2024/05/21
次期LAVの座はどちらに? 陸自軽装甲機動車後継候補 イーグル vs ハーケイ
GDELS EAGLE vs THALES HAWKEI
イーグル vs ハーケイ
次期LAVの座はどちらに?
2024年2月中旬頃から目撃情報が上がっていた陸上自衛隊の軽装甲車の後継候補であるイーグルとハーケイの姿を捉えた。それぞれどういった車輌で、陸自はこれらを使って何をしているのかを見ながら、次期LAVの様々な可能性について考察していこう。
GDELSの“イーグル”
まず紹介するのがイーグルだ。こちらはスイスのモワク(現GDELS)が開発した軽装甲車である。全長5.37m、全幅2.16m、全高は2mとなっていて、5.9リットルの直列6気筒ディーゼルエンジンを搭載。シャーシは1994年からスイスで運用されている同社のデューロという汎用トラックの物が使われている。その一方で、初代のイーグルⅠは米軍で使用しているハンヴィーと同じシャーシを使っていたことでも知られている。車体後部に搭載スペースが確保されているため、後付けで様々な装備を乗せることもできるのが特徴だ。
気になる耐弾性能は、NATO加盟国間で共通の装備規格(STANAG)のレベル3で、30m離れた位置から発射された7.62mm×51AP弾(炭化タングステン弾芯のM993徹甲弾等)を防ぐことができる。また、強烈な爆風を発生させる対戦車地雷にも耐えることが可能で、具体的にはホイールと車体下部中央が耐爆仕様になっている。
タレス・オーストラリアの“ハーケイ”
対するハーケイとは、タレス・オーストラリアが製造した軽装甲車だ。全長5.8m、全幅2.4m、全高2.3mとサイズ的にはイーグルよりも少し大きい。なお、搭載するエンジンは3.2リットルの6気筒ターボチャージャー付きディーゼルエンジンだ。
イーグル同様に、輸送や偵察、指揮、電子戦など様々な任務への投入が可能で、対爆発物防護性能に優れている。耐弾性能に関してはイーグルがSTANAGのレベル3なのに対し、ハーケイはレベル1になっているため、耐弾性能ではイーグルに軍配が上がることになる。しかし、これらの装備は仕様の変更によって変化するため、陸上自衛隊が初期値の性能で導入するのかは現時点では不明だ。
なお、注目すべきは、双方ともに国産車ではないという点である。
ライセンス生産の可能性
イーグルは丸紅エアロスペースが代理店となり、ハーケイは三菱重工業が代理店となっている。近年の調達でいえば、輸送防護車は8輌のみの配備のため完全輸入、19式装輪155mm自走榴弾砲は試験車輌を輸入し、量産車は車体を日本製鋼所がライセンス生産している。また、次期装輪装甲車として選定されたパトリアのAMVも日本製鋼所がライセンス生産をすることになったため、調達数が少なければ完全輸入、調達数が多ければ国内でライセンス生産が行なわれると考えてよいだろう。
そうなると、丸紅エアロスペースはいわゆる商社であるため、自前の製造ラインは持っていない。そのため、仮にイーグルが採用された場合には完全輸入になるか、あるいは、どこかの企業と共同して国内でライセンス生産を行なうのかもしれない。ハーケイが選択された場合は、三菱重工業は自前の製造ラインを作ることができるため、国内におけるライセンス生産となるだろう。それを示唆するように、ハーケイのボディには陸自迷彩が施され、グリルにはすでに三菱のマークが取り付けられている。これは、三菱重工業の本気度を示すサインとも受け取れるだろう。
とはいえ車輌の性能に関してならば、両者ともに似ていると言ってよい。オプションの選択によっては、性能差はほとんどなくなるはずだからだ。
価格と調達スピードはどうなるのか
その一方で、今回目撃された試験用車輌調達のための契約金はかなり異なる。
契約日は両者ともに2022年の3月になるが、三菱案のハーケイが1輌で約7億7,400万円なのに対し、丸紅案のイーグルは2輌で約5億2,210万円(1輌あたり約2億6,100万円)となっており、単純に1輌あたり5億円以上も開きがある。なお、この価格差に何が含まれているのかは判明していない。ただし、実際の車体の調達価格自体は両車ともにおおよそ1億円程度と考えられるため、上記の価格には工具や部品、その他の輸入に係る費用などが含まれているのだろう。
とはいえ、陸上自衛隊と航空自衛隊に配備されている約1,900輌の軽装甲機動車をすべて置き換えるとなると、調達価格が約3,000万円の軽装甲機動車を、約1億円の後継車輌で置き換えることになるため、相当の年月を必要とするはずだ。
“勝者”はどちらに?
このあたりの調達スピードも非常に気になるが、調べているとさらに気になる情報があった。それが「軽装甲機動車の後継装備品(第10次試験)耐爆試験計測」だ。
これは、後継軽装甲機動車の実用性確認試験の一環として行なわれるもので、耐爆試験計測器材の診断整備や耐爆試験計測に関する技術援助の公示が発表されている。それに伴い、車内に乗せるであろう「人体ダミー」も同時に調達された。つまり、イーグルは2輌中1輌、ハーケイは調達した1輌が耐爆試験のために爆破される可能性があるということだ。仮に実車を使った試験の場合には、今回目撃された車輌が使われることになるため、これらの車輌は今後、我々の前に姿を現すことはなくなるだろう。
ちなみに、どこまで実用性試験を行なうのかは不明だが、同時進行で行なわれ、調達が決まった「共通戦術装輪車」も第10次試験まで実施されている。つまり、次期軽装甲機動車の実用性試験も第10次までである可能性が高いと考えられる。
ここからはあくまでも筆者の個人的な推測と憶測だが、次期軽装甲機動車は三菱重工業が代理店となっているハーケイに決まる可能性が高いだろう。
両車ともに、日本の道路交通法に適合した部品の取り付けなどが行なわれているように見える。その一方で、ハーケイはフロントガラス上部に発煙弾発射器を搭載するなど、自衛隊仕様への改修が行なわれているのも確認できる。
さらには前述した通り、試験用のハーケイにはすでに陸自塗装が施され、三菱マークまで入っている。次期装輪装甲車事業で三菱はパトリアに敗退したため、次こそは選定されたいと考えているハズだ。また、契約に係る情報にある「随意契約によることとした会計法令の根拠条文及び理由」の項目において、三菱案はしっかりと明記されていたものの、丸紅案に関しては三菱案のコピペであった。単なる事務的なミスだと信じたいが、こうなってしまうと丸紅案はいわゆる「当て馬」の可能性も捨てきれない。
最終的にどうなるのかは不明だが、約1,800輌も陸自に採用され、陸自の顏ともなった軽装甲機動車。新たな陸自の軽装甲機動車がどんな「顏」となるのか、今から非常に楽しみである。
TEXT & PHOTOS : 武若雅哉
この記事は月刊アームズマガジン2024年5月号に掲載されたものです。
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