実銃

2023/09/03

【実銃】今流行りのピストルカービンの先駆け「Luger P08」アーティラリーモデルの内部構造を徹底解説!【中編】

 

  Luger  
Lange Pistole 08  1917 DWM Artillery Model

 

 

 両大戦を通してドイツ軍にサイドアームとして使用され、そのデザイナーGeorg Lugerの名前から“ルガー”として世界中に知れ渡っているのが、独特のトグルロックショートリコイルアクションを持つ“P-08”だ。そのドイツ国内における名称は“Pistole Parabellum”だが、1908年にドイツ陸軍が定めた採用名“P-08(Pistole 08)”の名称の方がよく知られている。
 今回は第一次大戦期、ドイツ軍が砲兵などに支給したLange Pistole 08、いわゆるアーティラリーモデルにスポットを当て、その驚きの性能をお伝えしたい。

 

 

▼前編はこちら▼

【実銃】100年以上前の名銃。ピストルカービンの先駆け「Luger P08」アーティラリーモデル【前編】

 

 

 


 

 1917 DWM LP-08 

 

 

酷使された感のあるマズル部分。ライフリングのダメージも垣間見える。この2点ホールのスクリューを回転させると、フロントサイトのブレードを左右にアジャストすることができる。前部に目安となる目盛りがある

 

 今回のレポートでは、手元にある1917年にDWM(Deutsche Waffen und Munitionsfabriken:ドイツ兵器弾薬製造会社)によって製造された200mm銃身を持つLP-08(Lange Pistole:ランゲピストーレ:ドイツ語で長いピストルを意味する)にスポットを当ててみたい。

 

1917年製を誇示する刻印。各パーツには、シリアルナンバー“4075”の下二桁、75が刻印されている。タンジェントサイトの数字からチェッカリング、リアサイトブレイドの形状まで、あくまでも几帳面に造り込まれている

 

リアサイトのVノッチから突き出た山型のフロントサイトブレード。現代の感覚からすると、少々狙い難い。リアサイトブレードにまで、パーツ#75が入る


 1893年にリリースされた元祖トグルアクションピストルである“ボーチャードピストル”や、それをジョージ・ルガーが改良し、スイス陸軍に制式採用されたM1900(.30Luger口径)、かの有名なドイツ海軍のP-04(9mmPara口径)ネイビーモデルを始めとして、そのアクションやデザインの変遷を追いかけていると、1冊の本ができてしまう。ルガーはそんなピストルだ。

 

チャンバーにエンプティケースを装填してみた。ローデッドインジケーターがせりあがっている


 LP-08は1913年にフィールドアーティラリー(野戦砲兵)が偵察騎馬兵などから身を護るために開発されたピストルカービンである。

 それまではボルトアクションカービン(短小銃)が配給されていたが、いくら短いとはいえ、重いライフルを背負っての砲兵作業には無理があった。そこで、肩から腰に掛けて装着できるデタッチャブルストックを兼ねるホルスターを備え、600m以内の有効射程を持つピストル口径のカービン銃ということで開発がすすめられたのだ。

 

エキストラクター/ローデッドインジケーターにある“GELADEN”はローデッドという意味だ

 

セイフティを押し下げると、この75の刻印が入ったバーがせり上がり、トリガーバーをブロックし、“GESICHERT(SAFE)”の文字が現れる

 

 9mmパラで600m? と思われるかもしれないが、当時の記録によると200mm銃身によって銃口初速の上げられたLP-08によって、400m先の馬の頭蓋骨とフランス軍のヘルメットに穴を穿つことができた、と記されている。

 

通常分解はセイフティチェックから。チャンバーとマガジンがエンプティなのを目視確認する

 

空マガジンをインサートし、トグルをホールドオープンさせる

 

 完成されたLP-08は、銃身上に800mまでアジャストできる(!)タンジェントサイトが備えられている。第一次大戦(WWI)が勃発した1914年には支給が始まり、1918年の終戦までにDWMから約150,000挺、ERFURT(エルフルト)社からは約23,000挺(1914年のみ)が製造されている。

