2025/04/29
昭和大好きかるた 時代を超えた普遍の良き「何か」を振り返る 第26回「は」
時代を超えた普遍の良き「何か」を振り返る
第26回
は
はっちゃく
令和となってはや幾年。平成生まれの人たちが社会の中枢を担い出すようになった今、「昭和」はもはや教科書の中で語られる歴史上の時代となりつつある。
でも、昭和にだってたくさんの楽しいことやワクワクさせるようなことがあった。そんな時代に生まれ育ったふたりのもの書きが、昭和100年の今、"あの頃"を懐かしむ連載。
第26回は、軍事フォトジャーナリストの菊池雅之がお送りします。
ブリッジをしながら、男の子が呪文のように呟きます。
「はっちゃけ~、はっちゃけ~、…はっちゃけた!」
子どもが主人公のホームドラマ
これ、何のことか分かった人は間違いなく50歳以上です。元ネタは、1979(昭和54)年から1985(昭和60)年、毎週土曜日にテレビ朝日系列で放送されていたドラマ『あばれはっちゃく』です。
タイトルから内容を察するのは、なかなか難しいかもしれませんが、小学校5年生のいわゆる“ガキ大将”が巻き起こすドタバタホームドラマです。
改めて調べてみると、「俺はあばれはっちゃく」「男!あばれはっちゃく」「熱血あばれはっちゃく」「痛快あばれはっちゃく」「逆転あばれはっちゃく」と、5作品あったようです。その他スペシャル2時間ドラマもある人気ドラマシリーズです。
前述の呪文は、4代目あばれはっちゃくが、悩みに直面した時に行う行動で、私も真似しました。
そもそも論ですが、「はっちゃく」とは何なのでしょうか? 当時私はそれが何を意味するのか考えもしませんでした。こちらも改めて調べてみますと、ネット上にはさまざまな推察で溢れていました。
本作品中では「手に負えない暴れん坊」という意味で使われていますが、そもそも「はっちゃく」や「はっちゃけた」などと言う単語はドラマ以外では聞いたことがありません。どうやら北海道弁で、似たような方言があるとか。原作者の山中恒先生(*)が北海道ご出身とのことなので、この説に納得です。
*山中恒:児童文学作家。『あばれはっちゃく』シリーズの他にも、大林宣彦監督の映画『転校生』『さびしんぼう』『はるか、ノスタルジイ」の原作をはじめとするヒット作品を数多く生み出している。ちなみに『あばれはっちゃく』のテレビドラマ化の際しては、劇中歌などの作詞も手がけた多才な人物。
人間くささ満載だった”ガキ大将”たち
さて、今回お話したいのは、“ガキ大将”についてです。
自分の小学生時代を思い返しても、確実にあばれはっちゃくのようなガキ大将はいました。ただの粗暴で頑固なイジメっ子ではなく、友達想いで、人情味があり、筋が通っているような小学生です。ただ、言葉が足らず、先生や友達をもめてしまい、つい手もでしまう大人からすると迷惑な子供だったのかもしれません。
しかし、休み時間になると、そんな子の机の周りに皆があつまり、ワイワイ話し込んでいた記憶はありませんか? 勉強は出来なくてもスポーツ万能。女子にモテそうだけど、照れくさいのか、逆にイジメてしまうので嫌われる……。
私の周りにいた“ガキ大将”は、小学校4年生の時に引っ越してしまいました。最後の別れの会で、先生と教壇に立ち、最後の別れを言う際に、彼は柄にもなく号泣してしまったのを覚えています。
そこから彼との縁は途絶えてしまいますが、大人になりSNSで繋がりました。葛飾区で町中華の大将をやっているそうで、イメージそのままの仕事についていることにうれしく思いました。久しぶりに会いに行くと、あの当時のままでした。チャーハンもおいしかった。

現代の学校では、きっと“ガキ大将”のような存在はパージされてしまうでしょう。
昭和の時代、それを受け入れていたのは、大人たちも本気でぶつかっていたからのような気もします。
その手段として用いられていたのが、何と言いますか……、愛の鞭……。悪く言えば鉄拳制裁です。
もちろん暴力は肯定しませんが、あの当時は間違いなく存在していましたし、私も親や先生に叩かれたことは何度もあります。
『あばれはっちゃく』も劇中で毎回殴られていました。極めつけは、東野英心さん(*)演じる父親の決め台詞です。
*東野英心:俳優。『あばれはっちゃく』の父親役の他、40代以上なら皆知っているであろう『中学生日記』の教師役など、子どもたちの成長譚での役が当たり役となった。父親は小津安二郎監督の『東京物語』や『秋刀魚の味』、黒澤明監督の『用心棒』『七人の侍』など数多くの映画で活躍した昭和の名優・東野英治郎
はっちゃく側の理由も聞かず、まずは「馬鹿野郎!」と殴り倒し、「てめぇの馬鹿さ加減にはなぁ、父ちゃん情けなくて涙が出てくらぁ」との言葉を浴びせます。しかし、最後には打ち解けて、ハッピーエンド。
あの当時の親子関係、そして大人と子供の関係を描けていたと思います。もう一回見て見たいけれど、もはや地上波で再放送は望めないでしょうね……。
ちなみに5代目「あばれはっちゃく」は、なんと歌謡グループ「純烈」のリーダーの酒井一圭さんが演じていたそうです。

TEXT:菊池雅之
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