃っているように見せるものだ。コルト モデル1903やFNモデル1910は戦前から数多く日本にあったハンドガンで、戦後も日本警察が採用するなど、日本人には馴染み深かったことと、外観がシンプルだったこともあってこれらが模されたのだろう。他にも何種類かのハンドガンが電気着火式(電着)で製作された。

 

Smith & WessonモデルS&W500 4”バレル(実銃)の実射。かなり強烈だが、肉眼でこんな大きなファイアボールが見えるわけではない

 

排莢する電着銃

 

 1960年代にモデルガンが市販されると、ハンドガンの操作シーンはモデルガンを使い、発砲シーンは電気着火式が使われるようになっていく。オートマチックの銃でも排莢などのギミックはない。トリガーを引くと火がほとばしるだけだ。これに対し、欧米の映画、いわゆる洋画は、実銃ベースのプロップガンなのでオートマチックは排莢するものが多かった。日本の映画界にも欧米と同じように何とか排莢させたいと考えた映画製作者もいて、それを実現させる試みもあった。当時MGCで設計開発を担当していた小林太三氏は、タニオアクションでの排莢と電着で発火を組み合わせたP.08 Lange(ルガーP08アーティラリー)をワンオフで制作、石原裕次郎主演の映画『太陽への脱出』(1963)でこれが使用されている。まだルガーのモデルガンなど存在しなかった時代だ。トリガーを引く指の動きでトグルを動かして排莢させるもので、トリガーを引くと電着で発火、そのままトリガーを引き続けると排莢する。当時の映像を観ると、トグルの動きは遅く、ちょっとモッサリした印象だが、当時これに挑戦した意気込みは高く評価されるべきだろう。
 しかし、そういった例はごく一部で、発砲シーンは電着、操作シーンだけはモデルガンという場合がほとんどだった。当時の日本映画やテレビドラマでは銃を大きくアップで映す場合が多々あり(洋画にはそういうシーンは稀だ)、そうするとそれがモデルガンであることがモロバレであったが、それを気にする映画製作者は少なかったようだ。

 

 

カナダのプロップハウスで取材したIWI TAVORのプロップガン。映画用にかなり大げさなファイアボールが発生させている。ファイアボールの大きさは使用するブランクカートリッジを換えることで大きく見せることも、もっと小さくすることも可能だ

 

モデルガンのブローバック化

 

 1960年代のオートマチックハンドガンタイプのモデルガンは、ブローバックせず、一発毎にスライドを手で引いて排莢する。ごく一部の機種でブローバックが可能となったのは60年代後半のことだ。但し、それはかなり多くの量の雷管を爆発させてスライドを動かす後撃針ブローバックと呼ばれるもので、とても一般的ではなかった。おそらく映画でも使われたことはないと思う。
 60年代末期になってやっと少量の雷管で作動するサブマシンガンタイプのブローバックモデルが登場、いくつかの映画やテレビドラマで使用された。しかし、ハンドガンのブローバックが一般市場で販売されたのは1971年のことだ。しかし、これも映画には不向きだった。作動の安定性に欠けるのと、マズルフラッシュがほとんどないため、従来の電着のような見た目の迫力が生み出せない。とくに作動に安定性がないことは問題で、銃が不発だったり、ジャムったりすれば、当然NGで撮影をやり直さなければならない。製作予算や製作時間が限られている日本映画の場合、これはできるだけ避けなければならなかった。だから依然として電着が主流であり続けた。

 

銃刀法の規制強化とモデルガンの映画撮影

 

 そんな中、1971(昭和46)年に銃刀法の規制が強化され、その一環として金属製のハンドガンタイプのモデルガンは、模造拳銃と指定されてしまい、その所持が禁止された。但し、銃腔を閉塞し、表面を白、または黄色に塗装すれば所持ができる。もちろんこれでは映画には使えない。そして既存に所持しているモデルガンも、この改造を施さなければ所持を継続できず、そのまま持ち続けると不法所持になってしまう。一般的に銃の所持が厳しく規制されている国でも、映画撮影用の銃は適用外とされ、実銃ベースのプロップガンが使える場合が多いのだが、日本はそんな特例はなく、モデルガンといえども許されなかった。これにより、この法律が施行された1971年10月20日以降は、ハンドガンタイプのモデルガンを映画撮影でも使用できなくなり、映画は電着オンリーとなった。

 

ABS製モデルガンの登場

 

 モデルガンが映画製作の現場に戻ってきたのは、1972年後半にABS製のモデルガンが市販された以降だ。モデルガンの主要部品の材質が金属から樹脂に変わり、黒くて銃口の開いたモデルガンが戻ってきた。まさにその時期に製作されたテレビドラマに実写版『ワイルド7』(1972-1973)がある。この『ワイルド7』はMGCが製作に協力、劇中にMGCトンプソンとステンMkⅢのフルオートブローバックシーンがふんだんに盛り込まれていた。銃自体は市販のモデルガンそのままで、飛び出すカートリッジと雷管が発する煙で射撃シーンが構成されている。これは30分番組だったが、一回の話の中でかなりの数を撃っていたので、おそらく撮影現場は、スタッフが雷管をカートリッジにセットする作業に追われていたはずだ。当時はキャップ火薬など存在しないので紙火薬が使われた。おそらく通常の紙火薬ではなく、大粒の“スタ管”と呼ばれる競技のスターターピストル用雷管を用いていたと思われる。それでも多数のサブマシンガンをフルオートで撃ちまくるシーンの撮影は大変だっただろう。ワイルド7は基本7人でトンプソンを装備、敵として登場した“ブラックスパイダー”という組織の構成員は基本的にそれを上回る人数でステンを装備して登場し、お互いにフルオートで撃つ。実際にはけっこう不発やジャムも多く、出演俳優の皆さんは素早くボルトを操作してクリアしていた。中には調子の悪いステンを手にしたブラックスパイダーの構成員は、1発撃つたびにボルトを引いてジャムをクリアしている可哀そうなシーンもあった。また市販のモデルガンそのものが使われたので、銃口の前から撮影したシーンでは銃身内のインサートがモロ見えだったことも覚えている。

