その他

2025/07/28

ナイフダイジェスト・アームズマガジン版 ~「ナイフ」にフォーカスして最新情報をお届け~

 

 人類最古の道具とも言われる刃物。その中でも、実用性と収集性が並び立つアイテムである「ナイフ」にフォーカスして、最新情報をお届けしよう

 

TOPIC

 

相田義人ナイフメーカー50周年記念ナイフ

 

 日本におけるカスタムナイフの黎明期から今に至るまで第一線で活躍し続けているナイフ作家、相田義人。作家としての歩みが50年を迎えたことを記念して、ひとりのコレクターがナイフをオーダーした。
 相田の数ある代表作の中のひとつ「ハンドスケルベル」をベースにしたオンリーワン。
 実用性と美しさ、伝統と革新……。完成した作品は、あらゆるジャンルの名作に共通する「相反する要素」が共存する逸品となった。
 日本のカスタムナイフ界のマイルストーンができるまでの話を、オーダー主、作家、そして間に入ったディーラーに伺った。

 

今回のモデルを制作するきっかけとなったモデル(手前)と並べた一枚。ハンドルの造形など、大幅にデザインが変わっていることがわかる。リカッソ(ブレードの根本の平面)部分の立ち上げなど時代による変化も加わって、印象が全く異なる作品となっている

 

今回新たにデザインしたオリジナルのマーク。1974年から2024年という作家としてのキャリアが刻印される

 

ポイント(切先)から見て左側のブレードには、オリジナルを反転したマークが記される。スペシャルモデルらしい遊び心が入っている
写真:マトリックス・アイダ

 

多様な知見が結集して生まれた記念碑的な作品

 

「実は相田さんの40周年記念モデルも所有しているんです。だったら50周年もあった方が絶対いい、と思ったのがそもそもの動機です。日本で50年もの長きにわたって活躍してきたナイフ作家は隈られます。だったら、いわば日本のカスタムナイフのマイルストーンになるような作品をオーダーしたいと思いました」


 そう語るオーダー主のYさんはR.W.ラブレス(故人)をはじめ数々の名作を所有するナイフコレクター。相田義人さんの作品もオーダー品を中心に多く揃える。

 

「ナイフ作家としてのクオリティが高いのはもちろんですが、常に安定しているところが特にすごいと感じています。ブレード(刃) のグラインド(研ぎ) はシャープで、ハンドル(柄)が師のラブレス氏の様に丸まっていて手に馴染む。各部分の機能性はこれ以上ないほど追求されていながら、ナイフ全体として見るとどの部分にも違和感がなく、デザインとして整っている所が特に魅力的だと感じています」


 別格の存在として敬意を寄せる作家の記念となる作品としてオーダーしたものは、代表作の一つとして知られる「ハンドスケルペル」だ。小型でフィールドで携帯しやすく、なおかつ汎用性の高いナイフとしてデザインされ、アウトドアを愛好する人々から絶賛された2インチ(約51mm)長のブレードを備えたモデルである。


「50周年のモデルとしてふさわしいと思いました。ただ、オリジナルのマークを入れたかったんです。でもオリジナルモデルだとややブレードが小さいなと考えていたら、3インチ(約76mm)の同タイプのモデルをかつてつくっていたことを教えていただいたんです」


 コンセプトが決まると、一気にイメージが湧いた。
「ハンドル材には敢えて未来志向でカーボンファイバー、フィッティングはチタンとハイテク素材にしました」
 そう語るYさんは、作家本人ともやり取りを重ねながら、ディテールを固めていった。


「オーダーをいただいた時点で、『とにかくいいものをつくろう』という気持ち

になりました」


 相田義人さんは、そう振り返る。 言うまでもなく、手がける作品に対してどれも同じ姿勢で取り組んでいることは間違いない。ただ今回は相田さんにとっても、ひときわ力の入るオーダーメイドになったようだ。


「Yさんからご希望を伺っていると、オーダーにかける熱い思いが伝わってくるんです。そうすると「これは、ご期待以上のものをつくり出さないと』とこちらも熱くなってしまう(笑)。とはいえ簡単なオーダーではありません。必死になってあれこれ考えていくうちに、ようやくイメージが湧いてきたことを覚えています」


