実銃

2023/05/12

【実銃】三八式騎兵銃をスカウトライフルに変身させる【前編】

 

 

Arisaka Type 38
ScoutRifle

 

 約40年間ショップの片隅で埃をかぶっていた旧日本軍三八式に命を吹きこみ、ハンティングライフルとして現役復帰させる…そんな気分で始めたのが今回のプロジェクトだ。セミオートで撃ちまくるのではなく、一発入魂のボルトアクションで勝負する。ベースとなるのは三八式騎兵銃…、「そんな名前の銃は聞いたことがない!」という声が聞こえてきそうだが、昭和15年頃に作られた旧日本軍の改造ライフルだ。これにちょっと手を加えるだけで、アグレッシブなスカウトライフルに変身する。

 

はじめに


 圧倒的なファイヤーパワーを持つ現代のライフルを使うハンティングもありだが、これも飽きが来る。ボルトアクションライフルを使うのも渋くて良いだろう。

 

 昨今、米国では野豚ハンティングが盛んだが、ほとんどは夜間出没ということもあり最新セミオートモデルに何らかのナイトビジョンスコープ組み合わせ使うケースが多くなってきた。“動きの早い獲物にボルトアクションはないだろう?”という意見が仲間から飛んだ。

 

 確かにそうかもしれないが…渋さの問題だ。AR系やSCARの圧倒的なファイヤーパワーで獲物を倒すのも一つの方法だが、発射速度で遥かに劣るボルトアクションライフルを使うのも違った面白さがある。獲物は発砲してこないのでオーバーキルともいえる強力なファイヤーパワーは必要ない。

 

三八式騎兵銃改にTasco 2-8×32ロングアイリリーフスコープとVector 1×20×28を装着

 

 確かに姿格好と裏腹に野豚の動きは速い。こんな獲物を発射速度で遥かに劣るボルトアクションライフルでとなると、どう考えて物好きとしか映らないだろう。


 ハンター、シューターの嗜好も千差万別だ。フリントロックのマズルローダーライフルを使った競技、ディアハンティングも存在する。なんでそんな苦労しなければならんのか? 筆者も過去、マズルローダーフリントロックライフル/アイアンサイトで鹿猟をしたことがある。射程距離まで近づけなかったり、不発で獲物に逃げられたこともあった。


 過去、三八式歩兵銃のアクションをベースに自分用のライフルメタリックシルエット競技用のライフルを作っている。カスタムバレルをフィッティング、使用目的から口径は7mm-308とし、かつカスタムトリガーと交換したりだったのでオリジナルとは程遠いものだった。最近では九九式をコンベンショナルスコープ搭載に改造、グルーピングテストしたこともある。

 

クリップロード機能を残したままレシーバー上面にスコープを載せるには、ロングアイリリーフスコープを選択するしかない。これはTasco Pro Shopの7×32

 

 これまで三八式は強度、グルーピング共に高評価されているが九九式となるとその逆だ。九九式のアキュラシーに関するテスト資料は見たことがなく、自分でテストしてみるしかなかった。九九式小銃にスコープを搭載しグルーピングテストしたところ、欧米の歩兵銃に優るとも劣らないことを確認した。但し、旧軍オリジナルアモでテストしたわけではないので完璧からは程遠く、ましてや1挺じゃ参考程度にもならないかもしれない。

 

 テスト銃は、たまたま手元にあったボアが錆ついた九九式だった。腐っても戦前製の九九式、錆びはあっても製造においてショートカットなしの個体であり戦中、末期の戦時モデルとは加工を含め違いがあったことは確かであろう。5挺ぐらいまとめてテストできたのであればかなり正確なアキュラシーレベルを知ることが可能だったはずである。九九式のアキュラシーは良くないという評価は単に末期モデルの粗雑なつくりからきた先入観ではなかったかと思う。

 

三八式騎銃(右)と並んだ三八式騎兵銃改


 これまでの三八式、九九式を改造したスコープ搭載モデルはいずれもストレートのボルトハンドルを加熱して曲げたり、または切断、新たにハンドルを溶接したものだった。これは通常のスコープをアクション中央部真上に装着するとストレートのボルトハンドルじゃ操作性に問題が起こるからだ。真上に搭載しての短所はミリタリーボルトアクションライフルの魅力の一つであるクリップチャージャーによるカートリッジの装填が不可能となることだ。この機能を残し、スコープ装着となるとロングアイリリーフをもったスカウトスコープ、ピストルスコープの選択となる。

