2025/07/06
オールドモデルガンアーカイブ:1960年代を席巻した指ブローバックの世界【中編】
今ではガスブローバックや電動ブローバックが有名だが、金属モデルガン全盛期の1960年代に大人気だったのは「指ブローバック」。別名、ダブルアクション、指アクション、スライドアクション、タニオアクションなどとも呼ばれた。あらためて指ブローバックの名銃を振り返ってみよう。
MGC
ワルサーP-38 アンクル・タイプ(1966)

007映画の人気を受けて製作されたアメリカのTVドラマ・シリーズが『0011ナポレオン・ソロ』。日本では1965年から1970年にかけて日本テレビ系列で放送され、大人気となった。
主人公は国際的な諜報機関U.N.C.L.E.(アンクル)に所属する腕利きエージェント(スパイ)の0011ナポレオン・ソロと、相棒の002イリヤ・クリヤキン。そしてその2人が使う銃が、ワルサーP38をベースにカスタマイズしたアンクルタイプ(アンクルスペシャル)。いざというときは、アタッチメントを装着して、サブマシンガンやスナイパーのようにも使えるという架空銃だった。
そして、ドラマのヒットと共にアンクルタイプの人気も急上昇し、MGCにはモデルガン化して欲しいという声が多く届くようになった。それを受けてモデルガン化が決定すると、特集記事が掲載されたアメリカの銃器雑誌や映画雑誌を参考に設計が進められたという。
MGCではすでに1965年発売のFNブローニング380からリアル志向のモデルガンを作っていて、アンクル・タイプの直前にもショートリコイル機構を再現した手動式のコルト・ガバーメントを作っていた。
しかしアンクルタイプは、あえて指ブローバックとされた。当時、紙火薬で作動するデトネーター方式のブローバックはまだ完成しておらず、ソロやイリヤのように連射するためには指ブローバックしかなかったのだ。しかもこの方式だと、トリガーを引ききったまま強く腕を前後させるとスライドが慣性で動いてマシンガンのように高速連射することも可能だった。
アンクルタイプは一世を風靡し大ヒットとなった。そしてその人気が一段落した1968年になって、田宮模型の1/35ミリタリーミニチュアシリーズのプラモデルなどでミリタリー人気が盛り上がると、オーソドックスなミリタリータイプも発売された。そして2つのモデルガン法規制も生き残り、息の長いロングセラーモデルとなった。

DATA 主材質:亜鉛合金ダイキャスト、ABS樹脂(グリップ)
※表面を白・黄・金色などに着色し、銃口を閉塞していれば所持可。 |



中田
ルガーP-08(1966)
トイガンブームの中心にあった中田商店が、1965年、最初のオリジナルのモデルガンを手がけるとなったとき、選んだ銃はドイツの軍用拳銃ワルサーP38だった。ところが、このときすでにMGCでP-38アンクル・タイプの企画が進行中だったことが判明したため、急きょルガーP08に変更された。
メカニズムは指ブローバック。これはまだ安全対策の固まっていなかったモデルガンが改造されて悪用されないためで、中田商店の中田社長の強い希望によるもの。輸入トイガンの時代から、火薬の力で弾が飛ぶものやリアルな後撃針発火方式のものなどが販売禁止処分を受けていたことから、業界的にとても神経質になっていた。第1号のモデルガンがそんなことになってはいけない。
原型を手がけたのは、当時、中田商店の社員だったトイガンデザイナーの六人部登さん。輸入トイガンの中に樹脂製の弾を飛ばす指ブローバック方式のルガーがあって、それを参考にしたという。外観などは日本国内にあった実銃を取材して忠実に再現した。
トリガーを引くとバレル&レシーバーがショートリコイルし、トグルが折れ曲がってカートリッジを装填/排莢するというとてもリアルなアクション。火薬を使わなくても、その動きだけで楽しむことができた。
ところが、中田商店は亜鉛合金ダイキャストという製造方法が初めてだったことから、収縮や歪みなどによりパーツを原型どおりの寸法にすることができなかった。それではスムーズに動かない。P-08の指ブローバックには高い部品精度(公差)が必要で、何回も金型を修正するなどして発売は遅れに遅れた。1965年の7月に発売予定だったものが、1966年になってようやく発売にこぎ着けた。他社の新製品や、あとから発表された自社の手動式モデルが先に発売される中、P-08が発売された時には注目度が下がってしまい、大ヒットとはならなかった。以来、中田商店は指ブローバック方式のモデルガンを作っていない。

DATA 主材質:亜鉛合金ダイキャスト、ABS 樹脂(グリップ)
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※モデル名などは、基本的にはメーカー表記に準じていますが、メーカー自身の表記にも揺らぎがあるため、本稿ではその時に参考にした資料に従って表記し、あえて統一していません。
TEXT&PHOTO:くろがね ゆう
この記事は月刊アームズマガジン2025年8月号に掲載されたものです。
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