ミリタリー

2025/08/21

武装JK&DKは実在する!? 軍事訓練に励むポーランドの高校生たちに密着取材

 

GROM GROUP

OPW春季訓練2025

 

凄みを感じさせるいぶし銀のAKM小銃を撃つ訓練生。デザインの古さを感じさせるかもしれないが、現代戦に通用する高い作動性と質実剛健な造りは未だに衰えを見せない

 

コーディネート:Nobby(写真左) & Captain Katz(写真右)
special thanks:Natalia Grabowska(写真中央、GG専属フォトグラファー)

 

 ポーランドの国防政策の一環として、高校生向けのベーシックなものから精鋭部隊向けのハイレベルなものまで、多種多様な軍事訓練を手掛ける半官半民の軍事企業「GROM GROUP」。前回のレポートに続き、今月はチェルヴォニ・ボル(Czerwony Bór)のGROM GROUP訓練施設で実施された、高校生を対象とするOPW(軍事準備部隊)春季訓練の模様をご紹介していく。日本のオタク風に言うなら「武装JK(とDK)はリアルに存在する」わけであるが、この若き訓練生たちと、対テロ特殊部隊「JW GROM」をはじめとする最精鋭部隊出身のベテラン教官たちは、至って真剣にOPW春季訓練に取り組んでいた。ここでは主にAKMを用いた実弾射撃訓練と体力練成に焦点を当て、様々なカリキュラムをこなし兵士としての基礎を学ぶ彼ら・彼女らの熱闘に迫った。

 

 

 

筆者近影

神崎 大:Masaru Kanzaki

訓練用ラバーガンTRGのキャロット代表。訓練教材の視察を兼ねて取材を敢行

 

 

 

 

OPW(軍事準備部隊)とは

 

 ポーランドは2008年に徴兵制を廃止したが、クリミア併合やロシア・ウクライナ戦争など悪化する安全保障環境への対応を迫られている。そして、国防力増強に人材育成は欠かせず、ポーランド政府は国民の軍務への参加(志願)促進を図っている。
 その施策のひとつが、全国の高等学校(技術学校および普通科高校)向けのOPW(Odziały Przygotowania Wojskowego:軍事準備部隊)と呼ばれる育成・教育プログラムだ。


 この高校生を対象とするOPWについては、国防省と教育省の合意に基づく教育法を法的根拠として、国防大臣により学校への支援内容や訓練体系が定められている。
 OPWプログラムを修了した生徒には、その修了証(校長と後援部隊の指揮官が署名)により卒業後、予備役登録のために必要な30日間の軍事訓練が12日間に短縮されるほか、軍事大学への進学における加点といった恩恵があり、インセンティブとなっている。
 ポーランドが推進しているOPW制度の目的は①生徒が基礎的な軍事知識や技能を習得すること②高校卒業後、軍への入隊を促すこと③軍事大学への進学を促進すること④危機(テロや戦争など)に備えた意識と行動様式(国家を守るのは軍だけでなく、国民全体であるという理念)を若年層に浸透させることにある。このように、ポーランドでは徴兵制に頼らずに、人材供給面で有効な国防制度を実現しているのだ。


 このOPW訓練を請け負っているのが、前回ご紹介した「GROM GROUP」だ。ポーランドの最精鋭特殊部隊「JW GROM」の元将校らによって創設された同グループは、政府の公的資金によりバックアップされている半官半民の軍事企業であり、各種軍事訓練を手掛ける教育部と、国内外での警備業務を手掛ける「警備部」を擁している。


 ここでは、GROM GROUPが実施したOPW春季訓練を、射撃訓練などに焦点を当ててレポートしていく。訓練に参加したのはデンベ・ヴィエルキにある「国内軍秘密落下傘兵記念 プウォツク人民大学附属 第1普通科高等学校(I Liceum Ogólnokształcące Płockiego Uniwersytetu Ludowego im.CichociemnychSpadochroniarzy Armii Krajowej w Dębem Wielkim / Dyrektor:chorąży rezerwy Mariusz Księżopolski)」と、ヴウォミンにある「第111戦闘機中隊記念 プウォツク人民大学附属 第1普通科高等学校(I Liceum Ogólnokształcące Płockiego Uniwersytetu Ludowego im. 111 Eskadry Myśliwskiej w Wołominie / Pani Dyrektor: magister Agnieszka Kaczyńska)」の生徒たち。いずれもOPWクラスを擁し、職業軍人を志す意欲的な生徒が多い。

 