 

 但し、このクラスのスコープとなるとスペックからくる選択肢が通常スコープと比較して極めて狭くなる。需要が少ないので光学メーカーの開発本気度もイマイチだ。売れる/儲かるとなればメーカーも凌ぎを削って開発するのだが、ロングアイリリーフスコープとなると辛うじて一部の光学メーカーが義理で加えている類でしかないと言ったら言い過ぎか?
 

 

今回改造の三八式のバックグラウンド


 埃をかぶっていた三八式は1980年代初め、テストの目的で二束三文で購入したモデルだった。ストックの傷みが激しく、かつボアは錆び付き、菊の御紋は削り取られた代物で、少なくともこの時点ではコレクションとは程遠いものだった。ところが今じゃこれでも立派なコレクションだ。

 

 超古い読者ならご記憶かもしれないが、旧国際出版発行の「別冊Gunパート2」(昭和57年1月発刊:なんと39年前だ!)の中で、第二次大戦列強国制式ボルトアクション歩兵銃のホットロードによるアクションの耐圧耐久テスト、そして水槽に沈めての水中発射テストをリポートした事があった。その時、使ったのがこの三八式だった。実はこの三八式は25"バレルを持った数少ない三八式騎兵小銃だった。

 

 三八式の騎兵銃といえば、三八式騎銃19"バレル付きを指すが、これより幾分長い25"としたのが騎兵小銃だった。コンデションが悪かったこともあり、これが三八式の何であるか?について、入手した当時は恥ずかしながら注意しなかった。テスト後、しばらくしてから、これが騎兵小銃だと知った次第だ。ホビージャパンが2015年8月に発行した「三八式歩兵銃と日本陸軍」38ページの記述によれば騎兵小銃は非制式のモデルだったということだ。同書には三八式騎兵銃の写真が掲載されている。また同じくホビージャパンが2013年8月に発行した「帝国陸海軍 小銃 拳銃画報」の85ページに三八式短小銃(非制式)として別の個体が掲載されている。

 

ジェフ・クーパーが提唱したスカウトライフルの定義は、ボルトアクション、.308Win、全長1m以下、重量3kg以下、銃身長19"以下、2MOAの精度、ロングアイリリーフスコープ付き。この三八式騎兵小銃改は、ちょっと大きく重いが、かなり近いものがある

 

 バレルの長さを三八式歩兵銃の31"から25"としたもので、19"の三八式騎銃ほどではないが、操作性が飛躍的に向上している。率直に言わしてもらえば、バレル短縮による初速の低下も19"の騎銃ほどではなく、当時の列強国基幹歩兵銃バレル長24-25"とほぼ同じものだった。これが作られたのは、九九式短小銃が採用されたことに合わせ、既存の三八式を名古屋陸軍造兵廠千種製造所で改造、バレルの長さに合わせてみたに過ぎない。当時としては九九式短小銃の製造を優先するという判断でこれは制式化されず、小数が改造されただけで終了した。個体数は少なく、コレクターにとっちゃ大歓迎だ。米国のコレクターはこれを“Type 38 Short Rifle”と呼んでいる。


 今回、この三八式騎兵小銃のバレルを25"から22.5"に短縮、リクラウンした理由は40年前に停弾テスト(マズルから6.5mm弾を押し込んで銃口近くで止め、この状態で次弾を発射)をしてマズル部を損傷させたからだ(マズル部分がささくれた)。元々マズル部の錆がひどく、テストでの損傷があろうがなかろうが、銃を再生するとなれば切断せざるを得なかっただろう。

 

ストック先端部が割れていた

 

 旋盤でマズルをリクラウン(ラウンド形状)し体裁を整えた。フロントサイトが見つからず一時、新たに作ることも考えたが、手持ちの三八式ソックリの九九式フロントサイトが余っていたのでこれを取り付けた。バレルに差し込む部分はバレルの外面加工で合わせられるので問題はなかったのだが、九九式の銃腔中心線からのサイトトップまでの距離というか寸法が三八式のそれより幾分高いため、例えばリアサイトを戦闘照準(100-300)でまともに狙って撃てばインパクトは下目となるはず。理屈から言えば照尺を使う際、Recalibrate(再測定または較正)が必要だ。

