ミリタリー

2024/09/27

2年に1度行なわれる多国間軍事演習「環太平洋合同演習 RIMPAC24」

 

ハワイ周辺海域で繰り広げられた世界最大級の海上軍事演習

 

ベローズビーチに上陸した海自LCAC。前部ランプより降りて来るのはペルー海軍歩兵部隊のLAV-Ⅱ。日本とペルーによる2カ国間での訓練はこれが初めて

 

 

 2年に1度行なわれる多国間軍事演習「RIMPAC(環太平洋合同演習)」が今年もやってきた。29回目となった今回は29カ国が参加し、うち17カ国が艦艇を、14カ国が陸上戦闘部隊を派遣。海上自衛隊とペルー海軍歩兵による合同訓練、海自特別警備隊も参加した特殊作戦訓練、そして米海軍の空母カール・ヴィンソン艦上におけるF-35Cのオペレーションなどをレポートする。

 


 

ベローズビーチへと上陸してきた海自のエアクッション艇LCAC(Landing Craft Air Cushion)。このビーチは週末には一般開放され、海水浴客で賑わう

 

 2024年6月27日から8月1日にかけ、アメリカ・ハワイ州オアフ島およびその周辺空海域において、環太平洋合同軍事演習「RIMPAC24」が行なわれた。1971年からスタートし当初は毎年開催を目指していたが、その後2年に1度の周期に実施される多国間軍事演習となり、今回で29回目を数えることになった。本演習には29カ国が参加し、うち17カ国が艦艇を派遣。参加艦艇数のトータルは43隻、参加航空機は約150機と、とてつもない数となった。
 もともとは旧ソ連の太平洋進出を阻むため、環太平洋地域の安全保障環境構築を目指した米海軍中心の演習であったが、今では世界から海・陸・空軍および海兵隊も加わる統合演習となっている。顔ぶれも環太平洋地域だけでなく、欧州やインドからの参加もあり、いまや世界最大級の軍事演習となった。RIMPAC24では南米からの参加国も増えており、これまでもチリやメキシコ、ペルーの参加はあったが、さらにブラジル、コロンビア等もオブザーバーとして参加している。

 

訓練実施前に最終打ち合わせをする日・米・秘露(ペルー)の関係者


 日本は1980年より毎回欠かさず参加している。今回は海上自衛隊の護衛艦「はぐろ」、輸送艦「くにさき」、P-1哨戒機、第2特科団・第5地対艦ミサイル連隊が参加した。
 なお、前回から海自が毎年実施している「インド太平洋方面派遣IPD」の一環として、「RIMPAC」を含めることになった。「IPD24」については4つの水上艦艇部隊等を編成し、5月3日から12月15日の間、主として太平洋地域を巡っている。
 

米海軍のドック型輸送揚陸艦LPD-25サマセットから発進したLCACが同じくベローズビーチへ。米海兵隊のLAV-25を積載していた

 

 それが、第1水上部隊・輸送艦「くにさき」、第2水上部隊・護衛艦「ありあけ」「はぐろ」「いずも」、第3水上部隊・護衛艦「のしろ」、第4水上部隊・護衛艦「かが」、そして哨戒機P-1による第1および第2航空部隊、艦名は非公開の潜水艦部隊、そして海自の特殊部隊である特別警備隊(SBU:Special Boarding Unit)からなる派遣特別警備小隊という陣容だ。
 この中で「くにさき」と「はぐろ」は、編成上異なる部隊であるが、太平洋上で合流しハワイへとやって来た。「おおすみ」型輸送艦が、RIMPACに参加するのは今回が初めてとなる。また海自SBUも米海軍特殊部隊SEALs等と訓練を行なうため、別ルートでやってきた。

 


 

日本とペルーの軍事パートナーシップ強化

 

今回の訓練に参加した、独特な迷彩服が印象的なペルー海軍歩兵たち。海上での訓練に備え、首周りにライフプリザーバーを装着している。みな若く、フレンドリーだった。ここで学んだことは、今後のペルー海軍にとって財産となるはずだ

