ミリタリー

2025/06/27

令和7年富士総合火力演習

 

陸上自衛隊の「今」が良く分かる総火演

 

2025年6月8日(日)、陸上自衛隊東富士演習場において、令和7年富士総合火力演習(以下:総火演)が行われた。

 

 総火演は、1961(昭和36)年に、陸上自衛隊富士学校に入校する自衛官学生に対する教育を目的として開催されたのが始まりである。その5年後には一般に公開され、多くの国民の前で火力戦闘の様相を展示してきた。


 広く一般に認知された総火演は、毎年2万人以上の来場者を集めるビッグイベントとなっていた。しかし、コロナウイルス感染症が蔓延し、社会に大きな打撃を与えた2020年からは一般公開を中止し、インターネットによるライブ配信が行われるようになった。それ以降、限られた招待者や募集対象者以外の入場はできず、もっぱらライブ配信のみでの公開となっている。


 そんな今年の総火演を一言で言い表すとしたら「わかりやすい総火演」の構成になっていたことだろう。
 例えば、昨年の総火演は実際にやりとりするであろう無線交信が多く、射撃は少なかった。実戦であればそうなるであろうというスタイルでの展示であったため、戦車や火砲の迫力を体感したい来場者からすれば、若干退屈な総火演であった。また、ライブ配信も行われず、編集された映像が後日配信された。
 その一方で、今年の総火演は実際の戦闘をイメージしつつ、大量の砲弾を射撃するエンタメ要素が復活していたのだ。


 これは、来場する自衛官学生にとっては非常に分かりやすく、募集対象者からすれば迫力ある射撃を存分に楽しむことができたであろう。
 特に、今の陸上自衛隊が推し進める島嶼防衛において、どんな装備を使って、どのように島嶼を防衛するのかがハッキリと示された。
 また、防衛予算の増加に伴い、過去に例を見ないほどスピーディに調達された4つの新規装備品も展示されるなど、陸自の「今」が良く分かる総火演であった。


 来年の構成がどのようになるのか不明だが、今年のような大量の射撃を伴う総火演であれば、実際に訪れた来場者、そしてライブ配信を楽しみにしている視聴者をより引き付けることになるであろう。

 

25式偵察警戒車

初登場となった25式偵察警戒車。偵察戦闘大隊などに配備されると考えられている新規装備品だ

 

24式機動120mm迫撃砲

16式機動戦闘車の車体をベースに作られた24式機動120mm迫撃砲。このほかにも歩兵戦闘型もあり、装甲車のファミリー化に成功している

 

総火演初登場となった12式地対艦ミサイル能力向上型の発射器。最大射程が1,500km程度にまで延伸される予定だ。実現すれば、内地からの射撃が可能になり、生存性は大きく向上する

 

大きな注目を集めた島嶼防衛用高速滑空弾の発射器。最大で3,000kmほどの長射程を実現するという。稚内から与那国島まで余裕で届いてしまう距離で、九州の日出生台から発射すれば、東アジアの全域を射程に収める

 

軽装甲機動車から01式軽対戦車誘導弾を発射する。敵の戦車や装甲車を打ち砕くことが可能で、和製ジャベリンとも呼ばれている

 

砲迫射撃の展示で、120mm重迫撃砲を発射する。次々と撃ちだされた砲弾は、三段山で炸裂し、周囲に爆音を響かせる

 

2021年に部隊使用承認を得た新多用途ヘリコプターUH-2。先代となるUH-1Jと比較して搭載スペースに大きな変化はないものの、より軽快な飛行が可能になった。今回はいつになく大暴れという表現が似合うほど会場狭しと飛び回った。将来的には武装するMH化の計画もあるという

 

車内に高機動車を搭載した状態で着陸するCH-47JA

 

CH-47JAから降ろされ、銃を構えつつ前進する普通科分隊

 

12式地対艦ミサイル通常型の発射器。統制装置やレーダーなどと離れた場所に展開して攻撃する

 

会場いっぱいに広がって同時に射撃する西部方面戦車隊の10式戦車。射撃タイミングがこれだけバッチリ揃うのも珍しい

 

予行にはなかった発煙弾の投射。炸裂前に慌ててカメラを向けたが、なんとか間に合って収めることができた一枚

 

令和9年度末をもって引退が決まっているAH-1S。すでにTOWミサイルは撃てなくなっており、20mm機関砲を射撃するだけで終わってしまった

 

新設される佐賀駐屯地への移駐が決まっている輸送航空隊のV-22オスプレイ。進入時は戦闘機を彷彿とさせる機動を見せてくれた

 

水陸機動団が保有する水陸両用車AAV7。40mmてき弾と12.7mm重機関銃による射撃を披露し、後部に乗る普通科隊員を降ろしての下車戦闘も見せてくれた

 

一般には初公開となる20式小銃に取り付けたグレネードランチャーによる射撃。迫り来る敵の徒歩兵を面で制圧することが可能だ

 

偵察活動を行うために進入してきた偵察オート。戦闘偵察大隊のほか、普通科部隊や施設部隊などにも配備されている

 

敵陣地の観測中に敵車両を発見し射撃する16式機動戦闘車。87式偵察警戒車も射撃し、敵の勢力を減殺する

 

敵陣地の前面に作られた地雷原や障害などを爆破して車輌用の通路を作る、92式地雷原処理車の処理ロケット

 

ライブ配信で話題になった「塹壕戦」を披露した普通科教導連隊第1中隊の隊員。右の隊員がライブ配信用のカメラとアンテナを取り付けているのがわかる

 

塹壕戦は来場者からは見えにくい場所で行われた。この場所は射座の管理用の通路で、それを改修して塹壕戦闘ができるようにした。そのため、お手本通りの塹壕ではないものの、塹壕戦とはどのような感じになるのかを分かりやすく展示してくれる恰好になった。右は多数の目標から優先度が高い敵に対して射撃する中距離多目的誘導弾

 

女性小隊長が指揮を執った90式戦車小隊。噂によると、北海道で鍛えられた小隊長が富士に赴任してきたそうだ。確かに、どこかで聞いたことがあるような声だと思っていた

 

35mm機関砲を射撃する89式装甲戦闘車。装甲車相手に戦うだけだと思っていたが、実は戦車相手にも戦うことができるといわれている。もちろん、35mm機関砲でだ

 

総火演のフィナーレとなる戦果拡張。これまでの総火演では航空部隊は上空を通過して締めくくられていたが、今年は地上の戦車部隊に追従する形で敵陣地の奥まで飛行していった。ぜひとも、正面から見てみたいと思わせる、最高の演出であった

 

 

Text & Photos:武若雅哉

 

この記事は月刊アームズマガジン2025年8月号に掲載されたものです。

 

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