 

ロッキングボルトを下方向に90°回転させる

 

トリガーサイドプレートを、後方を支点にして持ち上げる

 

 今回のLP-08はDWMによって1917年に製造されたシリアル#4075という個体だ。いわゆるマッチナンバーと呼ばれるオリジナルパーツのそろっているもので、アクションなどウルトラスムーズだが、保存状態に少々難があり、バレル周りのフィニッシュやライフリングの谷側に錆びた跡が残っている。

 これはサープラス弾などのコロッシヴ(腐食性)残滓を完全にクリーニングしないでいると起こってしまう現象で、厳密にいうと精度にも影響が出てくる。

 

内側はこうなっている。繊細なパーツが多い

 

トグルをやさしく引いて、レシーバー全体を前にスライドしてゆく


 マガジンはこのWWIまでの、木製マガジンベースとニッケルフィニッシュのマガジンチューブを持つオリジナルが付属している。願わくはオリジナルの木製ストック/ホルスターが欲しいところだが、残念ながら紛失してしまっている。それでも出来の良いレプリカのボックスホルスター/ストックがあるので、装着してテストもできる。

 

トグル内側のカップリングリンクというパーツが引っかからないように注意する

 

この状態で天地を逆にすると抜きやすい


 通常分解をしてみると、その程度の良さには驚いてしまう。まず工作というか組み立て精度がすこぶる高く、ブリーチブロック(レシーバー内を前後するボルト)、レシーバー、トグルリンク、フレームといった可動部分に全くと言っていいほどガタがないのだ。100年以上も前の工業製品というのが信じられない精度と言っていい。

 

この人差し指が触れているパーツがカップリングリンクだ。メインスプリングとリンクする

 

このレンチで指している部分にカップリングリンクが掛かるようになっている。フレーム内部の機械加工も工芸品のようだ

 

 当時の機械加工における工作精度は高いとは言えないので、これはそのほとんどが熟練工の腕前にかかっていたということだ。ホールドオープンしたトグルをゆっくり戻すと、バレルランプの手前1cmほどの場所で一旦止まる場所がある。ここからトグルの頭をそっと押してやると、「シュパン!」と、精密なロックが閉じるように、発射準備が可能となるのだ。

 

レシーバーとトグルリンクをつないでいるピンを抜く。レンチのプラスティック部分でやさしく後方から押し出してやる

 

ピンを抜くとトグルがフリーになる

 

 トリガープルは重く、どこで切れるのかはっきりしないので、慣れないとコントロールが難しい。手元のLymanトリガープルゲージで測ってみると、10回の平均が7.8ポンド(3.5kg)以上もある。それでもそのストロークは短く、リセットもはっきりしているので、トレーニング次第ではかなりの上達が見込めそうだ。

 

トグルリンクとブリーチブロックを抜き取る

 

グリップスクリューを緩めると


 そして何よりも凄いのが、着脱式ショルダーストックの存在だ。以前アリゾナにいたころ、ブラウニングハイパワーのストック付きを所有していたことがあるが、50ヤードにおける13連射が、すべてシルエットターゲットに収まってしまったのに驚いたことがある。やはり中距離以上で両手保持だけでなく、肩でサポートできる3点保持だと飛躍的に射撃精度が上がるのだ。

 

メインスプリングが現れる

 

 LP-08は200mm銃身というだけでなく、基本的に銃身が固定されている(前後には移動するが)ので、かなりの精度が期待できる。800大袈裟としても、数百mまでならばかなり密な弾幕を張ることができるのではないか。実射が楽しみとなった。

 

通常分解。ブリーチブロック後方にあるファイアリングピンスプリングガイドは、後方からマイナスドライバーを入れて押して回すると抜けてくる。それでファイアリングピン(ストライカー)が抜けてくる

 

続きはこちら

 

Photo&Text:Hiro Soga

 

この記事は月刊ガンプロフェッショナルズ2021年8月号に掲載されたものです

 

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