 

 演習期間中は各国で対艦・対空・対潜戦訓練、そして地上戦闘訓練、HADR(人道支援・復興援助)訓練、特殊作戦訓練、実弾射撃訓練等が行なわれていく。艦艇による洋上での訓練が主となるが、オアフ島のベローズ空軍基地では各国陸上部隊による訓練が連日行なわれていた。この基地は観光地として名高いワイキキから車を東へと走らせて約1時間、海兵隊カネオヘ基地に近い場所にある。1917年に開設され1932年に陸軍航空隊の飛行場となったが1958年にその役割を終え、現在では空軍のレクリエーション施設と海兵隊の訓練施設が同居している。上陸訓練ができるビーチや市街地戦闘訓練場も併設されているため、使い勝手が非常によい。なお、このビーチは週末限定で一般開放されている。

 

ビーチングした海自LCACからペルー海軍歩兵のLAV-Ⅱが降りてくる。ランプと砂浜との段差を埋めるため、スロープが設置され、操縦手は海自クルーの誘導に従いながら脱輪しないよう慎重に操縦していた


 7月18日にはこのビーチで、海自とペルー海軍歩兵部隊による初めての着上陸訓練が行なわれた。訓練内容は「くにさき」搭載のLCACにペルー海軍歩兵部隊の車輌を搭載し、揚げ降ろしを演練するというものだ。
 ペルー海軍は「太平洋作戦司令部」「アマゾン川作戦司令部」「沿岸警備・港務局」の3つの組織からなる。中核となるのが「太平洋作戦司令部」であり、ここに水上戦闘艦艇や潜水艦、各種支援艦が配備されているほか、海軍歩兵旅団も編成されている。
 ペルー海軍歩兵は便宜上Marines(海兵隊)と表記されることもあるが、正式名称は「Infanteria de Marina del Peru」であり英訳はNaval Infantry(海軍歩兵)だ。となると、日本語訳は前述のように「海軍歩兵」とするのが正解だ。歴史は古く、創設は1821年。人員は約4,000名で、歩兵大隊のほかに特殊部隊も編成されている。

 


 ペルー海軍は海軍歩兵のRIMPAC派遣部隊を特別編成し、持ち込んだLAV-Ⅱを海自LCACに搭載した。海自側もRIMPACでLCACの揚陸訓練を行なうのは初めてで、ペルー海軍側についてはLCACによる揚陸訓練自体が初めて。訓練に参加したペルー海軍歩兵幹部は「RIMPACでは、珍しいことばかり経験した。各国の大型揚陸艦で研修し、こうして初めて日本のLCACで訓練している。これはペルー海軍の発展に大いに役立つはずだ」と語った。
 多国間軍事演習という枠組みの中ではあるが、太平洋を隔てて15,000kmも離れた日本とペルーが一緒に訓練した意味は、非常に大きい。

 


 

HADR訓練/12式地対艦誘導弾による射撃

 

ペルー海軍歩兵の主要装備であるLAV-Ⅱ装輪装甲車。以前はポルトガル製のブラビア・チャイミテ(アメリカのキャデラック・ゲージ製コマンドーのコピー品)、スペイン製のペガソBMR-600を配備していたが、2016年に一気に更新。現在32輌を配備する

 

車体に描かれたペルー海軍のマーク

 

 洋上での訓練のほかにも実に様々な訓練が行なわれた。今回は14カ国から陸軍や海兵隊、海軍歩兵等が参加していたので、ベローズ空軍基地内にある市街地戦闘訓練場では連日各国の陸上部隊による訓練が実施されていた。

 

砂浜を走る前にタイヤの空気圧を調整。オンロードとオフロードでは常に切り替えるそうだ

 

車内。左右向かい合わせのベンチシートが配置されたシンプルなデザインだ。荷物は中央部に重ねるように置く


 かつては、日本の陸上自衛隊も水陸機動団(西部方面普通科連隊時代含め)を派遣し、米海兵隊をはじめ各国軍との着上陸訓練や実弾射撃を伴う野戦訓練まで実施していたことがある。