訓練施設の随所に2025年春季のOPW訓練を示すバナーを掲示。バナーには国防省の助成による公共事業であることが記されている

 

着隊した高校生たちはグループごとに所持品検査を済ませて宿舎へと移動する。彼らは所属校で軍事コースを履修しているので支度も早い

 

学生長を先頭に行進、整列する高校生たち。既に同様の訓練を経験した者と初めて入校する者とが混成されており、相互に影響を受けつつ春季訓練に挑む

 

 

 AKM小銃の射撃訓練(25m/4姿勢)

最初の実弾射撃はプローン(伏せ撃ち)。このグループは射撃経験があるようで、構え方や狙い方等にも安定感があった。外的姿勢が整うと射撃は安定してくるもので、実体験から学ぶのが基本射撃訓練だといえるだろう

 

大型の弾薬箱から弾薬は手渡しされ、訓練生は装弾数を数えながら弾倉へと装填する。弾薬を配布する役目は教官1名のみで効率がよく訓練の進行も早い

 

手作りの照準解説具も用意されており、射撃教官がAKMでの狙い方を説明していた。タンジェントサイトは前方視界が広いのが利点だが、遠距離になると照準するのに難しさがある

 

火器のスペシャリストであるJacek Kmiecik教官が、訓練生に小銃の構えや両足のスタンスなど立ち撃ち姿勢を指導する。リラックスして力を抜いて構えることをアドバイスされた訓練生は、実弾射撃に挑んでいく

 

 兵士の基本訓練としてもっとも象徴的なのは、小銃射撃といえるだろう。射撃訓練はAKM(7.62mm×39)の射撃から始まり、基本的な射撃訓練の中で4つの射撃(伏せ撃ち、膝撃ち、立ち撃ち、歩行射撃)が行なわれた。
 使用しているのは、旧ワルシャワ条約機構時代以来の装備であるAKM(ポーランド生産)で、日本の64式小銃と同世代の銃器を使い続けている点が注目される。ポーランド軍はこれまでAKをモダナイズし5.56mm×45NATO弾仕様としたKbs Wz.1996 Beryl(ベリル)を配備してきたが、近年では新型小銃MSBS GROT(5.56mm×45NATO)への更新を進めつつある。とはいえAKはアサルトライフルの基本であり、仮想敵が装備することも考慮して、ポーランド軍において現在もなお小銃射撃訓練に採り入れているのである。

 

弾薬箱には大量のAK弾が。この時訓練で使用していたのはチェコのGETLOAD製 7,62mm×39 FMJ(124gr.)。スチール製薬莢で、表面にはニスが施されているのも興味深い

 

射撃インストラクターのFranciszek Fedorowicz教官が訓練生にエイミングを指導。利き目・利き手を確認しつつ、各生徒に合った照準方法を模索していた

 

AKMを構える訓練生のMarika Murawskaさん。教官から正しいプローン姿勢を学び、なかなか堂に入った雰囲気だ。訓練生の女子比率は意外と高く、見渡した感じでは全体の1/3程度は女子生徒だった

 

ニーリング(膝撃ち)で射撃する訓練生。各個に支給される耳栓のほかに、イヤーマフも使用されている。近年、兵士の聴覚保護は西側の軍隊では重視されている

 

射撃を終えたら弾倉を抜いて銃を置く。射手は25m前方の標的まで移動し、命中弾の得点を確認する。併せて弾着を観察しながら射撃の癖も指導される

 

 

 Gun Maintenance  銃器の整備 

夕食を済ませた訓練生たちが銃器の整備にとりかかる。機械油の匂いが充満する部屋で、煤汚れた銃器の分解と整備を学んでいった

 

銃器の分解には多少なりともコツと力加減が必要だ。女子生徒も慣れない銃器の分解整備を実践していく

 

AKMは構成部品が少ない点も大きな特長で、ここではボルトキャリアとボルト、リコイルスプリング&ガイドが見える

 

 射撃訓練で使われ煤で汚れた銃器には、メンテナンスが必要となる。訓練生はこうした銃器の分解整備を通じて構造に習熟する機会を得ている。AKMは構成部品の多くがスチール製で、構造もシンプルで頑丈。そのうえ整備性も高いことから、現代戦においても活用され続けている名銃だ。GROM GROUPにおいても多くの訓練生が使用するAKMだけに、外観こそ多少くたびれた感じだが、機械としてのコンディションは上々で、今後も長く使われていくだろう。

 

