2019/04/21
無可動実銃 M16A2の魅力
鋼鉄とグリスの匂いが漂う至高の浪漫
この国では、軍用銃を撃つことはおろか触れることすら難しい。故に軍用銃に対する評価は誰かの言葉の受け売りに偏ってしまう。だがその銃の真の価値を知っているのは、その銃で戦った戦士だけではなかろうか。銃の傷ひとつひとつが戦士の記憶だからこそ、無可動実銃に触れることは、戦士の記憶と自分を重ねられる崇高な儀式ともいえるのだ。
キング・オブ・アサルトライフル
M16を延命させるための大改修
M16A2は老朽化したA1から全面的に改修されたモデルだ。使用する弾薬が従来のM193からM855へ変更されたため、最終的にはアメリカ全軍で採用された。
ボディーアーマーが世界中で採用されるようになると、M16が使用するM193弾は弾頭重量が軽く、有効射程距離の300mを超えてからの威力が低下するのが問題視されていた。そこで防弾素材への貫通力を増すスチール弾芯を採用し、弾頭の重量を増やした新型弾M855を新たに採用。それまでのM16A1のライフリングのピッチでは有効な回転を弾頭に与えることができないため、新型のバレルに交換する必要があった。同時期に老朽化と性能向上のためにM16A1の改修を計画していた海兵隊が中心となって開発を行なった。新型のM16は、M16A1E1と仮称され、1982年12月にはM16A2として米軍に制式採用された。1984年3月にまずは米海兵隊から配備が開始され、米軍全体のM16/M16A1からM16A2への更新は、1990年代始めに完了している。
ピボットピン下部が直角で、レシーバー後端部の膨らみがないコルトM16A2ロールマークの入った、A1スタイルレシーバー。この特徴はグアテマラ輸出型に見られる。なんとこの型は映画『ブラックホークダウン』の撮影で使われたプロップガンとまったく同じ特徴を備えているのだ
バレルに刻印されている「C MP 5.56 NATO1/7」の文字は、「C」がコルト、「MP」が強度テスト合格のプルーフマーク、「5.56 NATO」が適合弾薬名、「1/7」が7インチで1回転という意味になっている
M16A2の初陣は湾岸戦争だった。バトルプルーフされたM16A1を進化させたA2は中東のような開けた戦場で最大の効力を発揮した。それはアメリカ軍だけでなく、SASに代表される他国の特殊部隊員が自国の小銃に見切りをつけ、あの手この手でM16A2を入手して使用したほどだ。ミニミ軽機関銃の20インチバレルに適した弾薬を使用していたのもあり、同じ銃身長を持つA2なら当然の選択だったのだろう。
もう1つの大きな変更点がフルオートを廃止してバースト機能を採用したことだ。混乱する戦場では多くの兵士が興奮状態に陥り、フルオート射撃を行なってしまい、無駄な乱射や予期せぬ弾切れを起こしていた。バースト射撃の採用はこの混乱による無駄撃ちを防ぐために採用された。
A2タイプのリアサイトは完成当時「ニュー・ターゲットスタイル・リアサイト」と呼ばれていた。現在はこの名称は使われず、単に「A2サイト」と呼ばれ、ARのスタンダードサイトになっている
ハンマー内のカム歯車によって制御されるバースト機構は、トリガーを引く度にフィーリングが変わる、バースト射撃中にトリガーを離すとカムがリセットされず、次のバースト射撃では前回のバーストで発射されなかった分を撃ってからでないと3点バーストにならない、といった点が兵士には不評だったようだ。陸軍や海軍ではフルオート機能になったM16A3やM4A1に移行していったが、戦地へ真っ先に向かう海兵隊では今でも過去の教訓をもとにバーストモデルのM16A4を採用し続けている。
また、左右で入れ替えのできなかったハンドガードも、CAR15と同様に上下で同じ物を使用できる丸型に変更されるなど、現在のM4シリーズと共通する改良も随所に行なわれた。
フルオート射撃を抑制し、弾薬切れ防止と銃への負担を減らし、耐用年数を延ばすために採用されたバーストモードもA2の特徴だ
左側のチェッカーだけが磨り減っている使い込まれたグリップ。使用者が左利きだと物語っている
外見ばかりの改良だけでM16シリーズは現在まで使用され続けた訳ではない。むしろ現行のバレルのままでも威力や命中精度を向上させる弾薬の改良こそが重要であり、その意味でもM16A2は重要なモデルだ。2000年代以降はアフガニスタン、イラク等で得られた戦訓に基づき、フルサイズに代わる主力ライフルとしてM4カービンに更新されていったが、射程距離・精度を重視する海兵隊では、陸軍がM4へほぼ全面移行してからも、歩兵を中心にフルサイズを使用し続けている。
DATA
M16A2 自動小銃(#8118391)
- 全長:1,000mm
- 口径:5.56mm×45
- 装弾数:20/30発
- 価格:¥453,600
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TEXT:IRON SIGHT
撮影協力:バトルシティ
この記事は月刊アームズマガジン2019年5月号 P.98~99より抜粋・再編集したものです。