 

海に面したバーキング・サンズの太平洋ミサイル試射場より射撃を行なう陸自第5地対艦ミサイル連隊の12式地対艦誘導弾(12SSM)。標的は2011年に退役したドック型揚陸艦「ダビューク」(Photo:U.S. NAVY)


 RIMPAC24では、3月に新編されたばかりの第2特科団から第5地対艦ミサイル連隊を派遣。カウアイ島にあるバーキング・サンズの試射場より海上の射爆場PMRFへ向けて12式地対艦誘導弾を発射した。

 


 また今回はHADR(人道支援・災害救援:Humanitarian.Assistance/ Disaster Relief)訓練の一環として、海中に沈んだ重量物を引き上げる訓練が行なわれた。実際にブイを海中に沈めそれを回収するというもので、米沿岸警備隊および韓国海軍のUCT(Underwater Construction Team)ダイバーたちが参加した。

 

HADRの一環として米沿岸警備隊ホノルル基地で行なわれた、米韓のダイバーによる訓練。米沿岸警備隊からは女性ダイバーも参加した

 

潜ったのは米沿岸警備隊2名と韓国海軍UCT1名。沈めた巨大なブイに水中でワイヤーをつなげ、最終的にクレーンで引き上げるまでの作業を訓練した

 

 なお、韓国海軍においてUCTは各種の水中作業を担う工兵部隊であり、特殊部隊に準ずるUDT(Underwater Demolition Teams)とはまったく異なる組織である。

 

ブリーフィング中の米韓ダイバーたち。ここまで本格的な訓練は初めてだという

 

UCTダイバーが来ていたTシャツ。ハングルで「海軍水中工兵チーム」と書かれている。UCTの韓国語名だ

 


 

海自特別警備隊が参加 特殊作戦訓練

 

べロース市街地戦闘訓練場にて特殊作戦訓練を行なう海自特別警備隊(SBU:左から1番目と3番目)と米海軍特殊部隊SEALs(左から2番目)、そしてインド海軍特殊部隊MARCOS(右から1番目と2番目)の隊員たち。彼らが装備しているアサルトライフルを見てみると、海自特別警備隊の隊員がHK416A2(10インチ)にSTEINER製DBAL-A3IRレーザーイルミネーター(AN/PEQ-15A)、Surefire製ウェポンライト、Aimpoint CompM5+3X Mag-1の組み合わせ。HK416A2はガスブロック前方に折畳式フロントサイトが装着された比較的初期のモデルで、水陸両用作戦を想定し排水性を高めるなど改良を施したOTB(OverThe Beach)仕様である。米海軍SEALs隊員はMk18 Mod1にサプレッサーとAN/PEQ-16、EOTECHホロサイトの組み合わせ。印海軍MARCOS隊員はブルパップ式のTAVOR X95 FLATTOP419に、レーザーポインター付きリフレックスサイトのMEPROLIGHT製MOR PROの組み合わせとなっているのが確認できる
(Photo:U.S. NAVY)

 

 

米海兵隊員と共に市街地戦闘訓練に参加するベネズエラ海兵隊員。周囲を警戒し、敵が潜伏する建物を次々と制圧していく。手前のベネズエラ海兵隊員が構えているM16A1は、訓練用ダミーガンのようだ(Photo:U.S. NAVY)

 

 ここ数回のRIMPACで必ず行なわれているのが、特殊作戦訓練で、海上自衛隊の特別警備隊(SBU)も参加している。もちろん報道陣には完全非公開だが、米軍側はいくつかの写真を公開した。そこには、ベローズ市街地戦闘訓練場での各国特殊部隊の共同訓練や、ラダーを使った船舶へのエントリー訓練などの様子が写っていた。日本側がこうした訓練中の写真を公開することは滅多にないので、これもRIMPACならではと言える。

 

ラダーを使って複合艇より船舶に乗り込む訓練に参加する海自特別警備隊の隊員。彼らは今回陸自迷彩の戦闘服を着用している。その周囲では他の隊員たちが周辺警戒し、ボーディングする隊員をサポートしている(Photo:US NAVY)

 

米海兵隊員と共に行動するインドネシア陸軍兵士。RIMPACにおいて米軍は東南アジア諸国の陸軍および海兵隊に戦術指導を行なっている(Photo:U.S. NAVY)

 


 

空母カール・ヴィンソンで新鋭艦上戦闘機F-35Cを見た!