訓練で使用されたAKMはポーランドの銃器メーカーFB(Fabryka Broni Łucznik Radom)製。GROM GROUPのアーマラーによって改修されており、イスラエルFAB Defense製ハンドガードやグリップ、ストックなどが装着されている。旧東側時代から使用されているAKMは、質実剛健な造りと作動性に定評がある。

 

ボルトキャリアを引き抜くのも実に簡単で、分解しながら銃の機構を学ぶことができる。少ない部品点数も合理的でメンテナンスの時間も少ない

 

AKMのスチールプレスマガジンは頑丈で耐久性が高い。現代の樹脂製マガジンに比べて重いが、地面につけても銃を保持できるほど頼り甲斐がある

 

アッパーハンドガードを装着する訓練生。ここまで来れば完成するまであと一歩だ。銃器を見つめる表情にも真剣さが感じられる

 

分解整備に取り組む訓練生たち。教官の指導に耳を傾けながら、和気あいあいと作業している様子に好感を覚えた

 

 

 Physical Training  体力錬成 

4月下旬の空はどこまでも青く、吹く風は爽やかだった。ウォーミングアップはそれぞれの体力に応じて行なわれるが、教官や訓練生も大きな声でゲキを飛ばすようなことはなく、終始穏やかな雰囲気だった

 

 OPW春季訓練では、兵士にとって欠かせない体力錬成も実施された。腹筋や懸垂などから始まり、程よく身体が温まった頃には訓練施設外周にある広大な演習場へと持久走に出発する。訓練生たちの体力、運動能力に個人差があり、目標とする職種も各人異なるのを前提としつつ、男女共同参加を基本としているのは注目に値する。GROM GROUPの教官はほとんどがJW GROMをはじめとする特殊部隊出身者で、年齢的には4 ~50代が多い。高校生とは親子以上孫未満の世代差があるが、コミュニケーションは実にスムーズで、子に狩りを教える親狼を思わせる、厳しさの中にも愛情を感じさせるような指導が印象的であった。

 

懸垂は体力差が明確になりやすいが、女子生徒も負けじと奮闘していた。当然、隣の男子生徒はさらに気合を入れて懸垂するという好循環もある

 

平行棒で競い合う2人の訓練生は服装の違いから異なるクラスのようで、お互いに負けられないライバル関係のようだった

 

のどかにさえ見える腹筋運動だが、取り組む訓練生は必死だ。男女共同参加を基本としつつ、このように直接触れ合うような場面では女子と男子を分けるスマートな運営がなされている

 

 

 Endurance Running  持久走 

GROM GROUPの訓練施設は機甲部隊の対抗戦に使われるほど広大な演習場を擁している。ここチェルヴォニ・ボルは第二次大戦において実際に戦場となった場所で、随所に塹壕や砲兵陣地などの跡が見られた。体力錬成を終えた訓練生たちは、この演習場を中心とする一周約15kmのコースで持久走訓練を開始した

 

先頭グループには意気揚々と走る訓練生が多い。取材カメラにガッツポーズを決め、さらにダッシュしていった

 

仲間を気遣ってあえてペースを合わせたり、体力が拮抗したりして男女混合で走るグループも散見された

 

昨年(2024年)のOPW訓練生のエピソード。Jakub Dołęgowskiさん(写真左から2番目)は夜間訓練で足を骨折するアクシデントに遭ったが、本人の強い希望で訓練を続行し、戦場救護の訓練では自ら負傷者役も買って出た。強い精神力と仲間の支えにより困難な状況を乗り切り、無事訓練を修了したのである

 

 

 Interview with students  訓練生インタビュー 

 

 GROM GROUPの計らいで、訓練生のうち6名にインタビューすることができた。多感で希望に満ちた彼ら高校生たちがどんな夢を持ち、この訓練で何を学んだのか。「印象的だった授業」と「将来に活かしたいこと」を中心に聞いてみた。

※記載した年齢(カッコ内)はインタビュー当時のものです。

 


 

  NIKITA KRIPAK(16)
Czarnej Taktyki(ブラック・タクティクス=CQB)訓練と偽装の授業は特に貴重な経験となりました。習得した知識は、将来的に軍と関わる仕事に就く際に活かしたいです。私はウクライナ出身ですから、戦争が続いている母国の状況を考えると、武器の扱い方や戦術の基本、サバイバル技術はとても役立つと思います。

 

  VLADYSLAV TARAN(15)
射撃訓練とCQB訓練が特に面白かったです。そして護身術やトンファー(警棒)の扱い方などについても興味を持ちました。得られた知識は、将来軍に入隊する際に必ず役立てるつもりです。私はJW GROMのような特殊部隊に入隊するのが夢で、ここで学んだ射撃技術、護身術、戦術は、夢への一歩として役立つと思います。