 そう笑う相田さん。デザインを確定するまでは、ラフスケッチの段階から何度も描き直して「違和感」を排除していく。オリジナルのデザインがあるモデルでもサイズなどに変更があるならば、イチから図面を起こす。当然、今回のように素材に変化をつけた際には、すべての収まりが良くなるよう、細部のデザインにも独自のアレンジを加えていく……。
 相田さんは、師と仰ぐ「近代ナイフの父」R.W.ラブレスから学んだスタイルを、50年経った今も当たり前のように踏襲してきた。


「師はもとより、作家、ディーラー、そしてお客様。そういった方々に恵まれて、ここまで続けられたと思うんですよ」


 そう語る相田さん。オーダー品を含め、その商品を扱うナイフショップ、マトリックス・アイダの店長・相田東紀さん(相田さんの甥にあたる)は、今回もYさんからオリジナルのマークのデザインなどの相談も受けながら、プロジェクトを見守ってきた。

 

「Yさんに伺ったイメージを作家に伝えることで、直接会って相談する際のやりとりをよりスムーズにするといった、細かな部分でのお手伝いをさせていただきました。手にする作品が、Yさんにとってご満足のいけるものだったら、私も嬉しいです」


 情熱、技術、経験……。完成作には、多様な知見が結集するというオーダーメイドの醍醐味が詰まっている。


「私が所有するオリジナルのハンドスケルペルと比べると、かなりの違いが見られると思います。握り心地を筆頭に、とても良いナイフです」


 手にした感想をそう語るYさん。50周年記念モデルとして、他にも何点かオーダーしているという。

 理想的とも言えるやり取りを経て生み出された唯一無二のオーダーメイド品。それは、日本のナイフ文化の「記念碑」そのものともなった。

 

祖田義人作「ハンドスケルベル3インチ(50周年記念ナイフ)」
ブレード長:約76mm ブレード材:ATS34 ハンドル材:カーボンファイバーフィッティング材:チタン手元で細かな作業ができる汎用性の高いフィールドナイフとして、絶大な人気を誇る「ハンドスケルペル」。そのコンセプトは残しつつもブレードのラインをややゆったりとした曲線で構成することでたおやかな印象を与える逸品となった。ハンドルの握りやすさも特筆される
写真:マトリックス・アイダ

 

革製のシース(鞘)は、オリジナルのハンドスケルペルのチューブシース(筒状に成型したタイプ)ではなく、通常の貼り合わせるスタイルとなっている。表面には通常のロゴに加え、相田義人さん本人のサインも入る
写真:マトリックス・アイダ

 

相田義人さん。日本のカスタムナイフ文化を最初期から牽引してきた
写真:玉井久義(HOBBY JAPAN)

 

興味を持った方は、マトリックス・アイダに気軽に相談をしてみることをおすすめする

 

And more!!

 

相田義人さんにお伺いした「ものづくり」についてのお話はこちらでご覧いただけます。

 

マトリックス・アイダ
 東京都練馬区成増2-26-18-101
 TEL:03-3939-0052

 

 

REPORT

 

ナイフショーレポート

 2025年の上半期も数多くのナイフショーが行われてきた。どこも盛況だった。ここでは直近に開催されたふたつのリアルショーと、ホピージャパンが出展させていただいたショーをダイジェストでご紹介しよう。

 

 

2025 JCKM/JKG鐵造ナイフ部会合同カスタムナイフショー

 


 4月20日(日)、東京の銀座にある時事通信ホールで「JCKM/JKG鍛造ナイフ部会合同カスタムナイフショー」が開催された。ジャパン・ナイフ・ギルド(JKG)内に設けられた、プロの作家による「JCKM(ジャパンカスタムナイフメーカーズ)」と鉄を赤めて叩いて鍛造の技術を使う人たちによる「鍛造ナイフ部会」という二つの部会が合同で行うナイフショー。今回も各ブースに多様な作品が展示され、来場者を楽しませた。

 

左上から時計回りに以下の方々の作品です(敬称略)堀英也/武市広樹/武藤美彦/吉川英治

 

相田義人さんとJCKM部会長の堀英也さん。「出展いただく方々の作品のクオリティの高さが見どころ。お客様とも一緒になって、ここまで続けることができたと思っています」(堀さん)

 

 

 

 ショーの詳細レポートはこちらでこ覧いただけます。

 

 

T-OD GEAR SPOT

 

 