 

カール・ヴィンソンに着艦するF-35C。CVW-2(第2空母航空団)の中で、VFA-97(第97戦闘攻撃飛行隊)「ウォーホークス」のみがF-35C装備部隊で、2021年より機種転換を開始している

 

 多国間演習の中核を務めるのはもちろん主催国であるアメリカだ。今回も実に多種多様な艦艇を参加させている。その中で中心的役割を果たしたのがニミッツ級空母の3番艦に当たるCVN-70「カール・ヴィンソン」だ。母港をカリフォルニア州サンディエゴ・ノースアイランド基地に置き、主としてインド・太平洋方面を担当している。何度も来日しており、日本でお馴染みの空母といえる。

 

空母艦上におけるすべての航空機の発着艦許可および航空管制全般を受け持つAirBoss(航空士官)

 

飛行甲板で作業を行なうデッキクルーたちのシャツは任務ごとに紫、青、緑、黄、茶、赤、白の7色に色分けされている。写真の黄色いクルーたちは発着艦関連の作業全般を行なう


 これまで数々の実任務や訓練を重ねてきた「カール・ヴィンソン」であるが、その中でも衝撃的だったのが、イスラム過激派組織アルカイーダの首謀者であるウサーマ・ビン・ラディン殺害を目的とした「ネプチューン・スピア作戦」の一翼を担っていたことだろう。

 

前脚をカタパルトに接続され、発艦直前のF-35C。後方にはジェット・ブラスト・ディフレクターが立ち上がっている。パイロットだけでなく、デッキクルーにも緊張感が走る瞬間

 

コクピット上で発艦を待つF-35Cパイロット。艦載機型であるC型は艦上運用のため機体構造や降着装置の強化、折畳式の主翼、主翼・尾翼周りの大型化などがなされている


 パキスタンに潜伏中だったビン・ラディンを米海軍特殊部隊DEVGRUが急襲し、殺害。その遺体をアラビア海に展開していた「カール・ヴィンソン」まで運んだ。そして遺体を清め、艦載機用エレベーター上から海に投じて水葬したという。
 艦載機部隊を務めるのはCVW-2(第2空母航空団)だ。この部隊には現在F/A-18E/FスーパーホーネットおよびF-35CライトニングIIが配備されている。今後はすべての艦載機をF-35Cに更新する方針のようだが、現在はVFA-97(第97戦闘攻撃飛行隊)「ウォーホークス」の1個飛行隊のみ。

 

発艦したF-35C。いずれ、米空母の艦載機はF-35C一色となるのか、はたまた完全無人化を目指す未来もあるのか、興味は尽きない

 

VFA-192(第192戦闘攻撃飛行隊)「ゴールデンドラゴンズ」のF/A-18Eの着艦。この部隊の機体番号は300番台となっている


 南シナ海や日本周辺海域、そして台湾周辺海域にて、中国軍は恫喝に近い行動をとっており、特に台湾やフィリピンにおいては、いつ有事となってもおかしくないとまで言われている。こうした脅威に応じて、米海軍はこれまでプレゼンスを示すため空母を派遣してきた。こうしてアジア・太平洋地域が混沌としているからこそ、「カール・ヴィンソン」が今後も日本に来る可能性は高そうだ。
 こうして海上、陸上において様々な訓練が実施され、RIMPAC24は予定通りすべての課目が終了し閉幕となった。

 

Text & Photos : 菊地雅之

 

この記事は月刊アームズマガジン2024年11月号に掲載されたものです。

 

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