 

「S&Wハイウェイパトロールマン」ばかりの時代

 

 MGCがABSのモデルガン、S&Wハイウェイパトロールマン(ハイパト)を発売した1972年末から数年の間、日本の映画、テレビドラマに出てくる銃が片っ端からハイパトになった。モデルガンの機能のまま雷管で発火させる場合と、電着を組み込んで発火させる場合とがあった。ハイパトはNフレームの大型リボルバーで、とても日本の刑事が使うような代物ではないが、スイングアウトしたりハンマーをコックできる銃はこれしか選択肢がないのだから仕方がない。当時高い視聴率を稼いでいたテレビドラマ『太陽にほえろ』(1972-1986)でも、ハイパト登場以降、刑事の銃は一時期ハイパトばかりになったが、それでは芸が無さすぎると思ったのか、短銃身化モデルやエジェクターロッドシュラウドを取っ払ったモデル、さらには.22口径ミリタリー&ポリスと称するロングバレルモデルなどがいろいろ作られ、劇中で使用された。これらを製作したのは、“東京メイクガン”というカスタムハウスだったといわれている。この後、市販のモデルガンをベースとしたカスタムガンが、日本の映画、テレビドラマに登場する機会が少しずつ増えてきた。

 

SIG SAUER P320 XFIVE LEGION(実銃)の実射シーン。このように実際に屋外で撃った場合、ファイアボールはほとんど見えない場合が多い

 

リボルバー全盛期

 

 70年代から80年代にかけてはリボルバー全盛期あった。その時代を代表するドラマは『西部警察』(1979-1984)だろう。派手な銃撃戦とカーアクションが売りの番組なので、とにかく撃ちまくる。リボルバーを使ってあの撃ち方をしていれば、なんどもリロードする必要があるはずだが、そんなことはお構いなしだった。使われたのはモデルガンベースの電着銃で、当時も今も電着銃は4連発だ(一部で3連発もある)。したがってワンカットの中で連射しているのは4発までで、あとは編集で繋いでいた。このドラマの中でもっとも注目されたのは、ピストルグリップ仕様のレミントン モデル31だ。電着と併用で赤いショットシェルを排莢させ、パワフルさを演出していた。ポンプアクションなのでジャムもなく、都合が良かったのだろう。

 

プロップガンのリアル化

 

 70年代の終わり頃にはモデルガンのブローバックモデルもかなり一般的になってきたが、映画やテレビドラマではごく一部を除いて、ほとんどブローバックさせる演出は行なわれていない。しかし、80年代に入り、CP等の新しい閉鎖系カートリッジが生まれると、電着を用いずに大きなマズルフラッシュを生み出す仕掛けが考案され、同時にモデルガンの作動安定性が高まった結果、映画やドラマの中でもオートマチックハンドガンが排莢するシーンが多く見られるようになった。しかし、80年代中頃以降、トイガンの主流はエアガンとなり、モデルガンの新作はわずかになってしまった。そんな時期に製作されたのは、東映Vシネマの第1弾『クライムハンター 怒りの銃弾』(1989)だ。米軍がベレッタ92FをM9として採用された結果、92Fを使うヒーローがアメリカ映画や香港映画に登場したことに強く影響されたのだろう。当時まだ92Fのモデルガンはなかったが、92SBをベースにしたカスタムが登場、リアルなマズルフラッシュとブローバック+排莢の組み合わせは、日本のプロップガンも遂にここまで来たかと思えるほどの完成度になっている。
 またこの頃になると、プロップガンにもリアルな演出が求められるようになり、警察官の銃としてニューナンブのプロップガンが作られたり、その他にも設定に合わせた銃が用意されるようになってきた。さらには装弾数にもリアルな数でなければならないとされるようになった。

 

タナカ製SIG SAUER P228ベースのプロップガン。特殊な仕掛けを施したカートリッジで派手なマズルフラッシュを作り出している。映画やテレビドラマの場合、どうしても派手な演出が求められるからだ。かつて日本のプロップガンが作り出すマズルフラッシュは赤いものが多かったが、現在は白色系、黄色系などが選択できる。マズルフラッシュも排莢も、現在ではCGで作り出せるので、外観だけのプロップガンでも撮影は可能だ。しかし、銃声と派手なマズルフラッシュが出るプロップガンを使った方が演じる俳優も緊張感を保てるだろう

 

現代のプロップガン

 それからすでに30年以上が経過している。今ではCGにより、マズルフラッシュや排莢も後加工で作り出すことは可能となっている。それでも撮影現場で実際に発火し排莢させている場合は多い。おそらくその方が俳優もより良い演技ができるのだろう。
 日本で映画やテレビドラマ等のガンエフェクトを担当するプロフェッショナル達は、市販のモデルガンやエアガンをベースに様々な改良を加えたプロップガンを用意し、撮影現場を支え続けてきた。映画やドラマの中で銃が映るのはわずかな時間でしかないが、彼らはその一瞬に持てる力をすべて注いているのだ。

 



 「月刊ガンプロフェッショナルズ2020年12月号」では、“日本のプロップガン”と題し、日本映画やテレビドラマ使われている現代のプロップガンの一部について、さらに詳しくご紹介している。ご興味をお持ちの方はぜひご覧いただきたい。

 

Text:Satoshi Matsuo
Photos:Yasunari Akita

 

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