2025/03/05
令和6年度 第7師団戦車射撃競技会 北海道配備の戦車部隊が“最強”の座を目指して競い合う
北海道配備の戦車部隊が“最強”の座を目指して競い合う
令和6年度 第7師団戦車射撃競技会
戦車王国・北海道を舞台に行なわれた戦車射撃競技会。日本唯一の機甲師団である第7師団が主催し、師団隷下部隊をはじめ他の師団および旅団からも戦車部隊が参加。対ロ最前線となる北海道の最強戦車部隊を決める。

2024年12月5日から10日までの間、陸上自衛隊北海道大演習場(恵庭市など)において、「令和6年度第7師団戦車射撃競技会」が行なわれた。陸上自衛隊では多種多様な競技会が行なわれているが、その中で射撃の腕を競うものがある。個人による小銃の競技から、火砲や戦車など部隊単位の競技など火器火砲問わず、規模も大小さまざま。今回実施された第7師団による戦車射撃競技会は、陸自全体の競技会と比しても参加部隊数、人員数、競技内容等において大規模な部類に当たる。
北海道の防衛警備を担当する北部方面隊には、第7師団のほか、第2師団、第5旅団、第11旅団の4つの作戦基本部隊がある。この中で、第7師団は日本唯一の機甲師団であり、師団隷下部隊には第71、第72、第73戦車連隊の3個戦車連隊が編成されている。これほどの大規模な戦車部隊を有するのは第7師団だけ。また、同じく師団隷下部隊である第7偵察隊にも戦車が配備されている。偵察部隊で戦車を運用しているのはこの部隊のみだ。
90TK 90式戦車



その理由は、海を隔てて国境を接するロシアが戦車を中心とした戦闘団(大隊)を編成して戦うからだ。北海道へと着上陸を果たしたロシア戦車部隊の侵攻を阻止するには、こちらも戦車で戦う必要がある。そこで、陸自の戦術としては、通常は普通科連隊を中核とした戦闘団を編成するが、第7師団では戦車連隊を中核とした戦闘団を編成する。また、最北の第2師団も連隊規模の戦車部隊である、第2戦車連隊を編成している。ほかの師団および旅団が隷下に戦車部隊を持つ場合、より規模の小さい戦車大隊もしくは戦車隊となっているが、第2師団も第7師団と同様の理由で、戦車部隊の規模を大きくしている。
第7師団の戦車射撃競技会は1958年よりスタートし、2年に1度行なわれている。また、北部方面隊としても2年に1度、戦車射撃競技会を実施している。この2つの競技会は交互に開催されているため、北海道では毎年大規模な戦車射撃競技会が行なわれていることになる。これが66年間継続され、今日に至る。射撃練度を高める上で必要不可欠であり、非常に重要だからだ。また、第7師団主催の開催回にも、方面隷下の各戦車部隊が参加している。今回は、第2師団の第2戦車連隊、第11旅団の第11戦車隊も参加した。この競技会では師団の枠を超え、方面レベルの部隊が参加しているのが特徴だ。各部隊は、1個小隊にあたる4輌を1つのチームとする。こうして、トータル32個小隊(内、第7師団からは26個小隊)が参加し、競技が行なわれていった。



現在、北部方面隊の各戦車部隊では、90式戦車と10式戦車を運用している。数の上では90式戦車が主力ではあるが、10式戦車も数を増やし、第71戦車連隊についてはすべて10式戦車に更新された。第2戦車連隊でも1個中隊が10式戦車部隊となっている。これまで10式戦車と90式戦車では性能差があるため、第7師団および北部方面隊戦車射撃競技会では10式と90式とでは異なる競技内容としていた。しかし、今回からは同一要領にて実施されることになった。
この競技会の会場としては、北海道大演習場(北大演)の島松地区にある第1射場が使われている。競技は各戦車小隊がそれぞれ4輌の戦車を用いて射撃の腕、操縦技術、そして小隊長の指揮統制能力を競うものとなっており、合計点数の高い小隊が優れていることになる。ただ標的を倒していくだけではなく、実戦に則した形で射撃を行なっていく。敵戦車等を模した標的は、突然現れる。小隊長は素早く的確に指示を出し、各戦車は、割り振られた標的をタイムラグなく次々と撃破していく。ここでもたつき、時間がかかってしまうと減点対象となる。
10TK 10式戦車


具体的に見ていこう。まず会場正面右側奥には弾薬積載所があり、競技前にそこで戦車に弾薬を積み込む。そして参加者全員が身分証を確認される。これは、同じ条件下での競技では戦車乗り個人の能力が勝敗に大きく影響するため、なりすまし参加を防ぐという意味がある。
こうして弾薬を積み終え、必要な確認を終えると、戦車に搭乗。まずは会場右側にある小高い2つの射座周辺に小隊の4輌が集まる。競技が開始されると、2輌は会場正面へ、もう2輌は射座へと移動。そして敵が出現すると、まず射座の2輌が射撃をする。場合によっては1輌が2発撃つことも。こうした振り分けは小隊長が行なう。正面から右側へと移動する戦車も、敵を発見すると、速やかに射撃していく。


射座を降りた2輌は、先に移動した2輌と同様に会場正面を移動していく。合流すると4輌は横一列に並び、前進しながら射撃する「躍進射撃」で標的を狙い撃っていく。最後は機関銃射撃も行なう。すると、敵が反撃してきたと想定し、今度は後進し、停止したのち射撃する。最後は再び射撃を行ないながら前進し、競技は終了となる。
競技に参加しない隊員たちは、それぞれの部隊名が書かれたのぼりを掲げて、仲間の応援に回る。双眼鏡をのぞきながら、射撃の成果を確認して一喜一憂。短時間で標的を次々と仕留めていく小隊であれば、応援する仲間たちから歓声が上がる。そして、射撃を終え、戻って来た参加小隊をねぎらう。まさに部隊一丸となって戦っているのだ。


こうして各小隊死力を尽くして戦った結果、総合優勝にあたる「部隊対抗連隊の部」にて、第73戦車連隊が優勝した。同じく連隊以外の部隊の総合優勝にあたる「隊対抗の部」では、第11戦車隊が優勝。そして、一般的なスポーツなら個人競技にあたる「小隊対抗の部」では、第72戦車連隊第4中隊第1小隊が優勝した。なお、第73戦車連隊は1996年以来、実に28年ぶりに優勝旗を手にすることとなった。

優勝の栄冠は第73戦車連隊の手に

Text & Photos:菊池雅之
この記事は月刊アームズマガジン2025年4月号に掲載されたものです。
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