 6月21日(日)、東京の池袋にあるサンシャインシティコンファレンスルームで「T-OD GEAR SPOT」が開催された。ナイフに限らずミリタリーアイテムなどを含めた多種多様な「作家もの」が展示販売されるショーとして、毎回、多くの来場者で賑わうショー。今回も19のブースで作品が展示された。いずれも個性的なアイテムが並び、終日来場者が途切れることはなかった。

 

左上から時計回りに以下の方々の作品です(敬称略)石崎祐也/市川志郎/伊藤亮/五十嵐護(ZERO鍛冶)

 

主催の武市広樹さん。「ものづくりへの姿勢などが共感できる方々と育ててきたショーだと思っています」。紹介した作品以外にミリタリーアイテムも数多く並んだ。

 

 

 

 ショーの詳細レポートはこちらでこ覧いただけます。

 

 

東京フォールディングナイフショー

 


 世界でも珍しい「フォールディング(折りたたみ)ナイフ」に特化したショー。今年も2月15日(土)に東京駅からほど近い「日本橋プラザビル」で開催された。出展者たちの作品も提供される恒例のプレゼント抽選会もあり大いに盛り上がった。

 

 

 

 

 ショーの詳細レポートはこちらでこ覧いただけます。

 

 

オールニッポンナイフショー

 

 

 神戸で開催される「日本最大級のナイフショー」として知られる。今年は3月1日(土)に神戸市の「サンボーホール」にて開催された。恒例のプレゼント抽選会と、ナイフコンテストも開催。コンテストではホビージャパンチームも「タクティカルナイフ賞」と「ホビージャパン賞」を選考させていただいた。ちなみに2026年は3月7日(土)と8日(日)の両日、「KIITOホール」で開催されることがきまっている。

 

左から二部幸夫(タクティカルナイフ賞)、岡島健二(優秀賞)、杉原渓重(審査・可員長)、荒川知芳(最優秀1賞)、杉山義雄(ホビージャパン賞)、王涵(優秀賞) (敬称略)

 

 

 

 ショーの詳細レポートはこちらでこ覧いただけます。

 

 

INFORMATION

 

ナイフショー告知

 

 8月から開催される年内の主なナイフショーをご紹介。特に秋には全国で開催されるので、興味のある方はぜひ顔を出してみてほしい。新しい世界に出会えるだろう。いずれの情報も編集部が独自に調べたもので、すべてのショーの情報を網羅したものではありません。掲載したショーには、予定変更の可能性もあるので、参加を考えるかたは、事前に詳細のリンク先などで情報を確認してください。


●松本ナイフショウ2025

■日時2025年8月16日(土)10:00~17:00、8月17日(日)10:00~16:00
■場所:四柱神社参集殿2階大講堂(長野県松本市大手3-3-20)

■詳細:http://blog.livedoor.jp/m_knife/


● 第27回やすぎ刃物まつり

■日時:2025年10月4日(土) 10:00~16:00 ■10月5日(日)10:00~15:30

■場所:和鋼博物館(島根県安来市安来町1058)及びその周辺

■詳細:https://www.city.yasugi.shimane.jp/shigoto/shokokanko/others/hamonomatsuri/


●関刃物まつり2025

■日時:2025年10月11日(土)、10月12日(日)

■場所:刃物大廉売市=本町通り(岐阜県関市本町2丁目から8丁目まで)ほか関市内の各所

■詳細:https://seki-hamono.jp/

*刃物の町・関で開催。国内外からの来場客が数十万人単位で訪れる日本最大級の刃物の祭り。会期中は各所でショーが開催される。


●関アウトドアズナイフショー

■日時:2025年10月11日(土)10:00~17:00、10月12日(日)9:30~16:00

■場所:アピセ関(岐阜県関市平和通7丁目5-1)

■詳細:https://www.sekiknifeshow.com/
その他(予定:50音順)

・KIKU KNIVES展示販売会(https://kikuknives.jp/)

・関善光寺インビテーショナルナイフショー(https://szis.net/)

・山秀ブレードショー(https://www.yamahidel940.com/)


●第46回JKGナイフショー

■日時:2025年10月18日(土)、10月19日(日)

■場所:時事通信ホール

東京都中央区銀座5-15-8

■詳細:https://jkg.jp/


●SAKURAウェブナイフショウ
■日時:不定期

■詳細:X @NEMOTOKNIVES
*NEMOTO KNIVESがウェブ上で開催するナイフショー

 

