2023/03/25
【実銃】マニュアルセーフティ付きのグロック「GLOCK AMS」
GLOCK AMS
グロックと言えば、今では説明の必要がないほど知名度がある拳銃メーカーだ。米国では警察機関の約2/3がグロックを使用しているほど、プロから絶大な信頼を得ている。その最大の特徴はセミオートマチックピストルなのにマニュアルセーフティ(以下MS)がない点だ。今では当たり前となった感があるが、1983年当時は革命的だった。だがそんなグロックにも例外がある。それがAMS(Ambidextrous Manual Safety)モデルだ。今回はこのモデルの実銃レポートを公開しよう。
U.S.Army MHS
MHS(Modular Handgun System)とは、米陸軍/空軍がM9ピストルの後継機種として2015年から2017年までに行なった選定プログラムである。結果はSIG SAUERのP320が勝利したが、その選考にはグロックも参加していた。米陸軍制式採用拳銃となれば、ビジネス上大きな成功となるのは言うまでもないが、今後数十年間におけるコンバットピストルのデファクトスタンダードの称号を得ることができるからだ。グロックは19Xにアンビマニュアルセーフティ(以下AMS)を追加したモデルを提出したのだ。なぜかと言うと、MHSのRFI(Request For Information:情報提供依頼書)に、以下の条文があったからである。
「両側から操作できる(アンビ)サムセーフティがあること」
この一文が条件である以上、何らかの改造を加えなければグロックはスタートラインにも立てなかった。そこで早急にAMSが加えられたという背景があった。無理やり後付けした感がないわけではないが、米陸軍MHSトライアルへ提出するわけなので、いい加減なものであるはずがない。長年検証してみたかったのだが、何しろ民間市場に出回ってないし、MHSトライアルには勝利できなかったので、その生産数も少ない。よって今まで撃つ機会に恵まれなかったのだが、今回仕事上の理由で筆者は実射する機会に恵まれた。よって筆者の提供する写真が鮮明でないことをあらかじめお断りしておきたい。
AMSの構造
まず確認したのは、AMSの構造に関してだ。どのようなシステムで従来のグロックにAMSを追加したのかを確認したかった。事情により名前は伏せるが、SME(Subject Matter Expert:専門家)の指導のもと、AMSの分解・結合を行なった。その結果、以下の事実がわかった。
グロックの3つの安全機構のうちの一つにトリガーセーフティがある。AMSはこのトリガーバーに噛んで、発射を不可能にする構造だった。予想はしていたが非常にシンプルである。というのもグロックの構造自体がシンプルなのである。部品点数も他社の拳銃と比較して圧倒的に少ない(34個のみ)。分解結合のやり方だが、実際にやってみて1回ですぐに覚えた。筆者はグロックアーマラー・コース(※)の卒業者なので、非常に簡単だった。
※グロックはグロックのアーマラートレーニング(分解・結合を含めた総合メンテナンス)をユーザーに提供している。通常は部隊の銃器整備・武器庫管理を担当するアーマラーがコースを受講するが、一般人ユーザーも受講することができる。オンラインでの講習も行なっている。
次に確認したのが、「MSがセーフの位置で、スライドが引けるか否か」だ。これは非常に重要で、1911ガバメントやAK-47のように基本設計が古い銃はこれができない。MHSトライアルに提出したことからおそらく可能だとは予想していたが、その通りだった。結果は写真にある通り、AMSがONのままでもスライドは引けた。ただグロックがストライカー発射方式を取っている構造上、スライドを引いて後方にロックしたスライドオープンの状態でAMSをオフにすると、再びスライドを前方にリリースするまで再度オンにはできない。ユーザーはこの点に注意して使用してもらいたい。
その次に確認したのが、特別なホルスターの必要性だ。AMSがあることで通常のグロック用ホルスターが使えなくなると非常に不便だし、AMS専用ホルスターを購入しなければならなくなるとコスト的にもよろしくない。それをテストした結果だが、通常のグロック用ホルスターが普通に使えた。理由はこれもまたシンプルで、グロックのAMSがロープロファイルだからだ。ただ素手での操作は問題なく行なえるが、グローブを装着した手だと操作が困難になるのは間違いない。よってグローブを装着してグロックを撃つのがSOP(Standard Operational Procedure:通常作戦行動基準)である部隊は、親指の部分を切り落とすなど、何らかの処置が必要となってくるだろう。
AMSはその名の通りアンビだが、右利き射手用に左側(右手親指)だけにMSを取り付けること(もしくはその逆)も可能だ。AMSはどのグロックのモデルにも追加可能だが、スリムライン(G42、G43 / 43X、G48)とG18には、MSが構造的に付けられない。
月刊アームズマガジン2023年3月号にはGLOCK AMSの実射レポートも掲載している。気になった方はそちらを確認していただければ幸いだ。
TEXT:飯柴智亮
PHOTO:GLOCK、飯柴智亮
この記事は月刊アームズマガジン2023年3月号に掲載されたものです。
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