ミリタリー

2024/12/27

ポーランドの新たな訓練施設「Strzelnica Pawłów」トレーサーやNVGを用いた本格的な夜間射撃訓練をレポート

 

燃え盛る車、飛び交う曳光弾…リアルな夜の戦場を再現したタクティカルトレーニングに密着

 

 

 ポーランドに“ヨーロッパ最大”の民間射撃場が誕生した。優秀なトレーナーを擁し、自由度の高さを生かした様々なシチュエーションでのタクティカルトレーニングを受講できるこの施設で、トレーサーやNVGなども活用した本格的な夜間射撃訓練に密着する。

 


 

自由度の高さが魅力の新たな射撃場


 この10月後半、ポーランドを初めて訪れた。ハンガリー訪問時もそうだったが、行く前は映画や歴史番組の影響から第二次世界大戦時の悲惨さや、冷戦期に東側国家だったという暗い先入観が頭にあった。しかし、実際に訪れてみると、それは完全に覆された。

 

満天の星の下、燃え盛る車とトレーサー(曳光弾)が織りなす幻想的なワンシーン。RPKからフルオートで放たれたトレーサーはレーザービームのようにメタルターゲットを捉え、金属的な反響とともに弾かれ彗星のごとく夜空へと吸い込まれていった

 

走り込んでポジションに着くなりスタンディングで射撃する。彼が構えるのはDaniel DefenseがシグネチャーシリーズとしてラインアップするWPS(Warrior Poet Society)M4A1で、RISⅢハンドガードを備え、ODセラコートが施されている。ショートスコープはBurris Optics製RT-6
1-6x24mm。ワルサーPDPをHexagone Holstersのカイデックスホルスターに収めている


 行先はポーランド南東部のパヴウフという町。筆者が住むパリからの直行便がないため、アムステルダム経由でヴロツワフのニコラウス・コペルニクス空港に向かい、そこからさらに車で東へ1時間半ほど。降り立ってみると空港も街並みも明るく、道路は整備され、新しい車も多く見かけた。途中に見えた工場やスーパーマーケットは新しく清潔で、民家は東側時代のものが多いようだが手入れが行き届いていた。

 

こちらのメインウェポンはチェコのAntreg製ARSM4sにEOTECHホロサイト、SUREFIREウェポンライト、STEINER DBALA3レーザーデバイス等でセットアップ。戦闘服はUFPro製で、ACTinBlackのNVG(暗視ゴーグル)を装備する

 

彼はサブアームとして非常に高価なことでも知られるLAUGO ARMS製のエイリアンピストルを装備していた


 この片田舎を訪れた理由は、新しくオープンした射撃場「Strzelnica Pawłów」取材のためだ。コンセプトは「ヨーロッパ最大の射撃場」。「最大」とは単に規模の大きさだけでなく、多種多様なスタイルに対応し、すべて合法であるという懐の深さも表しているという。スポーツシューティングだけでなくタクティカルシューティングが可能なことも注目点だ。

 

ウォーミングアップとしてスタンディングで少し射撃した後、ダッシュして射撃する

 

車をカバーとして利用しつつ、ターゲットを捉えて射撃

 

スタンディングの後はニーリング、プローンとフォームを変えて射撃し、安定するまで繰り返す

 

 筆者が住むフランスでは、民間射撃場において民間人にタクティカルな射撃や装備は認められていない。スポーツシューティングであってもホルスターを使うのに特別な資格が必要なほどだ。しかし、ポーランドでは民間射撃場においてもフルオート射撃が可能な上、口径の制限もなく24時間いつでも射撃できるなど自由度は高い。ヨーロッパにおいては民間の射撃場でフルオート射撃ができる国は少ないため、国内だけでなく近隣諸国から多くの銃器愛好家たちがやってくる。

 

発煙筒で視界が妨げられる中、見えるターゲットから順に仕留めていく。彼が構えるのはPWS MK 111 MOD 2-Mで、SIG SAUER TANGO-MSR LPVO1-6x24mmショートスコープを組み合わせている

 