昨年の関アウトドアズナイフショーの会場風景

 

昨年の主なショーのレポートはこちらでご覧いただけます。

 

 

ナイフコンテスト告知


 日本において、プロアマ問わず応募できるナイフコンテストとして代表的な存在が、JKGが主催する「JKGナイフコンテスト」である。ここで受賞をして、著名なナイフ作家となった方も数多い。応募の要項はリンク先をご覧いただきつつ、ナイフを製作している方はもとより、興味のある方はぜひ挑戦していただきたい。

 

●第40回JKGナイフコンテスト
応募期間:2025年9月1日(月) ~9月10日(水)必着
送付先:〒175-0094東京板橋区成増2-26-18-101
マトリックスアイダ内JKGナイフコンテスト事務局

(TEL 03-5383- l 370)
詳細:https://jkg.jp/2025/06/07 /knifecontestoubo-2025/

 

昨年のコンテストの審査風景

 

昨年の大賞受賞作「Masterpiece Far Eastern」丸山律
(写真:JKG事務局)

 

 

 

募集に関しての詳細はこちらでこ覧いただけます。

 

 

NEWS

 

書籍『刃物の街•関から世界ヘナイフ作家・松田菊男』好評発亮中


 2024年12月に、『刃物の街•関から世界ヘナイフ作家・松田菊男』という本がホビージャパンから刊行された。世界有数の人気ナイフ作家、松田菊男さんの半生記である。その波乱に満ちた足跡は、ナイフの世界のみならず、ものづくりを志すすべての人へのヒントとなる。

 刊行の連動企画として、KIKU KNIVESとホビージャンのコラボナイフ「FULL CONTACT'25」も限定販売させていただいた。予約開始直後に「完売」という予想を遥かに超える人気に、改めて「菊さん」ブランドの圧倒的な実力を実感させられた。
 KIKU KINIVESは、ショールーム(関市下有知41)のほか、全国のナイフショーにも数多く参加している。公式サイト(https://kikuknives.jp/)などで確認の上、直接手に取ってもらいたい。書籍を読むと、その作品が生まれるまでの背景も窺い知ることができて、ますます魅力的な1本になることは間違いない!!

 

書籍『刃物の街•関から世界ヘナイフ作家・松田菊男」
定価: 2,200円(本体2,000円+税10%)
A5判170ページ
服部夏生•著/ホビージャパン•発行

 

松田菊男(中央)、昌之(左)、聖也の親子三代。彼らが中心となってKIKU KNIVESの製品を作り出している。 写真:加藤晋平

 

KIKU KNIVES「FULL CONTACT'25」(完売)
大ヒット作「FULL CONTACT」を現代に合わせてリファインしたコラボモデル。写真:玉井久義(HOBBY JAPAN)

 

 

 

コラボナイフの連載記事はこちらでご覧いただけます。

 

 

萩野力a.k.a. Asurah Knives × HOBBY JAPANコラボナイフ『Monolith Modern』完売!!

 

 昨年末にもう一つのコラボナイフ企画を行った。デザインと制作を行ったのは、Asurah Knivesの萩野力さん。ナイフ作家となって数年で「さばいどるナイフ」をはじめ数々のヒット作を生み出している新進気鋭である。今回の作品は、萩野さんの代名詞とも言えるインテグラル(一体型)構造のスマートかつモダンなデザインのモデルとなった。Arms Web限定の告知販売だったが、予定した本数に加えて、萩野さんの好意で追加した分も含め、完売となった。「いい経験になりました。楽しかったです!!」という萩野さん(X:@R93_0223)、そして新たな作家さんたちのコラボの第2弾目以降も計画している。詳細は追って告知していきたい。

 

萩野カ「Monolith Modern」(完売)
ハンドル(柄)部分のテクスチャーがAsurah Knivesの特徴のひとつ。試作からホールの位置などを微妙に変えることで、より持ちやすく洗練されたデザインになった

 

工房で制作中の萩野さん。ナイフ制作用の機械類も少しすつ揃えていったという

 

 

 

コラボナイフの連載記事はこちらでご覧いただけます。

 

 

構成:服部夏生(刃物専門編集者)

 

この記事は月刊アームズマガジン2025年9月号に掲載されたものです。

 

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