2025/09/16
昭和大好きかるた 時代を超えた普遍の良き「何か」を振り返る 第36回「や」
時代を超えた普遍の良き「何か」を振り返る
第36回
や
ヤス
令和となってはや幾年。平成生まれの人たちが社会の中枢を担い出すようになった今、「昭和」はもはや教科書の中で語られる歴史上の時代となりつつある。
でも、昭和にだってたくさんの楽しいことやワクワクさせるようなことがあった。そんな時代に生まれ育ったふたりのもの書きが、昭和100年の今、"あの頃"を懐かしむ連載。
第36回は、軍事フォトジャーナリストの菊池雅之がお送りします。
今も昔もミステリーやサスペンスは大人気。小説やドラマ、映画とジャンルを問わず、かなりの新作が続々と登場しております。
私は警察官や刑事が主人公となり犯罪者を追い詰めていくミステリー系が大好きです。
ミステリー好きのキッズを困惑(!?)させたゲーム
これは両親の影響が大きいと思います。
母親は『火曜サスペンス劇場』(*)が大好きで、幼い私も一緒によく見てました。一方、父は『刑事コロンボ』(*)シリーズが大好きで、こちらも一緒に見ていました。私がコロンボシリーズに衝撃を受けたのは、最初に犯人による犯行シーンが繰り広げられ、視聴者が犯人を知っている中、コロンボがトリックを解いていくという、これまで私が知るミステリーの流れの全く真逆の方法で物語が展開していくことでした。
*『火曜サスペンス劇場』:1981(昭和59)年から毎週火曜日21時から放送されていた一話完結のサスペンスドラマ。通称「火サス」。大林宣彦や鈴木清順といった大物映画監督を起用するなど意欲的な試みも多く、ドラマ視聴率ランキングの上位の常連でもあった。
*『刑事コロンボ』:1968(昭和43)年に米国で放送開始の刑事ものドラマ。本文でも言及されているように冒頭で提示される完全犯罪をコロンボが解き明かすという展開や、暴力シーンがほぼないなどの手法が斬新で、今も根強い人気を保つ。
名ドラマのおかげで、小学生になることには私もすっかりミステリー好きになっていました。
当時の小学生の神器「ファミコン」においても、ミステリー系のゲームが続々とリリースされていき、私は当然、それらを手に入れてあそぶようになりました。
その中に、今もカルト的な人気を誇る『ポートピア連続殺人事件』というゲームがあります。ドラゴンクエストシリーズを生み出した堀井雄二さんがプロデュースしたミステリー系ゲームです。
もともとパソコン用ソフトとして開発され、1985(昭和60)年にファミコン版が発売されました。
で、このゲームの犯人は“ヤス”(*)です。突然ネタバレしますが、“ヤス”なんです。
*”ヤス”:『ポートピア連続殺人事件』の犯人。胸に蝶の形をしたあざがある。「犯人はヤス」は、ネタバレを意味するネットミームになっているが、もともとはラジオ番組内でこのゲームをプレイしていたビートたけしが「犯人ってヤスじゃねえか?」と思わず口にしたことに端を発するとされている。
ヤスというのは、このゲームのプレイヤーをサポートする後輩刑事です。一緒に殺人事件の現場を訪れ、関係者を当たるなど、捜査をしていくのですが、その真犯人というオチです。
ゲームの詳しい内容は覚えていないけど、「犯人はヤス」というのは生涯忘れない……。そんなアラフィフの皆さんは多いのではないでしょうか。
実は私もその一人。でも、まさか仲間のヤスが犯人とは……、と衝撃を受けるほどのことはなく、割と早めにアヤシイです(笑)。ただし、当時の私は、犯人が刑事というオチにそれほど免疫はなかったことから、ワクワクしたのも事実。
話は脱線しますが、以前某県警の本部長にインタビューさせて頂いた際、最後の方で「刑事ドラマは見ますか?」と少々砕けた質問をしました。すると、本部長はニンマリと笑顔を見せ「結構好きです」と答えてくれました。
「相棒とか、科捜研の女とか見てますね。ただ、捜査を進めていくと、黒幕は我々のような警察官僚というオチが多くて、ちょっと複雑ですが……」と笑います。
「ドラマの警察官僚は、あそこまでの権力があって羨ましいですね……」と続け、聞いている私も大笑い。広報担当の警察官だけは「こんな話になって困ったなぁ……」という顔をしていましたが。

時を経ても色褪せない”ヤス”の魅力
ヤスは、ただのゲームの犯人というわけではなく、マリオやゼルダ、パックマンのような一つのキャラクターとして「犯人はヤス」という言葉と一緒に愛されていきました。
これは刑事コロンボ方式とも異なる、完全なるネタバレなのですが、誰も怒りません。
“ポートピア”から2年後の87年。続編として『北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ』が発売されます。こちらも堀井さんプロデュースです。私も購入し、楽しみました。ヤスが出ないのに「犯人はヤス」シリーズとして、前回よりも盛り上がり気味に語られていきます。
それから月日が流れ、2022(令和4)年1月の事。仕事で網走に行くことになりました。旭川から電車に乗り、網走駅に到着すると、なんと駅舎の中に“オホーツクに消ゆ”のポスターや立て看板があるではないですか⁉。馴染みのイラストと30年以上の時を経てのご対面。

これは、ゲームと網走流氷をコラボさせた観光企画でした。しかし、ただの広告とはわけが違い、私は鳥肌が立つほどの興奮を覚えました。その立て看板の写真を撮っていると、私と同い年のオジサンたちも同じようにiPhoneやカメラを向けてパシャパシャと写真を撮りまくっていました。紛れもない「犯人はヤス」世代です。
それから2年後、任天堂switch向けに、なんと“オホーツクに消ゆ”がリメイク発売されることになりました。その際、堀井さんは、発売告知をXで行い「ちなみに、犯人はヤス、ではないですよ」とポストし、大きな話題となりました。これに反応したのも間違いなくアラフィフオジサンたちです。購入層となるターゲットは明確ですね。
一回しか登場していないキャラである“ヤス”に、なぜここまでオジサンたちが心惹かれているのか分かりません。
制作者がこうしてポストしているように、公式が認める世にも珍しい公認ネタバレのヤス。そろそろ本物の「犯人はヤス」復活を期待したいところです。
作ってくれませんかね、令和版『ポートピア連続殺人事件』。
TEXT:菊池雅之
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