エアガン

2025/07/07

オールドモデルガンアーカイブ:1960年代を席巻した指ブローバックの世界【後編】

 

 今ではガスブローバックや電動ブローバックが有名だが、金属モデルガン全盛期の1960年代に大人気だったのは「指ブローバック」。別名、ダブルアクション、指アクション、スライドアクション、タニオアクションなどとも呼ばれた。あらためて指ブローバックの名銃を振り返ってみよう。

 

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インターナショナル・ガン・ショップ
HScモデル(1968)

 

 

 1966年に手動式のリアル志向モデルガン、コルト・ポケットを発売したインターナショナル・ガン・ショップは、次のモデルを何にするか模索していた。そして選んだのがモーゼルHScだった。
 このインターナショナル・ガン・ショップという会社はモデルガンの企画と販売を手がける会社で、設計と製造を行なっていたのは桜邦産業というところだった。そして1973年、この2社が合併して国際産業になる。ただその当時はまだ別々で、前作のコルト・ポケットの販売が芳しくなかったことから、インターナショナル・ガン・ショップは方針を転換して、リアル志向ではなく遊べるモデルガンを作ることにした。そして設計は、当時、中田商店を辞めて独立した六人部登さんが立ち上げた六研に依頼することにした。


 1960年代末、スパイアクションが人気で、ミリタリー人気も盛り上がっていたことから、いくつかの候補の中から、まだモデルガン化されていない銃ということで、モーゼルHScが選ばれたという。HScならポケットに入るコンパクトサイズで、予算も低く抑えることができる。
 六研への要求はシンプル。遊べるHScのモデルガンを作って欲しい、というもの。
 六人部さんは、ルガーP-08の平行移動するトリガーから一変、テコを応用した回転系の指ブローバックメカニズムを採用した。これだと比較的小さな力でも作動させやすく、子供でも撃ちやすいモデルになる。


 ただ、部品の精度がシビアで、1/100mmの精度が出ていないとトリガーが動かなかったという。製造を担当した桜邦産業では、中田のP-08同様、製造に手間取って発売が遅れた。それでも3カ月ほどですんだのは技術の進歩もあるのだろうが、ラッキーだったといえるだろう。発売が遅れることはよくあることだった。
 インターナショナル・ガン・ショップのHScは同時期に発売されたMGCのH.S.cと人気を二分した。

 

インターナショナル・ガン・ショップ製HScモデル

 

 DATA 

主材質:亜鉛合金ダイキャスト、ABS樹脂(グリップ)
発火機構:前撃針
撃発機構:装填衝撃発火方式
作動方式:スライドアクション
カートリッジ:ソリッドタイプ
使用火薬:平玉紙火薬
全長:170mm
重量:650g
口径:7.65mm
装弾数:5発
発売年:1968年
発売当時価格:3,000円(カートリッジ5発付き)
       ゴールドモデル 4,000円(カートリッジ5発付き)

 

※表面を白・黄・金色などに着色し、銃口を閉塞していれば所持可。
※寸法などのデータは当時のメーカー発表によるもので、実測値ではありません。また価格は発売当時のものです。

 

トリガーガード内のバレルストップを押し下げることで、実銃同様、簡単に分解ができる

 

メカニズムとしては、MGCのP-38に近いもので、テコを利用した回転系。排莢方向が右なので、P-38とは反対にフレームの左側に配置されている

 

ダミーのハンマー。スライドに追随して動けば良いので、弱めのスプリングが使われている

 

トリガー、トリガーバー、リコイルアームの関係。右上にあるのは、スライド側に付いているシアと呼ばれるツメ

 

 

MGC
モーゼルH.S.c スタンダードモデル(1968)

 

 

 MGCも1968年にモーゼルH.S.cを発売した。これはまったくの偶然だったらしいが、考えてみれば指ブローバックのPPKが大人気で、スパイアクションも人気で、ミリタリー人気も高まっていた中、カッコ良い銃で、まだモデルガン化されていない銃となると、自ずと限られてくる。
 MGCが凄いのは、常に新しいものにチャレンジしていたことだろう。H.S.cはシングル/ダブルアクションのオーソドックスな手動式のデラックスモデルと、指ブローバックのスタンダードモデルがあり、わずかな部品(スライドユニットとハンマーユニット)の交換で、お互いの仕様を入れ替えることができたのだ。


 チラシの謳い文句は「1挺で2挺分楽しめる!」。これには多くのファンが驚かされた。正反対くらいに違う仕様なのにメカのコア部分は共通。そんなことが可能だとは。
 かつて、設計を手がけられた小林太三さんにお話を伺ったところ、MGCではシングル/ダブルアクション仕様のデラックスモデルがメインで、指ブローバック仕様のスタンダードモデルはサブ的な位置づけだったという。しかも通常のモデルでは必要のないディスコネクターも装備されていて、開発中だった火薬を使うデトネーター方式ブローバックが完成したら、すぐに対応できるようになっていた。


 そのため、指ブローバック機構はシングル/ダブルアクション仕様をベースに考えざるを得なかったようで、小林さんはトリガーによって直接動かすパーツであるダブルアクションハンマーを利用して、スライドを引っかけて後退させるメカを考案した。
 ところが発売してみると指ブローバックも人気が高く、1971年の第一次モデルガン法規制で金属製ハンドガンのデトネーター方式ブローバックの発展が望めなくなった頃には逆転し、指ブローバックの方がメインとなっていた。おかげで1977年の第二次モデルガン法規制も生き残ることができた。
 MGCのH.S.cも指ブローバックのイメージが強いモデルガンだった。

 

MGC製モーゼルH.S.c

 

 DATA 

主材質:亜鉛合金ダイキャスト、ABS樹脂(グリップ)
発火機構:前撃針
撃発機構:装填衝撃発火方式
作動方式:スライドアクション
カートリッジ:ソリッドタイプ
使用火薬:平玉紙火薬
全長:166mm
重量:580g
口径:7.65mm(.32口径)
装弾数:7発
発売年:1968年
発売当時価格:2,800円
オプション:カートリッジ(FNブローニングと共通)12発 300円
 木製グリップ 600円
 手動式で、シングル/ダブルアクションハンマーを備えたデラックス・モデルは3,100円


※表面を白・黄・金色などに着色し、銃口を閉塞していれば所持可。
※寸法などのデータは当時のメーカー発表によるもので、実測値ではありません。また価格は発売当時のものです。

 

別部品のリアサイト、サイトグルーブに入れられた反射防止の細かな波模様など、細部まで凝った作りになっている

 

指ブローバックのスタンダードモデルでは、エキストラクターは別部品でスライドに固定されていた

 

MGCのH.S.cもトリガーガード内のテイクダウンラッチ(バレルストップ)を押し下げるだけでスライドアッセンブリーを外すことができた

 

シングル/ダブルアクションのデラックスモデルの機関部。ハンマーとハンマーストラットを交換するだけで指ブローバック仕様にすることができた

 

※モデル名などは、基本的にはメーカー表記に準じていますが、メーカー自身の表記にも揺らぎがあるため、本稿ではその時に参考にした資料に従って表記し、あえて統一していません。

 

TEXT&PHOTO:くろがね ゆう

 

この記事は月刊アームズマガジン2025年8月号に掲載されたものです。

 

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