メタルターゲットに着弾すると甲高い音が響くので、命中を確認できる


 射撃場に来ていた地元の人に「銃との出会い」について尋ねてみたところ、ポーランドにおいてもエアソフト(エアガンを使ったサバイバルゲーム)はとても人気で、エアソフターは軍や特殊部隊の装備セットアップを模倣し、エアガン用のアクセサリーは本物を揃えるのが主流なのだそうだ。エアガンのカスタムを楽しみ、本物の装備を使用して練習を重ねつつ、やがて実銃の世界に入っていく流れが一般的だという。

 

サプレッサー付きのDaniel Defense Mk.18 Mod.1 に、EOTECHホロサイトとUNITY TACTICAL FASTRiserマウント+SIG SAUER JULIET マグニファイアの組み合わせ。ストレス環境下のスムーズなマグチェンジを体得すべく練習

 

インストラクターでチームKOBEのリーダーであるマティウスが、射撃訓練後の評価を伝える。彼は射撃だけでなく格闘技(護身術)のインストラクターも務める。AR-15 Cobalt KineticsとWalther Q5 SF Championを愛用している

 

プロフェッショナルの訓練に活用


 Strzelnica Pawłówはポーランド陸軍と契約を結んでおり兵士の訓練にも使用されているほか、警備会社や軍事関連企業で働く民間のプロフェッショナルが訪れる場所にもなっている。所属するトレーナーは軍や警察での経験を積んだ者が多く、特殊部隊出身者も含まれる。フリーランスのコンバットトレーナーも定期的に招かれるなど多彩で高度なトレーニングが提供されており、実務に直結するスキルを学べる訓練施設としての役割も果たしている。

 

車輌で移動中に襲撃を受けたというシナリオの一つ。停車した後、素早く降車する

 

参加者はそれぞれホンケルやハンヴィーに分乗して訓練を行なう


 取材日にはオーストリアからプロフェッショナルたちが来訪し、夜間トレーニングを行なっていた。寒冷な気候のポーランドは冬の訪れが早く積雪量も多いため、雪が降る前のこの時期が選ばれたという。サマータイムも終わり日没が早いため夜間訓練には好都合だ。彼らの装備は充実しているようで、中にはラウゴアームズのエイリアンピストルのように非常に高価なものも見られた。ライフルはAR15系のクローンが多く(サプレッサーも使用可)、本気で射撃に取り組んでいる様子が窺えた。

 

チームKOBEリーダーのマティウスはテキサスで行なわれたタクティカルゲームでの優勝経験を持ち、EBSSA(European Bodyguard and Security Services Association)の講習を修了し車輌を用いたVIPプロテクションも熟知する

 

ポーランド軍で使用される汎用車輌のホンケル(HOKER)はハンヴィーに比べて小型でドア開口部も小さく、フル装備での乗降は大変そうだ

 

 この射撃場の設備や訓練内容には様々な工夫が見られる。たとえば、タクティカルトレーニングでは廃車を使用し、実際に撃って遮蔽物として使えるのかどうかを確認する場面もあった。よく知られていることではあるが、一般的な乗用車のドアは一見厚みがあるように見えても大部分は中空で薄い鋼板と樹脂成型部品の組み合わせであるため、ほとんどの銃弾は簡単に貫通してしまう。銃撃戦において車を盾にするのがいかに危険かを実感できた。

 

ハンヴィーから降車して射撃する。こちらの彼はUF Proのウィンターコンバットシャツ、Striker Gen 3 コンバットパンツ、5.11Tactical ブーツ、Mechanixグローブを着用し、5.11 プレートキャリアにはレベル4のプレートを組み合わせている

 

軍や警察での経験を積んだフリーのタクティカルインストラクターも参加


車輌やトレーサーを用いた射撃訓練も


 また、火災リスクがあることからEU諸国の多くで民間使用が禁止されているトレーサー(曳光弾)のデモンストレーションも行なわれた。暗闇でトレーサーの弾道を確認したり、車に着弾させるとどの程度で引火するのかを試したりと、実際に体験できることは大きな強みとなるはずだ。中には初めてトレーサーを使ったという参加者もおり、その効果に驚きを隠せない様子だった。