 

  VLADYSLAVA PUKHALSKA(16)
GROTや AK47 などさまざまな銃を使った射撃をはじめ、地形学や地図判読はとても楽しくて「クールなスキル」だと思いました。将来的には特殊部隊を志望しているので、ロープクライミングの訓練も印象的で、役立つことと思います。これらすべての経験は新兵が覚えるべきことと重なっているので、ポーランド軍に入る際にとても助けになるはずです。

 

  KUBA KARCZEWSKI(16)
さまざまな種類の銃を用いた射撃と、特別な方法を学べた医療(戦場救護)訓練が一番気に入りました。チェルヴォニ・ボルでの訓練を通じてさまざまな分野の基礎的な知識を得ることができ、それが自分にとって適職なのか、人生で本当にやりたいことなのかを、早い段階で判断する助けとなりました。

 

  LIWIA KALISZ(17)
医療訓練とCQBを組み合わせた授業、そしてさまざまな銃を使ったダイナミックな射撃が特に印象的でした。これらの訓練によって知識の幅が広がり、軍に入隊した際、初期の勤務がよりスムーズになると思います。また、私が軍でどのような分野に進みたいか、明確にする手助けにもなりました。

 

  MICHAŁ KARULEWICZ(17)
CQBの授業がもっとも気に入りました。自動小銃の射撃や手榴弾の投擲、負傷者搬送など、リアルでとても興味深い内容でした。訓練を通じて軍事や戦術に関する貴重な知識を得ることができ、個人的に射撃スキルも向上しました。こうした経験は、将来的に軍でのキャリアに大きな影響を与えると思います。

 


 

GROM GROUP共同代表のWojciech Grabowski(通称:ヴォイテク)氏は、訓練生たちとのコミュニケーションを常に大切にする。このように時折朝食の配膳などを通じて、訓練生の健康状態に注意を払っていた

 

給食は新鮮な野菜がふんだんに採り入れられ、タンパク質や炭水化物といった栄養素も充分に摂ることができる。朝食は軽めのメニューだが、とても美味しかった

 

訓練生たちは持参した食器で給食を受けて仲間の集まる食堂へと向かい、これから始まる訓練に期待を膨らませていた

 

 

あとがき

 

 ポーランドの国防政策における意欲的な育成・教育プログラムの一環であるOPW(軍事準備部隊)制度。今回取材したGROM GROUPのOPW春季訓練では、能力的な個人差はあるものの、男女の別なく訓練に励む高校生たちの姿を見ることができた。そのなかで、助け合いの精神や、性差を超えた他者への尊重が垣間見られたことは非常に印象的だった。
 隣国がいままさに戦場となっているポーランドと、力を背景とする一方的な現状変更を試みる国々に囲まれた日本には「安全保障環境の悪化」という共通点がある。
 日本の自衛隊が人員不足にあえぐなかで、こうしたポーランドの国防政策、とりわけ若年層に対する軍事教育は、好例として注目すべきではないだろうか。

 

 

GROM CHALLENGE 2025 日本人参加者を募集中

 

Photos:GROM GROUP

 

 GROM GROUPは2025年9月に、毎年恒例の障害物レース「GROMCHALLENGE 2025」を開催予定だ。広大なチェルボニ・ボルの訓練施設を舞台に、ポーランド最精鋭のJW GROMの入隊試験を再現した数々の難関をバディと突破していく!
 競技内容にはGROT小銃の実弾射撃もあり、体力と知力、射撃技術とチームワークマインドを持つ方であれば、民間人でも参加可能だ。「我こそは!」と思われた方はGGJ(GROM GROUP JAPAN)までお問合せいただきたい。

 

お問い合わせ先:info@grom-japan.com
GROM GROUPGROM GROUP JAPAN

 

 

 

Text & Photos:神崎 大/アームズマガジン編集部
取材協力:GROM GROUP / GROM GROUP JAPAN

 

この記事は月刊アームズマガジン2025年9月号に掲載されたものです。

 

※当サイトで掲示している情報、文章、及び画像等の著作権は、当社及び権利を持つ情報提供者に帰属します。無断転載・複製などは著作権法違反(複製権、公衆送信権の侵害)に当たり、法令により罰せられることがございますので、ご遠慮いただきますようお願い申し上げます。

Twitter

RELATED NEWS 関連記事

×
×