実銃

2023/06/16

【実銃】1970~80年代に流行したPCC競技用カスタムリボルバー「スモルト」の魅力【前編】

 

SMOLT REVOLVER

 

 

 1970年代から80年代にかけて、当時精度に優れるとされたコルトパイソンのバレルを、優れたアクションを持つS&Wモデル19のフレームにねじ込んだPPC競技用カスタムリボルバーがあった。“スモルト”あるいは“スマイソン”として知られているこの銃は、ベンチレーテッドリブとバレルのアンダーラグを持つパイソンバレルが意外にもモデル19のフレームとデザイン的にマッチし、機能、外観共にすごく魅力的だったが、1980年にS&W モデル586が登場して以来徐々に姿を消していった。

 ここではそのスモルトにスポットを当ててみたい。

 

PPC競技

 

バレルのブルーが美しい。フレームは1969年製なので、当時のS&Wらしさに満ちた綺麗な仕上がりになっている

 

 Smith & Wesson モデル19のバレルを外し、コルトパイソンのバレルをそれにねじ込むことから、そのリボルバーは“スモルト”(Smolt)と呼ばれた。日本では語呂の良さからか“スマイソン”(Smython)として呼ばれているようだが、米国ではそのような呼称で呼ばれることは少なく、ほとんどの人はスモルトの名前を使用する。

 

 そもそもスミス&ウエッソンのメーカー名とパイソンという製品名を組み合わせるのはおかしく、メーカー名同士の組み合わせで呼ぶ方が本来のあるべき姿だ。そのため今回の記事は米国で主流の呼称である“スモルト”としてご紹介する。

 

コルト製バレルとS&Wフレームが美しく、そしてピタリとマッチしている。凛々しい

 

 名称はともかく、どうしてこのようなハイブリットカスタムが生まれたのだろうか。
 実はこのコンバージョン、1970年代後半の頃から盛んになった“PPC”と呼ばれる競技射撃用に考え出されたカスタマイズだったのだ。PPCという名称がまた少々ややこしい。

 

 我々が参加していた1980年代半ばには“Police Pistol Combat”、もしくは“Practical Police Course”の略だとされていたが、近頃では“Precision Pistol Competition”の略だといわれている。競技そのものは今も一部のポリスオフィサー向けに全米大会が催されるなど、綿々と続いているが、IDPAなど様々な競技がポピュラーになった今、一般的には“古き良き時代の精密射撃競技”として認識されているといえよう。

 

1969年製なので、ピンドバレル(バレルピン付き)、リセスドシリンダー(カートリッジのヘッド部分までシリンダーのリムがカバーしている)仕様だ

 

 競技としては、当時ポリスのデューティガンとしてポピュラーだったリボルバーを使用し、6発を1クールとして定められた距離(3、7、15、25、50ヤード(1ヤードは、約0.91m))から指定されたスタンス(スタンディング、ニーリング、シッティング&プローン)で、シルエットターゲットのXリングをタイムリミット内に撃つという、アキュラシー優先のコースを組んでいる。

 

 元々はポリスのトレーニング用に考案されたリボルバー用コースなので、ブルズアイ競技における緻密な精度と、バリケード射撃やセカンダリーハンドからの撃発など、コンバットシューティングの要素を取り入れだ1970年当時としては少し先を行く競技だったのだ。

 

これはオリジナルのストック(グリップ)を手にフィットするよう削り直し、ハンドチェッカーを入れてもらったものだ。握り心地は最高


 以下に、“Distinguish Revolver(ディスティングイッシュ リボルバー)”クラスの60発コースを紹介する。他にオープンクラスの150発コースというのもある。

 

  • ステージ1
    7ヤード スタンディング12発、ダブルアクション(特に指定されていないが皆DAで撃つ)
    タイムリミット20秒

 

  • ステージ2
    25ヤード ニーリング6発、バリケードの左から6発、バリケードの右から6発、計18発、ダブルアクションオンリー(DAで撃たなければならない)
    タイムリミット90秒

 

  • ステージ3
    50ヤード シッティング6発、プローン6発、バリケードの左から6発、バリケードの右から6発、計24発、シングル or ダブルアクション
    タイムリミット2分45秒

 

  • ステージ4
    25ヤード スタンディング6発、シングル or ダブルアクション
    タイムリミット12秒


 シューターは、両手を下ろした状態でスタンバイし、ブザーと共にホルスターからドロウして撃つ。なにせ50ヤードから24発を10点圏内(4インチ×6インチ/約10cm×15cm)に入れる必要があるので、かなり精度の高いガンが必要になってくる。どう考えても、ストックのままのグロックでは、全弾をターゲット内に入れるのさえ難しそうだ。

 

PYTHONのロゴが輝くバレル。ヨーク部分にはボールベアリングロックが組み込んである


 しかし、現行のIDPA競技などに比べると、そのスピードはのんびりしたものだ。

 私がこのPPC競技に入れ込んでいた1987年頃になると、参加者の使用銃はバラエティに富んでいたといえよう。そろそろ精度の高いブルバレルにカスタムされたS&Wが一般的になってきていたし、チューンした1911を引っさげて来る人もちらほらと見かけるようになっていた。しかし、やはり大部分のシューターは、S&WのKフレームかLフレームを持ち込んでいた。


 たまにモデル27などのNフレームや、コルトパイソンといった高級リボルバーを撃っている人を見かけると、つい羨ましげに見てしまうという状況だったのだ。しかし、このスモルトカスタムが登場したのは、それより約10年以上前、1970年代のことであった。

 

特徴的なワイドハンマー。シリンダーリリースはストック(標準)のままだ

 

 PPCトップシューターの中には、スペシャルオーダーのカスタムバレルを備えたガンを使っている人もいたが、まだ純然としたポリスリボルバー、モデル15やモデル19,モデル66などがメインに使われていた頃だ。シューターの中には、当時からその精度に定評があったコルトパイソンを使う人もいたが、パイソンのトリガーアクションはスムーズとはいえ、そのファイナルステージ(ハンマーが落ちる瞬間)がつかみにくく、チューンナップするのも難しいと評価されていた。その点、S&WのKフレームはアクションのカスタマイズがしやすく、PPCでは重要視される“トリガーコントロール”上は有利とされていた。

 

トリガーはワイドトリガーがそのまま装着されている

 

 そこで生まれたのがスモルトだ。最初にこのコンバージョンを考えたのが誰かは、諸説があって定かではないが、精度が高く、アンダーラグによる重量増加でリコイル緩和が期待できるパイソンのバレルを、カスタムチューンしやすいS&W Kフレームに移植してしまったのだ。

 

 確かに、パイソンのバレルはライフリングのツイストレートが少々ではあるがS&Wよりも高く、弾頭により強い回転を与えられるといわれている。また、PPCで使われるアモは、148gr.のワッドカッターと呼ばれる円柱型をした鉛ブレットで、パイソンバレルのほうがこのブレットとより相性がいい、などという話も聞く。

 

続きはこちら

 

Photo&Text:Hiro Soga

 

 この記事は月刊ガンプロフェッショナルズ2019年11月号に掲載されたものです。

 

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