 

 いずれにせよリロード弾そのものが旧軍のスペックよりかなりホットなので、バリスティックの違いからみてもリアサイト(梯子)再測定は必要だ。

 

 若い眼ならアイアンサイトもありだが、一般論としてスコープやドットサイト射撃のほうが遥かに照準が楽で正確になる。そのためリアサイトが外され、ピカティニーレイルに置き換えられ今、フロントサイトの高さなどどうでもいい…役立たずの単なる格好付けに過ぎない。

 

オリジナルストックを63.5mm切断、その分、バヨネット取り付け金具を後退させた

 

 初期の段階ではバレルを短縮し、かつストックの先端を丸め、スポーターストックにしようと思ったのだが、もともと軍用歩兵銃、ストックがオリジナルならバヨネット装着はあって当然だ。ここで新たに22.5"バレル付きの三八式小銃を作るのも面白い。

 

 名前は三八式短小銃、または騎兵銃改ではどうだろうか?ところが、記事のタイトルは、松尾副編集長の判断で、“Arisaka Type 38改Scout Rifle”となった。最終形態が1980年代にJeff Cooper(ジェフ・クーパー)大佐が提唱したスカウトライフルに近くなったからだ。また今月号の表紙に名前を載せた時、“三八式騎兵小銃”って書くと、なんか誤植と勘違いされる恐れもある。
 ここは米国、バヨネットラグ(銃剣止め)があってお咎めをうけない。日本ではバヨネットラグ付きの銃はボルトアクションライフルであっても、ショットガンであっても軍用銃とみなされ所持許可がおりないという。米国から見たら不可解な話だ。
 これも独立したピストルグリップはダメと同じレベルの話なのだろう。別に特別な意味はなく、なんとなく決めた規則ということか? 独立したグリップが付いただけで、銃の威力が倍増したり、危険度が上がるわけではないのだが…。

 

 

 何はともあれ、貴重な三八式騎兵銃を壊した責任(?)もあるので、短くしても元のスタイルに復元することに決めた。仲間が言うには“素早い連射ができなけりゃ突進してくるイノシシ用にバヨネットは必要だよ。でもそんなことせず、既に持っているSCARを使えばいいじゃないか?”


 確かに…それが正しい発想かもしれない。でもそこは拘りだ。写真を見ても判るようにストックの先端が割れ、かつ一部が経年劣化していたりでバヨネット装着を考えるとなんらかの方法で内部補強が必要だった。バレルが25"から22.5"となったためバヨネット装着となるとバヨネットラグの位置を変えなければならない。というわけで2.5"ばかり後方に移動させた。

 

下のレイルは30年ぐらい前にBスクウエアが発売していたレイルだ。比較すれば判るように支点はリアサイトピンをそのまま使っていたが、下部の肉厚がなくヘタレが早かった。材質はともにアルミアーロイだ

 

 別に難しい改造ではない。ただしクラシックガンなので外から補強が見えないようにすることが重要だ。クリーニングロッド&フロントバンドロックプレートにアルミアーロイの補強材を組み合わせてストックにインサートし、アルミニウムデブコンで接着固定した。

 

 構造上、通常のクリーニングロッドが入らなくなったため、フェイクのクリーニングロッドを作った。コールドブルー仕上げとしたが、たまたま使った素材の関係からか妙なムラができ、幸運にも時代漬けした感じとなった(笑)。ストック表面の傷みが激しかったのでサンドペーパーで一皮むいた。しかしまだシミが残っている。表面はウッドワックス仕上げとした。

 

続きはこちら

 

Photo&Text:テキサス支局

 

この記事は月刊ガンプロフェッショナルズ2021年3月号に掲載されたものです。

 

※当サイトで掲示している情報、文章、及び画像等の著作権は、当社及び権利を持つ情報提供者に帰属します。無断転載・複製などは著作権法違反(複製権、公衆送信権の侵害)に当たり、法令により罰せられることがございますので、ご遠慮いただきますようお願い申し上げます。

Twitter

RELATED NEWS 関連記事

×
×