2023/05/26
【実銃】伝説と呼ばれたリボルバーガンスミス “ロン・パワー”【前編】
POWER CUSTOM
GRAND MASTERS
70年代から80年代の中頃まで、リボルバーへの注目度は非常に高かった。アメリカのポリスオフィサーの多くがリボルバーを装備し、PPCマッチやビアンキカップには様々なカスタムリボルバーが登場。リボルバーのガンスミスも多く、それぞれ独自のデザインを競っていた。そんなガンスミスの中でも、レジェンド(偉大な功績をあげた人物)と呼ばれたのが、ロン・パワー氏だ。
彼の作った“Grand Master”モデルは、当時最高のカスタムリボルバーだったと言える。
カスタムリボルバーのキャデラック
なんだか気恥ずかしいような見出しだが、私を含めて“いい歳のアメリカン”にとって、優れた機械といえば、ロールスロイスでもメルセデスでもなく、それはCadillac(キャデラック)なのだから、ここはもうお許しいただきたい。1978年式 Coupe de Villes(クーペ・デ・ヴィル)はもう、本当に素晴らしい車であったと思う。
で、私にとっての“ザ・ベスト”リボルバーガンスミスといえば、もはやRon Power(ロン・パワー)氏しかいない。だからThe Cadillac of Custom Revolversといえば、それはもうパワーカスタムなのだ。
はじめて彼の代表作“グランドマスター”に出会ったのは、1980年代後半のことだった。オーダー待ちをしていた友人から、グランドマスターができ上がってきたが、自分は子供が生まれたばかりで余裕がないので買ってくれないかという、願ってもないオファーが入ってきたのだ。
当時PPC競技にハマっていた私にとって、パワーカスタムは夢のリボルバーで、結構な値段もするので縁がないと思い込んでいたのだ。ベースガンであるS&W モデル681の費用は友人が負担してくれるというので、もう何はともあれ現金をかき集めて手に入れることにした。確か1,200ドルほど払った記憶がある。ローカルのガンスミスに頼むと、ブルバレル交換、リブサイト、チューンナップで800ドルほどというのが相場だったので、約1.5倍の価格ということになる。それでも現物が届いた際の感動は、今もよ~く覚えている。
まずトリガープルがウルトラシルキースムーズなのだ。特に驚いたのは、シリンダーの回転がまるで独楽が回るように滑らかだったことだ。リボルバーシューターは、6発の実弾を装填してシリンダーを閉じると、ハンマーの後ろに親指を当てながら、トリガーをほんの数mm引いてシリンダーのロックを解除し、指でシリンダーがスムーズに回転するかチェックをする。これはパウダーの燃えカスや鉛カスがスター(カートリッジのリムを支えて、エジェクトする星形パーツ)とシリンダーの間に入ってしまい、スムーズにシリンダーが回転するのを妨げることが意外と多いからなのだ。シリンダーが滑らかに回転しないとトリガープルは重くなったり、引けなくなってしまうこともある。
そしてまた、このグランドマスターのアキュラシーたるや、50ヤードで2インチは当たり前、弾によっては1.5インチに集弾してしまう。当時の私はBill Davis(ビル・デイヴィス)氏というこれまた西海岸では有名なガンスミスのS&W モデル65カスタムを使用しており、かなり気に入っていたが、パワーカスタムを撃ってしまうとまるで自分が上手くなってしまったような気がしたものだった。
この最初の1挺は、“Grand Master Deluxe(グランドマスター デラックス)”というモデルで、当時やっと注目を集めていたコンペンセイターを備えており、これの効き目はともかく、カッコ良かった。このグランドマスター デラックスを手に入れたことがきっかけとなり、ビアンキカップへの出場もとんとん拍子に決まってしまった。このガンでは鉛弾頭しか撃たなかったので、バレルは驚くほどの長寿命を全うした。このガンでビアンキカップに都合3回出場し、発射弾数は8万発を超えてしまったのだ。
さすがに3回目のビアンキカップを終えると、そのアキュラシーは低下し始め、25ヤードで2.5インチ程度、さらにはフライヤーという、思いがけないところに着弾してしまうという症状が出始めたのだ。
ここでまた、スーパーラッキーなハプニングがあった。ビアンキカップの後、会場からそれほど遠くないミズーリ州の片田舎にあるパワーさんのお宅/ショップに遊びに来ないか、という話が舞い込んできたのだ。
あのパワーさんに会える! レジェンドから直接リボルバーの話を聞けるのだから、こんな嬉しいことはないではないか。わくわくドキドキの訪問となったのはいうまでもない。
Text:Hiro Soga
この記事は月刊ガンプロフェッショナルズ2019年8月号に掲載されたものです。
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