 

降車後、スタンディング、ニーリング、プローンの各姿勢で射撃する

 

夕闇に包まれる中、トレーサー(曳光弾)を装填したツァスタバM72B1をフルオート射撃する。ユーゴスラビア製のこの銃はRPKのようにも見えるが、ストックはAK47と同様で、バレル周りの形状も異なる

 

 車輌を使ったシナリオでは、走行中に襲撃され反撃に転じる訓練が行なわれた。使用車輌はポーランド軍で使用されているホンケル(Honker)やアメリカ製ハンヴィーなど。狭い車内での動きにくさやフル装備での乗降の難しさを体験し、チームで連携して動くことがいかに重要かを学んだ。

 

 

AK47のポーランド版、wz.1960でのフルオート射撃。こちらもトレーサーを使用している


今後の発展に注目


 なお、Strzelnica Pawłówでは将来的にはヘリコプターを導入し、空中からの射撃訓練を可能にするという壮大な計画が進行しているという。ヨーロッパの民間射撃場においてヘリから射撃できるところはほとんど例がなく、実現すれば射撃訓練施設としての魅力はさらに増すはずだ。

 

ウェポンライトとNVG(暗視ゴーグル)を併用する方法を学ぶ

 

どの程度の明るさでNVGを使うのが適切なのか試せる貴重なチャンスとなった

 

燃える車の明るさが夜目を効かなくして暗闇の中にあるターゲットをより見えにくくするため、インストラクターはそうした環境下での対処方法を指導する


 ちなみに、施設名の「KS KOBE」の「KOBE」は、日本の神戸牛が好きだったことから名付けたという。食文化への敬意と、神戸牛の美味しさが力を与えるというユーモアが込められているそうで、射撃場のロゴなどにも牛のモチーフが見られ、ユニークな魅力を放っていた。

 

燃える車の炎、ウェポンライト、マズルフラッシュ、そしてトレーサーの光が暗闇の中で交錯

 

前掲のWPSM4A1を装備している参加者。その背後では、無数の弾痕が刻まれた車が炎上している

 

 この射撃場は、国内外の射撃愛好家にとって魅力的なスポットであるだけでなく、トレーニング施設としても高い評価を受けている。戦闘射撃術を真剣に追求したい人々にとって、ここはまさに理想的な環境といえるだろう。また、射撃初心者にとっても、プロのトレーナーの下で安全に射撃を学べる環境が整っている。

 

こちらのトレーナーはサプレッサー付きのDaniel Defense製DDM4 PD(.300BLK仕様)を装備。口径は300ブラックアウト。GBRSのハイマウントに装着されたEOTECHホロサイトに加え、EOTECH ATPIAL (AN/PEQ-15)を組み合わせている。ストックはMAXIM DEFENSEのコンバットカービンストック

 

暗闇でのフルオート射撃ではこれだけのマズルフラッシュが発生する。敵に自分の位置を知らせるリスクを改めて理解できるだろう


 もちろん日本人も受け入れており、最新の銃器から歴史的な銃器まで用意され、ヨーロッパの射撃文化を体験できる貴重な機会を提供している。もしヨーロッパ旅行の計画があるならば、ぜひ訪れてみてはいかがだろうか。

 

スモークが立ちこめる中でウェポンライトを使うと、霧の中で車のハイビームが効果を失うのと同様に遮られることが分かる。バディや4人チームでの展開など、より実戦的なトレーニングに移行していく

 

炎上する車を背に、居並ぶ参加者たち。夜間の射撃訓練は危険を伴うため参加者は前側にグリーン、背中側にレッドのケミカルライトを装着し、進行方向を把握しやすくしている


 Strzelnica Pawłówは単なる射撃場ではなく、射撃を通じた学びと成長、そして国際的な交流ができる場として、ますます注目を集めていくことだろう。

 

Text & Photos:櫻井朋成(Tomonari Sakurai)

Strzelnica Pawłów:https://strzelnicapawlow.pl

 

この記事は月刊アームズマガジン2025年2月号に掲載されたものです。

 

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